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第34章:嘘がバレる時

【SIDE:井上翔太】


 俺は一目で分かってしまった。

 目の前にいた女の子が“誰”なのか。

 淡いブラウンの髪が印象的な彼女は俺に満面の笑みを見せる。

 

「久しぶりだね、“翔ちゃん”。10年ぶりかな、ずっと会いたかったよ」

 

「まさか……鈴音、なのか?」

 

 この女の子が鈴音、ずっと俺が思いだせなかった彼女。

 

「そうだよ、鈴音でーす。こうして会うの、本当に久しぶり」

 

 俺と対面する鈴音、それに動揺を示したのは琴乃ちゃんだった。

 顔を青ざめさせて、何も言わずに家の中へと入ってしまう。

 

「あっ、琴乃ちゃん……?」

 

「せっかく琴乃にも何ヶ月かぶりに会うのに。まぁ、いいや。ほら、早く家に入って。懐かしい話も色々としたいもの」

 

 俺の想像と違う鈴音の姿に戸惑う。

 この子は、こんな子だっただろうか。

 違う、何かが違う。

 リビングに通されると料理の準備をする理沙おばさんがいた。

 

「翔ちゃん、おかえり。琴乃とのデートは楽しかった?」

 

「えぇ、それはいんですが……」

 

「懐かしいでしょ?今日は鈴音も寮から帰って来たのよ」

 

 全寮制の学校に通っていると行っていた。

 だけど、それ以上に俺の違和感の正体が俺は知りたい。

 ソファーに座りながら、俺は鈴音を見つめる。

 

「ホント、10年ぶりって長いよね。翔ちゃんも身長も高くなって、成長してるし」

 

「……鈴音も綺麗になったと思うよ」

 

「あははっ。ありがとう。でも、琴乃と付き合ってるんだって?聞いた時には、ちょっとびっくりした。翔ちゃんがまさか“妹”と付き合うなんてね。琴乃の方が先に彼氏ができるなんて思ってもなかったわ」

 

 違和感が納得に変わる。

 彼女が俺を“翔お兄ちゃん”と呼ばずに“翔ちゃん”と呼ぶワケも。

 ずっと鈴音は琴乃ちゃんの妹だと思っていたのに、姉であるという事実も……。

 

「あ、あのさ、鈴音ってもしかして、俺と同い年?」

 

「え?そうだよ、高校2年生。何?そんな事も忘れちゃった?」

 

「もうひとつだけ。琴乃ちゃんって、昔は俺の事を何て呼んでいた……?」

 

「普通に“翔お兄ちゃん”。だって、年下だし、あの子ってばすごく控えめな子だったけど、翔ちゃんに懐いてたもの。私の妹ながらお淑やかで大人しいもんね」

 

 ……ずっとトゲのように突き刺さっていた違和感の正体。

 それは俺が間違えていたという現実。

 どうしても、鈴音を思い出せなかった理由。

 それは当然のことだ、俺が彼女と琴乃ちゃんを認識として間違えていたから。

 

 俺が琴乃ちゃんと思っていた明るい女の子が鈴音だった。

 逆に鈴音だと思っていた大人しい女の子そ、琴乃ちゃんだったんだ。


 記憶違い、思いこみ。

 だから、思い出せない、思い出せるはずがない。

 

「あっ、私、翔ちゃんに謝らないといけないんだ。昔、いつかまた会おうって約束してたけど、中々会えずにいてごめんね?」

 

 小さな頃に約束をしていた。

 

『会えなくても、私から会いに行くから』

 

 その約束相手が鈴音だった。

 間違いない、俺はずっと思い違いをしていたんだ……。

 これまでも琴乃ちゃんと接してきて抱いてきた違和感の数々。

 そして、琴乃ちゃんがついていると言っていた嘘のこと。

 あの子が時々見せていた悲しみの表情の意味。

 すべてが俺に衝撃と言う形を持って、驚きを与える。

 俺は動揺しながらも、不思議そうな顔をする鈴音と会話を続ける。

 麻由美が言っていた通り、俺が昔にとても仲が良かったのは鈴音だ。

 彼女の妹であり、大人しい女の子の方が琴乃ちゃんだったのだから。

 頭がものすごく混乱している。

 けれども、これまで思いだせなかった事が思い出せていく。

 

「そうそう、それで翔ちゃんと私が幽霊屋敷で行方不明になっちゃったんだよね。あとですっごく皆に怒られたんだから」

 

「……鈴音と一緒に地下に閉じ込められたんだよな?」

 

「うん。重い扉が閉じちゃって真っ暗中でふたりでずっと一緒にいたの。泣いちゃいそうな私を励ましてくれたんだよ。それが嬉しかったし、安心できたもの。あの時は本当に怖かったよね」

 

 懐かしい話を彼女から聞くたびに、俺は過去を思い出していく。

 

「そう言えば、琴乃と翔ちゃんってどこで知り合ったの?」

 

「学校だよ。同じ学校だったから偶然にも再会して、すぐに琴乃ちゃんに告白されたんだ。向こうはそれ以前に俺の事を知ってたらしいけど、俺にとっては急でびっくりした。いきなり可愛い子に告白されたってな」

 

「あははっ。そうなの?琴乃らしいね」

 

 話が弾んでいると、理沙おばさんが料理ができたと料理を運んでくる。

 

「お待たせ~っ。あれ?ふたりだけ?琴乃はどうしたの?」

 

