優斗と誠
そして、すたすたと1組にたどりつく。
ずかずかと1組に入って行く優斗と、ドアの陰に隠れる私。
優斗は誠の首の後ろをぎゅっと掴みながら言った。
「よぉ誠。」
「うぎゃっ!なんだよ!いきなり人殺す気!?」
誠は読んでいた文庫本を投げ飛ばして叫んだ。
1組のみなさんの冷たい視線。
「‥‥うゎあ〜優斗のせいで浮いちゃったじゃん。」
キレイな声だなぁ。
「ってかなんの用なの?」
誠は床に落ちた本を拾いながら廊下にでた。
わっ!見つかる!
私は急いで掃除ロッカーの後ろに隠れた。ホコリが目に入る!
「いやぁ。誠クンにお願いがあってねぇ。」
「なになに?」
「明日俺の家に来てベンキョウを教えろ。」
「断る」
即答。カッコイイ〜。ってか私も勉強教えてもらいたいんですけどっ!
「なんでだよぉ。誠頭いいじゃん。」
「よくない。なんだったらお前の隣の席の人にでも教えてもらったら?」
「へ?隣?誰だっけ?」
‥‥私です!
私の話をしてくれてる!
まぁどうせ私だって知らないけどテキトーに隣の席って言っただけだろうけど。
でも嬉しいよね。
「とにかくお前の家に行くのは、無理。」
「なんでぇ?」
「だって‥‥‥」
誠がちょっと顔を赤らめる。
え、なに!?可愛い!
「だって‥‥?」
「‥‥‥‥優斗の家には大きい犬がいるから‥‥‥」
かわいい!
「犬?んなもん怖いのお前?ぎゃはは!」
「違う!俺、犬アレルギーだから。」
「分かった分かった。」
「分かってないでしょ!」
誠がジタバタして優斗の頭を叩く。
「痛い!じゃあ俺明日お前の家に行くわ。」
「まぁそれならいいけど。」
誠は叩いていた腕を下ろした。
良いのかよ!良いなぁ。羨ましいなぁ。
「じゃあ明日。」
片手をふりながら、優斗は廊下を歩いていった。
「待ってよ!何時に来るの?」
「4時くらい?あ、朝のネ」
「はっ!お前ちょっと待て!常識的に‥‥」
そこでチャイムが鳴った。
♪キーンコーンカーンコーン♪
諦めて教室に戻る誠の姿を見送ってから、
私は掃除ロッカーから出てきた。
「げほっげほっ」
咳が止まんない。
私は涙目になりながら1組のドアの前を通り過ぎた。
1番廊下側の1番前の席が、誠の席だから、ドアの前を通るといつものクセでそこを見てしまう。
そして今日は。
ラッキーなことに。
ばちッ。
目が合った。
鼓動が早まる。
咳は止まらない。
だけど不思議とイヤじゃない。
私は自分の席について、優斗にひと言。
「やっぱ誠カッコいいね。」
「もう聞き飽きた。」