診断メーカー
脳内メーカーなど、ネットで手軽に自分のことを診断できる(といっても名前を入力するだけなのであくまで名前を元にしてランダムに出てくる結果を楽しむものだが)診断メーカー。ネットユーザーなら誰しも1度は耳にしたり診断したりしたことがあるのではないだろうか。
その診断メーカーの1つに「あなたを女の子にしてみたー」がある。自分の名前を入力すると、自分が2次元の女の子になったらどんなキャラになるのかを診断できるものである。
たとえば今、「きよひこ」を診断してみると
きよひこが女子になったら 身長:161cm 性格:寂しがり 髪:ハーフアップの猫っ毛 色:藍色 目:タレ目 色:藍色 好きなもの:辛いもの その他:セーラー服着用
などとでてくる。
筆者である私などは自分の診断結果を知り合いの絵師さんに頼んで実際にキャラ絵に起こしてもらって楽しんでいる。
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「なあ圭介、ちょっと見てみろよこれ。」
俺の机でノートパソコンをいじっていた浩二が声をあげた。
「ん?」
ベッドの上で浩二の持ってきたマンガを読んでいた俺は顔を上げる。
「これ、面白そうじゃないか?」
「どれどれ?」
画面を覗き込むと、『あなたを女の子にしてみたーDX』とタイトルがあり、その下に入力スペースがある。
「なんだこれ?」
「ここに自分の名前を入力して診断ボタンを押すとな、自分の名前に応じた診断結果が出て、その診断結果の姿の女の子に実際になれるんだってよ!」
「なんだそれ、バカバカしい。そんなオカルトありえないな。」
「まあ例え釣りだとしてもただの診断メーカーじゃん。ちょっとあそびのつもりでやってみようぜ。」
浩二はさっそく自分の名前を入力しようとする。
「ちょっと待て、なんか下のほうに『警告』って書いてあるぞ。」
「ほんとだ。ええと、なになに?・・・姿が変わった後、元の姿に戻りたくなったら入力スペースにもう一度自分の男の名前を入力すれば元に戻れます。ただし、変身後30分を過ぎますと元に戻れなくなるのでご了承ください。・・・・だとよ」
「ふーん。まあ、大丈夫だよな。じゃあ俺から行くぜ。」
浩二は自分の名前を入力してエンターキーを押した。
「あなたが女子になったら、名前:あきな、身長:160センチ、性格:勝気、髪:ストレートのロング、髪色:黒、目:切れ長、瞳:うぐいす色、好きなもの:かわいいもの、その他:剣道部所属だってさ!」
読み上げた声が高い女の声に変わっていたことに驚いた俺は浩二のほうを向くと、そこにはうちの高校の制服を着た見知らぬ女の子が立っていた。
「お、お前。浩二か!?」
「何言ってんだ。当たり前だー・・・って、ええ!?これがあたし!?」
「ほんとに変身するなんて・・・」
「これ現実なの!?すっごーい。わ、胸もおっきーい。やわらかーい。」
自分の胸を持ち上げてみる浩二。姿形といい口調といい、どこからどうみても女の子にしか見えない。
「これすごいわね。はやく圭介のもやってみようよ。」
「え、ちょっと待てまだ心の準備が・・・うわ!!」
圭介の名前を入力すると圭介の姿も一瞬にして変わる。
あなたが女子になったら、名前:ゆうこ、身長:155センチ、性格:おっとりでどじっ子、髪:少しくせのあるツインテール、髪色:ピンク、目:ぱっちり、瞳:深緑、好きなもの:本、その他:運動が苦手
「圭介、かわいいーー」
浩二が目を輝かせる。
「え、わ、わたしも女の子になっちゃったの?うわ、きゃあ!」
バランスをくずして転倒する。
うーん、なんでだろ。つまづいたわけでもないのに。わたし運動オンチなどじっ子になっちゃったのかなあ。
「大丈夫?」
浩二が助け起こしてくれる。
「あ、ありがとう。」
部屋の中にあった姿見を二人で覗き込んだ。
「きゃー、これがあたしなのっ!?かわいいー。自分で自分を抱きしめたいっ!」
浩二のテンションは上がりっぱなしだ。
「これがわたし、なの?ちょっと、かわいい・・・かも」
圭介は申し訳程度に鏡に向かって笑いかけてみると、鏡の中の制服少女もはにかんだなんともいえない庇護欲をそそられる微笑をみせる。
気分の良くなったわたし達は、お互いの体を確かめ合ったり、鏡の前でポーズをとったり大はしゃぎで楽しんでいた。
しばらくそうしているうちに圭介はあることを思い出した。
「あれ?そういえば今変身して何分たったのかしら?」
2人は反射的に圭介の部屋の壁掛け時計をみる。
ええと、たしか変身したのがあのときで・・・・えええ!?
