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ランドマイン  作者: 淡月 涙
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『枯れる世界』

イズは、知らない地でその人と一緒にいた。確か彼は、磔にされていた人だ。とても綺麗で女性と見紛う程の美しさを放っていた。通り過ぎる者は皆、振り返っていく。只でさえ賑わいが激しい中で目立つのは控えたかった。

「君が、畏まる事じゃないよ」

イズの視線に気付いてか、彼は優しく声をかけた。

「いや・・・皆が見るのも無理ないかなって・・・」

「見られるのは嫌じゃないけどね・・・。でもこの姿は偽者だから」

「えっ・・・」

「そういえば、まだ名前聞いてなかったね。ボクは透韻。君と一緒にいた、リンと創葉の父親なんだ」

「えっ!?父・・・?」

見た目の若さからはとても想像が付かなかった。

「うん。信じられないよね」

「全然・・・解んなかった・・・」

「――少し、休もうか」

二人は休息を取る為、通りかかった宿に入った。丁度部屋が一つ空いており、すぐに体を休める事が出来た。

「聞きたい事、いっぱいあるでしょ?」

「・・・まぁ、色々と」

「いいよ。何でも聞いてくれて構わないから」

「じゃあ、何で父だとか言ったの?どう見てもあの二人とそう変わらない気がするんだけど」

イズは強気で言った。

「ボクは、本当なら久住と同い年だ。けど、久住はボクにある実験をしたんだ」

「実験?」

「不死鳥って知ってる?」

「死なない鳥の事でしょ?でもそれは伝説って」

「いたんだよ、実際に。久住は囚人を餌にして不死鳥を仕留めた。不死鳥の心臓を食べれば永遠の命と老いない美しさを得られる。あいつは其をボクに食べさせた。酷いものでね、身体が壊れる位の痛みを伴った。気付いた時にはこの姿になってたんだよ」

俄には信じられない話だった。そんな事があっていいのだろうか。

「――ボクの話はこれくらいにして。今度は君の番」

「・・・僕はイズ。幼い時に家を焼かれて家族は死んだ。兄は捕まっちゃって、助かった僕は一人で生きてきた。兄さんに会えた時は凄く嬉しかったよ」

イズは笑みをうかべながら語った。

「苦労してるんだね。そのおにいさんって・・・」

「遊音だよ。今は離れちゃったけど、絶対迎えに来てくれるって思うんだ」

「そうだね。また、皆に会いたいね」

透韻は空を見上げながら呟いた――。






数時間前――

久住は妙にリンに執着している様だった。この日も拷問をするからと檻から出るよう言われたが彼女は強く拒み、泣きながら叫んだ。

「ヤメテ!」

歌った訳ではないのに、久住の動きが止まり頭を抑えていた。

「っ・・・!その声が邪魔だ!来い!」

久住は無理矢理彼女を檻から出させ、平手打ちした。

「何してんだよ!」

佐月が思わず口を出す。

「女叩くなんて最低だな」

「フン。大した痛みじゃないだろう。こいつは売り飛ばす。お前らとはお別れだ」

「うそ・・・」

「私に逆らうとこうなるんだよ」

「久住・・・!」

背後から息を切らせた神流が現れた。

「部屋にいろと言ったはずだ」

「ごめんなさい・・・。でも、その子はあたしの・・・!」

「神流。私に逆らうのか?」

その目は少女を捕らえて離さなかった。

「・・・売り飛ばすなんて・・・やり過ぎだと・・・」

「ほぅ。そんなにこいつが大事か。なら、お前も道連れだ」

久住は躊躇う事なく神流にも鎖を付けた。

「一緒なら文句ないんだろう?」

「久住・・・」

「連れていけ」

黒服達が二人を乱暴に引っ張りながら去っていった。

「神流まで・・・」

「あいつは充分役目を果たしてくれた。お前達に会う事はもうない」

其だけ言うと久住も暗闇の中へと消えて行った――。







ドンッ――と強い力で突き飛ばされ、イズは尻餅を着いた。透韻の美しさに声を掛けてきた輩がいきなり二人を路地裏に連れていき、透韻に手を掛けたのだ。

「やめろ・・・!」

「うるせぇよ、ガキが!テメェは大人しく見てな」

イズの力では正直立ち向かえない。透韻は抵抗もせず彼らの好きなようにさせている。

「こんなに綺麗なら、この際男でも構わねぇ」

「――やめといた方が良いよ」

透韻は静かに忠告した。だが、男達は聞きもせず服を脱がそうと必死だった。

「やめろよ!」

見るに耐えられなかったイズは男にしがみつき、動きを止めようとした。

「邪魔だっつってんだろ!」

ザシュッ――

取り出したナイフによってイズは腕に切り傷を負った。大した怪我ではないが地味に痛い。

「――あーあ。傷付けたね?」

「あ?なんだよ」

「一回は言ったからね」

透韻は彼等を見据え、ナイフを持っている男の腕を掴んだ。その瞬間、男の身体が溶けていくのが見えた。

「なっ、なんだよこれ・・・!」

「ボクの能力だ。君達の栄養分を搾り取る事が出来るんだよ。カラッカラになってみすぼらしく死に絶えればいい。彼を傷付けた罰だよ」

みるみる内に男達の体は干からびていく。透韻の能力を間近で見ていたイズは言葉を失った。

「一回目は忠告。二回目は警告。聞かなかったお前らが悪い」

男達は見るも無惨な姿で地に伏した。透韻は乱れた服を直し、イズに駆け寄る。

「ごめんね」

「えっ・・・何であんたが謝るの?」

「ボクの所為で怪我をさせた。痛かったでしょ?」

「これ位、平気」

「でも、血が止まってない」

透韻は男の持っていたナイフを使い、自分の腕を切って血を流した。

「飲んで」

「えっ・・・」

「早く。」

イズは言われるがまま、彼の血を舐めた。特に違和感はなかったが、その途端、血はすぐに止まり傷も塞がった。

「ありがとう」

「・・・身体、平気?」

「うん。何ともないけど」

「良かった」

透韻は安堵の笑みを見せた。

「――じゃあ、進もっか」

「そうだね」

二人は支え合いながら、先を目指した――。






車の荷台に乗せられた神流とリン。二人は静かに揺られながら互いの手を強く握っていた。

「・・・神流ちゃん」

「なぁに?」

「ごめんね・・・。あたしが巻き込んだよね」

「違うよ。リンちゃんだけなんて酷いと思ったから」

「・・・ありがとう」

リンは緊張が解れたのか、強張っていた表情が和らいだ。神流も肩の力が抜けたらしく微笑んだ。

「本音言うとね、少し良かったって思ってるんだ」

「えっ」

「こんな状況なのに、神流ちゃんとまた話せたから。初めて会った時からずっとこうしてみたかった」

「リンちゃん・・・」

「また、あたしの歌聴いてくれる?」

「うん。リンちゃんの歌はあたしの支えだから。これからも奏でるならあたしはずっと隣で聴くよ」

「ありがとう、神流ちゃん」

「・・・久住のした事も、ごめん。リンちゃんに傷を負わせるなんて・・・」

「神流ちゃんが謝る事じゃないよ。あの人がおかしいだけ。人間じゃない」

「・・・何言われても仕方ないと思う。けど、其でもあたしは止めなかった」

「どうして・・・」

「久住の過去を知っちゃったから・・・」

ガタンと車が大きく揺れ、まだ明けない夜道を進んでいく――。

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