目覚め、そして約束
意識が、戻り始める。
混沌とした闇の、小さな光が、どんどん近づいてくる。
* * *
「笑麻……笑麻……」
笑いながら、親友の美恵は私に呼びかけていた。
気が付くともう四時半。授業はもう終わっていて、残っているのは私と美恵だけだった。
夕日の赫い色が教室に差し込んで、妖しく照らす。
私の前のいすに、美恵が反対向きに座って、私の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの……? 笑麻が居眠りなんて、らしくないよ」
真面目で通っている私にしては、居眠りは珍しい。
美恵は、本当の私を知らない。
「昨日、徹夜したんだ」
もちろん、嘘。美恵を心配させたくはなかった。
「そっか。それじゃ眠いよねー」
私は頷く。
「夢、見た」
「ふうん……。どんな?」
私は、記憶の一片を手繰り寄せる。
確か、
「夜の学校で……男の人が血を流して倒れてた」
そんな感じだった。細部は良く覚えていない。
覚えているほどの夢でもなかった。ただ、
「なんか、ちょっと不気味な夢だねぇ」
その男性は、綺麗だった。とても。
「笑麻、目がどっかいってるよ」
さも面白げに、美恵が軽く額をつつく。
「あ……、なんでもない」
そうだ、と美恵が話しを切り出す。
「今日ね、皆で肝試しする予定なの。
笑麻を誘っておいてって他の子に言われたから。一緒に行かない?」
美恵が満面の笑みを、私に向ける。私は、結局この笑顔には逆らえない。
「うん」
美恵がニカッと爽やかに笑う。
「おっし。それじゃあ、今日七時に、学校の校門ね。じゃ、帰ろう」
私たちは、教室を出た。