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ランドマイン  作者: 淡月 涙
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『いつかの光景』

人が人を買う世界。お金さえあれば何だって手に入る。だから此処には、『奴隷』なんて制度が存在していた。その烙印を捺された者は一生奴隷として飼い慣らされる。人間としての地位は失われ、道具として働かされる使命を背負う。目を付けられた者は富裕層に高値で買われ、売れ残った者は過酷な仕事を強いられた。



ガシャーン



商売品のステンドを全て荷台から落としてしまった少年。売人達が早足で少年を囲い、一斉に鞭を降り下ろした。鞭のしなる音が重なり、悲痛な叫びが響き渡る。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・!」

打たれながらも少年は泣きながら謝る。けれど売人達の手は止まらない。次第に少年の身体から血が流れた。

「もうお止め下さい!」

見るに堪えられなかった青年が少年を庇った。強い眼差し。けれど身体は震えていた。

「退け。庇い立てするとお前も同罪だ」

「構いません!こいつはおれの弟なんです!弟の罰は兄であるおれが背負います!ですから、打つならおれにして下さい!」

青年は堂々と、だが僅かに声を震わせながら言った。

「そうか。だったら二人まとめて罰してやる!」

「そんな・・・!」

売人が鞭を振り上げた瞬間、その手を掴んだ者がいた。突然の乱入に売人達も存在を認識するのが遅れた。

「もう許してやれよ。こんなに謝ってんだぜ」

「な、なんだ貴様は!どこから・・・」

「其処の二人は俺が買う。」

乱入してきた少年は札束を投げ捨てた。その額に飛び付く売人。お札を数えて満足そうな笑みを向けた。

「持っていけ!そんな奴等、くれてやる」

そう言って売人達は高笑いしながら去っていった。

「悪いな。今はこれが最善の策なんだ」

二人の手錠を外しながら少年は言った。

「助かったよ。ありがとう、アスカ」

「やっと見つけた。創葉、遊音」

一段と強さを秘めたアスカは安堵した様だった。

「あれから何日経ったの?皆は・・・?」

遊音が心配そうに聞いた。

「俺も今捜してる。けど、手掛かりがないんだ」

「・・・そうか。」

1週間前、あの爆風でアスカ達はバラバラになってしまった。アスカは遠く離れた町まで飛ばされ、遊音と創葉は奴隷市場に吹き飛ばされ、奴隷の烙印を捺されてしまった。リンや麗夢達の行方は解らず仕舞いだった。

「あの町まで行けば何か解るかも知れない」

「じゃあ、そこに・・・」

「解らないんだ・・・!あの町が何処にあるかなんて・・・。町の名前も知らなかったし・・・」

「名前ならあったよ」

「えっ?」

創葉の意外な発言に遊音とアスカの声が重なった。

「確か・・・ツヴァイって名前だった」

「何処に書いてあったんだ・・・?」

「久住が言ってたから聞いちゃったんだ」

「成程。其れなら行けるな」

「また、皆に会えるの?」

「あぁ!早く、皆に会いに行こう」











閉じられた空間で行われるのは残虐な拷問。彼はもう研究などどうでも良くなっていた。ただ、能力者を虐めたいだけ。今日の標的は麗夢だった。数人の黒服達に服を剥ぎ取られ、俯せに身体を抑えつけられた。

「そろそろ烙印が消えかけてるんじゃないかと思ってね。新しく付けてあげるよ」

「・・・なに・・・を・・・」

久住は口元に笑みを浮かべながら焼きゴテを手にした。そんなものを肌に当てられたら堪ったもんじゃない。抵抗しようとする麗夢を黒服達が更に強い力で抑えた。

「やめて・・・。嫌だ・・・!放せ・・・!」

「また抜け出されたら大変だからね」

久住は躊躇いもなく焼きゴテを麗夢の背中に当てた。

「――・・・っ!」

声にならない悲痛な叫びが響いた。

「・・・あ・・・つい・・・。早く・・・はな・・・して・・・」

「ほう。まだ喋れるのか。なら・・・」

「っ・・・!?」

二本目の焼きゴテを当てられ、先程と同様の痛みが麗夢を襲った。

「・・・痛っ・・・!やめ・・・」

「なかなかしぶといな」

「な・・・んで・・・こんな・・・事・・・」

「次は一気に5本いってみるか」

「ひっ・・・!やめ・・・!やだ・・・!」

久住はグイッと麗夢の髪を掴みながら顔を上げさせた。その悪魔のような笑みは恐怖を与えた。

「良い表情だ。君のその表情はたまらないね。いつも君だけ屈しなかったから、最高の眺めだよ」

麗夢は涙を流すだけで口答えは出来なかった。

「大丈夫。10本全部耐えられたら解放してあげる」

「嫌・・・・・・!やめっ・・・!」

少年の声は届かず、先程よりも激痛が走った。もう半分痛みを感じない。背中の感覚が麻痺している。熱いのか痛いのか痒いのか、もう何が何だか解らない。

「まさか此処まで耐えるとは流石だな。褒美に水をくれてやろう」



バシャーン



冷たい水を大量にかけられ、一気に寒さが込み上げてきた。身体が震える。寒い。

「あと数回洗ってやれ。終わったら檻に戻しとけ」

黒服達に後の事を任せ、久住は部屋を出ていった。

「やっと終わったよ・・・」

久住が行ったのを確認すると黒服の一人である王貴が言った。

「あの人狂ってんじゃないの?普通、ここまでやらねーよ。マジで非道だな」

「うわぁ・・・背中ぐちゃぐちゃだよ、この子。まだ少年なのに可哀想・・・」

黒服の一員である夜太も文句を言い始めた。

「おい、動けるか?」

解放された麗夢はゆっくりと起き上がった。だが、少し身体を動かしただけで激痛に襲われた。

「痛っ・・・!」

「あと何回か水で冷やさねぇとだから」

「・・・水・・・嫌だ・・・。寒い・・・」

「嫌って言われてもなぁ・・・。少しは痛みも引くだろうし・・・」

「もう・・・何もしないで・・・」

麗夢は泣きながらお願いした。夜太と王貴も麗夢を虐めたい訳ではない。

「解った解った。何もしねぇよ。つか、俺らも辛いんだぜ?拷問を見物させられんのって」

王貴は髪をかきあげながら溜息をついた。

「けど、久住には逆らえないから。命令ならやらなきゃいけない。ごめんね」

「・・・謝んな」

「あぁ、そうだな。俺らは卑怯な人間だ。」

「でも、必ずしも久住に従順な訳じゃない。君達が此処から逃げるって言うなら手を貸すよ」

「えっ・・・」

「久住と一緒にいたらこっちまでおかしくなりそうだ。お前、能力もってんだろ?それで一発久住をぶっ飛ばしてくれよ」

「お願い・・・出来るかな?あの檻は俺らが何とかする。君の仲間にも相談してみて」

まさか、こんな所で味方が現れるなんて考えてもみなかった。嘘をついているとは思えない。麗夢は静かに首を縦に振った――。

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