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ランドマイン  作者: 淡月 涙
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『最初の世界』

少年はふと目を覚ました。ゆっくりと身体を起こしながら辺りを見渡す。知らない場所。知らない匂い。知らない家。古びた造りだったが、何故か懐かしさを感じた。

「痛っ・・・」

立ち上がろうとした瞬間、両腕に痛みが走った。丁寧に巻かれた包帯。だが、血が滲んでいた。痛みとともに痺れも感じた。一体、何があったのだろう。

「起きたのか?」

部屋に入ってきた少女が淡々とした声で聞いた。

「・・・誰?」

「私はレア。この町の住人さ。あんたは?」

「・・・おれは・・・」

少年は名前を言おうとしたが出てこなかった。自分は誰なんだ?

「何?まさか記憶喪失ってやつ?相当、酷い怪我してたもんね」

「この手当ても、君が・・・?」

「うん。あたしのじいさんが見つけて連れてきたの。三日間くらい寝てたんじゃない?気分はどう?」

「うん・・・。大丈夫みたい」

「そ。良かった。あ、でも名前ないと不便よね。何て呼べばいいかな?」

「えっ・・・何でもいいんじゃないかな」

「んー・・・じゃあ・・・(クレイ)

「紅?」

「君の瞳には焔が宿ってる。強い意志が見えるよ。だから、(あか)って書いて紅」

「・・・焔・・・」

少年は手を見つめながら力を確めた。自分は一体何をしていたのだろう。

「――ねぇ。外に行ってもいいかな?」

「うん。怪我は平気?」

「大丈夫だよ」

少年か外に出ると、雨が降っていた。結構雨脚は強かったが少年は傘を持たずに歩き出した。集落に人が点々としている。見た所、貧しい町なのかも知れない。殆どの建物が廃れていて農作物もない。町の中心部まで進むと大きな穴が数ヶ所に出来ていた。最近出来たのだろうか。近くには危険地帯と記された看板が立てられていた。その危険なものがこの穴を作ったのか。

「――・・・」

何処からか、歌が聴こえてきた。その歌に引き寄せられるかのように少年は音のする方へと歩き出した。穴の近くはなるべく避けながら慎重に歩を進めていく。歌は徐々にハッキリと聴こえてきた。

「この歌・・・」

誰かも口ずさんでいた気がする。だから、こんなにも懐かしいと感じるのか――。

町から離れた場所に出ると、白い建物があった。窓らしきものはなく、完全に閉ざされた空間である事は外から見ても解った。

「紅!」

その先に行こうとした時、後ろからレアに呼び止められた。急いで走ってきたのか、呼吸が荒い。

「・・・どうしたの?」

「彼処には行かないで」

「えっ・・・」

レアは一旦、深呼吸して自分を落ち着かせた。

「あの収容所には、悪い菌が充満してるんだって。じいさんが言ってた。無闇に入ろうとしたら、無理矢理中に引き摺り込まれて二度と出て来れないって」

「・・・そんなに、怖い所なんだ」

「だから、此処には来ない方が良い。三日前くらいにね、悪い人達がやってきて、この町に埋められてた地雷を全部爆破しちゃって、凄い騒ぎになったの。でも、そのお陰で自由に外を歩けるようになったんだけどね」

「・・・地雷・・・?」

何かが思い当たった。けれど、記憶は曖昧で思い出せない。自分も恐らく関係していたのだろう。とても他人事とは思えなかった。

「戻ろう、紅。こんな所にいるの見られたら連れていかれちゃう」

「・・・うん」

半ばレアに手を引っ張られながら二人は家まで帰った。少年はずっと気になってしまい、帰ってからも思い出せないか試していた。

「無理に思い出すのは頭痛の元だって、じいさんが言ってたよ。焦らなくてもいいんだからさ。今は、楽にしててよ。あの収容所の事も忘れて」

「・・・でも、何か大切な事を忘れてる気がする。おれは、思い出さなきゃいけないんだと思う」

「そうなんだけどね。まだ、怪我も治ってないしさ。落ち着いたら思い出すよ」

「・・・うん・・・。ごめん、少し休んでいいかな?」

「あぁ、いいよ。ゆっくり休んで」

寝室を貸して貰い、少年は静かに目を閉じた――。










「――――!!」

暗い牢獄の中、少女の悲痛な叫び声が響き渡った。身動きを封じられ、背中に焼き印を捺された。真白な肌にその証はくっきりと綺麗に焼き付いた。肌を裂かれるような痛みと火傷の激痛で気を失いそうになった。

「これで、君も囚人の仲間入りだ。良かったな、本当の仲間が出来て」

男は嘲笑いながら言った。少女は痛みに耐えるので精一杯だった。彼の言葉など耳に届かない。

「また、こんな所に容れやがって・・・!」

「そう睨むな。油断してたお前らが悪い。大した怪我を追わなくて良かったじゃないか」

「黙れ・・・!」

「相変わらず威勢がいいな。仲間を二人失っただけじゃ凹まないか?」

「それ以上言ったら殺す」

「殺れるものならね。その檻の中じゃ例え君達でも無力。俺に触れる事すら出来ないよ」

「っ・・・!」

「まぁ、精々楽しませてくれよ」

「待てっ・・・!」

男は甲高い笑いを響かせながら去っていった。檻の中では何も出来ない。彼に触れる事すら敵わない。

「っ・・・!くそっ・・・!」

少年は苛立ちを檻にぶつけた。鉄の鈍い音が虚しく暗闇に木霊した――。

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