そして、校舎へ――。
結局、来てしまった。結局、私はあの笑顔に勝てない。美恵の屈託の無い笑顔に。
真っ暗な交差点、真っ赤な信号が、私を照らしていた。
赫い光が、青い光へと変わる。それを合図に、私は歩き出した。
信号を渡って、暫く行って、角を曲がると校門。美恵の後姿が目に映った。
「美恵」
美恵が振り返る。にこりと笑うその顔は、小さな電灯の灯りに照らされている。
「笑麻、早く」
いかにも楽しいですといった感じで、美恵が跳ねる。
こういう仕草が、可愛らしく、そしてモテる原因なのだろうか。
「皆は?」
「まだ、ちょっと待って」
美恵が携帯電話を取る。携帯を操作する軽快な音が、小さく聞こえる。
美恵が耳に携帯を当て、暫く黙っている。何気なく、美恵は私から離れた。
「あ、ゴメン、明菜? 今日、今から出てこれる? 肝試ししない? うん、……うん、他の人にも言っといてくれる? ありがと、じゃあ待ってるね」
ピ、と軽い音が鳴る。お湯が沸騰するように、私の怒りは、段々と沸騰していく。
「ごめん、……、もうちょっと待って」
「……美恵、あんた……」
わなわなと、手が震えだす。
嗚呼、もう駄目かも。
* * *
十分後。女子数人男子数人が、ぞろぞろと現れた。
「美恵ー、来たよ……って、何そのこぶ!?」
「なんだよそれ、誰にやられたー?」
「あーあ、そんなこぶ作っちゃって」
笑いながら、口々に美恵に言葉を掛ける。
美恵の頭には、大きなこぶができていた。もちろん、私がやった。
「う、ううん……なんでもないよ」
半泣きになりながら、美恵はそれでもはにかんだ笑顔を見せていた。
「じゃ、行こっか」
美恵が、身を翻して、校門をよじ登る。
見えるだとか見えないだとか、そんな声がちらほら聞こえる。
「よっ、と」
掛け声とともに、美恵が反対側に降りる。
「早く、早く」
皆が、各々の登り方で、校門を乗り越えていく。そして私も、乗り越えた。
校門から入ったところには、ただ広い校庭と、いつもよりも不気味な校舎。
「さて、それじゃあ、どういう組み合わせにする?」
「おーし、それじゃあ、くじ引きでどうよ?」
「いいけど、どこにあるのよ、そのくじは」
「土に書けばいいじゃんかよ」
「ああ、そうか。あみだね」
次々、事が決まっていく。私は、美恵とは別な班になった。
そして、校舎へ――