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ランドマイン  作者: 淡月 涙
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『能力を持つ者』

あの日以来、リンが収容所に行く事はなかった。

少女との約束を果たそうと次の日、仕事帰りに森へ向かおうと決めていた。だが、リンがまだ歌い終わる前にレイラとアスカが迎えにきてしまったのだ。

「帰るぞ」

アスカはリンに対して冷たくなった。前みたいに優しく手を握ってはくれない。

「…気にする事ないですよ、リン」

レイラは変わらず優しかった。アスカはただ、リンの事が心配なのだと彼女は言った。嫌いになった訳ではない。そう解っただけでリンは安堵した。

「リン」

今日も、 歌を終える前にアスカが迎えにきた。リンはまた少女に会えなかった事に罪悪感を感じていた。

「お前、また行く気だろ?」

帰り道、アスカはハッキリと訊いた。

「…ダメかな」

「行くな。彼処は危険だ」

「でも…!」

言い返そうとした瞬間、アスカはリンを抱き締めた。彼の思いがけない行動にリンは一瞬、状況が飲み込めなかった。

「…アスカ…?」

「お前が居なくなったって聞いた時、凄く怖かった。もう、会えないんじゃないかって思って…不安になった・・・。あんな想いはもうしたくない」

彼の表情は見えないけれど、声は震えていた。軽い気持ちで進んでしまったばっかりにこんな想いをさせてしまった。リンはただ小さく「ごめんなさい」と囁いた。




今日は愛理衣が連れ出された。彩弓達はただ見送る事しか出来なかった。引き留めてはいけない。監視員に無理矢理手を引かれて愛理衣は闇の奥へと消えていった。

「あいつ、帰ってこれるかな」

心配する彩弓達を他所に、今まで寝ていた麗夢らむが嘲笑うように言った。

「…帰ってくる。今までだってそうだっただろ」

「今日が地雷の日だったら?」

「其でも…外なら能力が使える」

「あぁ…。透視だっけか」

「あいつの能力なら地雷撤去はクリア出来るだろうから」

愛理衣には生まれつき、透視能力が備わっていた。監視員には知られていない事実。拷問の中で最も過酷なのが「地雷撤去」だった。収容している子ども達を使って地雷が埋められている土地に行き、人が安全に暮らせる場所であるか確めている。もし、地雷を踏んでしまったら命はない。子ども達はその番が来る事を恐れていた。

「愛理衣…」

彼女の帰りを願う彩弓を他所に、神流は格子から見える夜空を眺めていた。あの日からあの子に会えない。約束した筈なのにもう一度現れてはくれない。何かあったのだろうか。ずっとあの子の事ばかりを考えてしまう。

「どうしたの?」

「えっ…」

不意に声を掛けられ、神流はビクッとした。隣を振り向くと遊音ゆねが心配そうな表情で彼女を見ていた。

「最近、静かだよね。元から大人しかったけど」

「…会いたい人がいるんだ」

「へぇ…誰?親?」

「違うよ。その人は境界線の向こうにいるから」

「…それって…」

遊音が言い掛けた時、監視員の足音が聞こえてきた。神流は急に身体を丸めて縮こまった。

「仲間のお帰りだ」

監視員は乱暴に檻の鍵を開け、傷だらけな愛理衣を中に放り込んだ。

「愛理衣!」

息も絶え絶えの彼女に寄り添い、彩弓は支え起こした。愛理衣の衣服はボロボロで身体には複数の痣が目立っていた。

「愛理衣に何したんだよ!」

「彩弓!」

監視員に無駄口を叩いてはいけない。そんな事をしたらすぐにお仕置きされてしまう。遊音が慌てて彼を抑えた。

「知りたいか?なら教えてやろう。こいつの今日の拷問は地雷撤去だ。だが、こいつは一歩も足を踏み出さずに時間を稼いで終えやがった。だから拷問部屋でお仕置きしたんだよ。鞭打ちの刑だ。女の悲鳴を聞くのは快感だぞぉ」

「…っ!ぶっ殺す!」

「彩弓!」

「随分、粋がいいなクソガキ」

監視員は彩弓の髪を掴み、無理矢理立たせた。

「次はお前だ。明日を楽しみにしとけ」

ドンッと彩弓を突き飛ばし、監視員は鍵を掛けて去って行った。

「彩弓…」

遊音は心配そうに彼に近寄る。

「大丈夫だよ。俺は」

「…何であんな突っ掛かったりしたの?」

「赦せないからだ。愛理衣をこんなに傷付けやがった。絶対赦さねぇ」

彩弓は怒りで震えていた。愛理衣と誰よりも親しいのは彩弓だった。怒るのも無理はない。

「あいつら全員、ぶっ殺してやる…!」

小さく呟いた声は神流にだけ聞こえていた――。




あれからアスカと会うのが気まずくなってしまった。リンはレイラに相談しようか迷ったが未だに言えずにいた。

「元気ないですね」

「…解る?」

「えぇ。アスカと何かありました?」

「…まぁ・・・ちょっとね・・・」

「私で良ければ、相談に乗りますよ」

「ありがとう」

「いいえ。その時は言って下さい」

「うん・・・。レイラはさ・・・あの収容所、どう思う?」

リンは話を変え、気になっていた事を尋ねてみた。

「・・・嫌な感じがします。実は私も以前あの場所に行ってしまった事があるんです。その時、あの収容所から叫び声を聞いて・・・」

「えっ・・・」

「小さな子どもの声でした。何かに怯えたような、今にも死んでしまうのではないかと・・・怖くなってすぐに帰ったのですが・・・」

「そう・・・だったんだ。知らなかった。やっぱり、関わらない方が良いのかな・・・」

「私は・・・もう近寄りたくありません。ですが、これは私の個人的な意見ですので、決めるのはリンですよ」

「・・・そうだよね。わかってる・・・。今度は心配掛けないようにしなきゃ」

「アスカに何か言われたら私に言って下さい。その時はお役に立ちますよ」

「レイラ・・・。ありがとう」

彼女と話が出来てリンは悩みが軽くなったように感じた。

「――では、また明日」

分かれ道、二人は笑顔で手を振り其々の家路へと急いだ。だがまだ夕刻。今日はアスカもいない。リンはもう一度だけ行かなければならないと思っていた。約束を裏切ってしまった事をちゃんと詫びなければならない。足は家とは逆に向き、少し早足になっていた。薄暗い森を一目散に抜けてフェンスの所までやってきた。フェンスの内側に少女の姿が見え、リンはあの子だとすぐに解った。

「神流ちゃん!」

その声に名を呼ばれた少女はゆっくりと振り向いた。リンはフェンスには触れず少し間を開けた。

「…来てくれたんだ」

神流は嬉しそうに微笑んだ。

「ごめんね.約束裏切っちゃって…」

「良かった.何かあったのかと思った」

「怒ってないの?」

「…何で?また来てくれただけで充分だよ」

少女の優しい気持ちにリンは胸が熱くなった。

「リンちゃん…」

「ん?」

「…楽園ってどんな所?楽しい?自由?」

「うん.全部詰まってるよ」

「行ってみたいな.楽園ではヒトになれるかな?」

「えっ…」

「其処では人は死なないよね?」

「神流ちゃん…」

リンはどう答えたら良いのか解らなかった。

「いつかあたしもそっちに行けるかな…」

二人の手は触れ合えない。こんなに近くにいるのに支えてあげられない。

「――もう行かなきゃ」

「あっ…」

「明日も会えたらいいね」

神流は笑顔で戻っていった。あまり話は出来なかったが、その笑みはとても強く印象に残った――。

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