「そう言えば、帰ってきてから全然出てこないね。あの子、様子も変だったし何かあったのかな?」

 

「翔ちゃん、呼んできてよ。ご飯だって。部屋の場所は分かるわよね」

 

「あ、はい。それじゃ、呼んできます」

 

 そうは言ったけども、俺はどんな顔をして彼女に会えばいいのか分からない。

 俺が悪いんだよな、最初に琴乃ちゃんと鈴音を勘違いしてしまったから。

 俺はずっと彼女を傷つけてきたんだろう。

 思い出せば思い出すたびに彼女は俺に違うというメッセージを伝えようとしていた。

 

「琴乃ちゃん、俺だよ」

 

 部屋をノックするけども、返事はない。

 

「あれ?琴乃ちゃん?」

 

 何度、ノックしても返事はなくて。

 

「入るよ、琴乃ちゃん」

 

 俺はそっとドアノブを回して部屋に入るけど、そこにはデートの時に使っていたバッグが置かれていただけで誰もいなかった。

 

「……携帯もここにあるし、どこに行ったんだ?」

 

 机の上に置かれていた彼女の携帯電話。

 窓の外を見ると暗い夜に雨が降り始めていた。

 

「思った通りに天気が崩れてきたな」

 

 今日はこのまま雨が降り続くと聞いている。

 デートの時じゃなくて本当によかった。

 

「それにしても、琴乃ちゃんはどこにいるんだ?」

 

 俺は不思議に思いながら部屋のドアを閉じて立ち去る。

 リビングにいる鈴音とおばさんに琴乃ちゃんがいない事を伝える。

 

「え?琴乃、いないの?」

 

「……ちょっと待っていて」

 

 鈴音が確認してくると、どうやら靴もなかったようだ。

 

「おかしいなぁ。でも、話をしている時に廊下は誰も通っていないよね?あの子の部屋から外に出るには絶対にここを通らないといけないのにどうやって外に出たの?」

 

 廊下に出て確認すると、俺達はある事に気づく。

 裏の方にある扉のカギが開いていたのだ。

 ゴミを出すためにあるドアでここからも外へ出ていける。

 

「なるほど、ここから出て行ったのか。……それで、何であの子が逃げ出すわけ?」

 

 理沙おばさんに尋ねられて、俺はこれまでの事を正直に話す事にした。

 夕食を食べながら、彼女達には琴乃ちゃんのついていた嘘について話す。

 俺がずっと琴乃ちゃんだと思っていたのは鈴音だったこと。

 そして、思い違いをしていたことも。

 

「そう言う事だったのね。私もおかしいとは思ってたのよ。昔から大人しいあの子を翔ちゃんは明るい子と言っていたし、琴乃と鈴音を勘違いしているんじゃないかって」

 

「俺が悪いんです。勘違いしていたのに」

 

「あの子も、あの子でそれを利用してたんじゃないかな?」


「……俺、琴乃ちゃんを探してきます」

 

 食後、俺はそう言って外に出る準備をする。

 まだ琴乃ちゃんは帰ってこない。

 時計を見ればまだ8時過ぎだが、この雨を考えても放っておくわけにはいかない。

 

「あのさ、翔ちゃん。琴乃が翔ちゃんを好きにだったの、私、知ってたよ。ずっとあの子は翔ちゃんの背中を見続けていたから。あの子にとっては初めて親しくなった男の子だった。きっと初恋だったんだと思う」

 

「鈴音とばかり仲が良くて、正直言ってあの頃の俺は琴乃ちゃんの影は薄かった気がする。でも、幾つかの思い出はあるよ」

 

「琴乃は待っているんだよ、きっと……。早く、あの子を見つけてあげて」

 

 鈴音がそう言って俺に傘を二つ手渡す。

 

「携帯電話の番号を交換しよ?あの子を見つけたら連絡して。お風呂の準備をして待ってるから。それと、これも……」

 

「これは……?」

 

 俺は鈴音から小さな袋を手渡される。

 

「あの子に渡せば分かるから。あとはよろしく」

 

「あぁ、分かったよ。……そうだ、鈴音。変なことだけどさ、確認してもいいかな?」

 

「ん?いいけど、何?」

 

「あのさ、俺と鈴音って――だよね?」

 

 鈴音から“ある事”の確認をして俺は玄関を出る。

 降りしきる雨はまだ小雨だ。

 これから本降りになる前に何とか琴乃ちゃんを探さないといけない。

 

「……琴乃ちゃん」

 

 俺と顔を合わせづらい、その意味は理解できる。

 だけど、俺にも責任があるんだ。

 琴乃ちゃんに俺は嘘をつかせてしまった。

 俺の勘違いが彼女に鈴音を演じさせてしまったのだ。

 

「そういや、琴乃ちゃんが言ってたな。俺は琴乃ちゃんの事は思い出せていないって」

 

 あの時はその意味が分からなかった。

 けれど、今ならその意味を理解できる。

 

「俺はバカだ。大事な恋人なのに、全然、気づいてやれなかったなんて……」

 

 自己嫌悪と後悔をしながら俺は雨の夜を歩きだした。

 サーっと降る小粒の雨。

 

「さて、それじゃ、片っぱしから思い出の場所を行ってみようか?」

 

 俺は本当の琴乃ちゃんの記憶を、思い出を、思い出さなくちゃいけない。

 彼女はきっと思い出の場所にいるはずだ。

 俺と琴乃ちゃんが体験した思い出のある場所に――。

 

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