後3分しかない!
「まずいわ!もどれなくなっちゃう!」
「まかせて」
圭介は一目散にパソコンに向かって駆け出すが、
「きゃっ。」
どじっ子属性がついてしまっているからか、机の上においてあったコーヒー入りのマグカップを手でひっかけ、中のコーヒーがぶちまけられてキーボードの上に盛大に
広がっていく・・・広がっていく・・・
「あああああああ!」
圭介はあわててキーを押してみるが・・・・
「駄目よ!どうしよう!」
わたしはパニックになる。
「ちょっと待って。スマホ!あたしのスマホでサイト開くから!」
浩二はタッチパネルをもどかしそうにたたくがアンテナの本数は無常なことに1本・・・。
「やっと出た!」
時計を見ると30分を30秒ほど過ぎている。大丈夫だろうか。
あわてて『黒髪ロングの女の子』は自分の名前を入力しようとするが、その手ははたと止まってしまう。
「ねえ・・・?」
『黒髪ロング』が『ピンクツインテの女の子』のほうに顔を向ける?
「なによ?はやく入力して!わたし待ってるんだから」
『ピンクツインテ』は答える。
「・・・・・あたしの男の名前って・・・・なんだっけ・・・?」
絶望に満ちた『黒髪ロング』の顔。
「なに言ってるのよ!あなたの名前はあきなでしょ?」
答えた『ピンクツインテ』ははっとする。
あきな?そう。この子の名前はあきな。あきなのはず。でも、あれ・・・?
あきなって、女の子の名前?あれ、この子にあった男の子の名前は?ついさっきまで思い出せたのに。
あきなと呼ばれた『黒髪ロング』の少女。
「あきな・・・。うん、そうよね。それがあたしの名前で・・・。ううん、違う!!あたしの男の名前は・・・・名前は・・・・。」
名前が、思い出せない・・・・女の名前しか・・・・思い出せない。
『ピンクツインテ』の少女も、ゆうこという女の名前しか思い出せなくなっていた。
「ねえゆうこ!あたしの男の名前、覚えてない!?」
「うーん・・・さっきまで覚えてたはずなのよね。なんで思い出せないんだろう・・・」
「あ、そうだ!生徒手帳よ!それをみれば」
「それよ!あきなあったまいい!」
二人とも自分の生徒手帳を開いてみるが、そこにあったのは女の子の名前とにこやかな女の子の姿の自分の写真・・・・
ゆうこは自分の部屋なので他のいろいろな持ち物の名前をチェックしてみるが、すべて綺麗に女の名前へと書き換わっていた。
「男に戻れなくなるって・・・こういうことなの!?」
「いや!男にもどれなくなるなんていやっ!!」
その後も1時間くらい2人は必死で記憶の糸をたどっていたが・・・
ふとあきなが気づいた。
「ねえ、あたしたちなんで男の名前を思い出そうとしてるんだっけ?」
「いきなりなに言ってるのよ!決まってるじゃない!あれ・・・?えーと、何でだったかしら・・・?何かに、戻るためじゃなかった?」
「戻るって、何に戻るの?あたしたち、女の子でしょ?」
「うん、そうよね。わたしたちは女の子で・・・」
「だいたい男の名前ってなに?あたしたちに男の名前なんてあった?」
「うーん。ないはずだよねえ。わたしたち生まれたときから女の子だし。」
「じゃああたしたちこうやって1時間も何を思い出そうとしていたのかな?」
「たしかに、おかしいね。特に思い出すことなんてないはずだし。なにか重要なことを忘れちゃった気はしないでもないんだけど・・・」
「ま、いいわ。あたしこれから家に帰って剣道の素振りしなきゃ。大会が近いのよ。」
「そうね。重要なことなら思い出すはずだもんね。」
「じゃあまた明日ねゆうこ。おじゃましましたー。ばいばーい。」
「うん、ばいばいあきな」
あきなは自分の家へと帰っていった。
ゆうこの部屋が、さっきまでの男の部屋から明るい女の子の部屋に劇的に変わっていることも、2人はすでに気づくことは出来なくなっていた。
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