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バカ

作者: 吉田 晶
掲載日:2026/05/10

【ガチャン】


 おぅおぅおぅ、よく来たよく来た。

 急に悪かったな。

 最近お前らのカオ見てなかったから、

 どうしてるかと思って声かけてもらったんだ。


 ……ってお前ら、ソレ、喪服じゃねえか。

 入院の見舞いに喪服で来るって、どういうリョーケンだよ!

 エンギ悪ぃな、クソがッ!

 まだ死んでねえぞ、オレはッ!


 は?

 LINEした?

 この手で見れるわけねーだろ! ちょっとはアタマ使えよ!


【―――】


 あー、そっか。

 リュウの葬式、今日だったっけ。

 オレの見舞いために途中で抜け出してきたんだ。

 そりゃ、ゴクローサン。


 でも、リュウのやつもさ、ジゴージトクとは言え、

 なにも死んじゃうことはねえのに。

 救いようのないバカだったからな、アイツ。


 オレもさ、足がこんなんじゃなかったら葬式に行ってもよかったんだけどさ、

 ま、しょうがねえよな。


 ……てかさぁ、一番後ろのお前。

 テメーだよ、テメー!

 なんだよ、その神父みてーなカッコ!?

 「葬式には黒い服さえ着て行きゃあOK」って思ってんだろ?


 あーっ、カンコンソーサイの常識が無いヤツって、バカだよな。

 ホント育ちが知れるよ。


 ……ん?

 その封筒なに? 見舞金?

 あ、全員分、中身出してまとめて見せてくれる?

 ほら、オレ、手ェ使えないから。


 ……はぁ? 二万?

 たった二万かよ!?

 大事な大事な先輩が、両腕両足フンサイ骨折してんだぞ!?

 それが三人揃って二万とか……しょっぺえ……

 ありえねぇ……


 ほら、ケンジいるだろ、ケンジ。

 あいつ、お前らより一個下だろ?

 なのに真っ先に見舞いに来て、一人で十万置いてったぞ?


 ……まあ、いいよ。

 次からは気を付けろよ。

 ホント、オレじゃなかったらハジかいてるところだったぞ、お前ら。


 ん?

 なに帰ろうとしてんだよ?


 いいんだよ、そんな気ィ使わないで。

 ゆっくりしてけよ。


 こっちはさ、スマホも使えねえから、

 テレビ見てるくらいしかやることねーんだよ。

 最近のテレビって、心底オワコンだよな。

 こんなのおもろがるのって、情弱のジジイとババアだけだろ。


 で、なんかおもしれぇ話ねーの?

 おもんなかったら罰ゲームな。


 な・ん・に・し・よ・う・か・な?


 そうだ、ライター持ってる?

 なかったらポッキーでもいいよ。


【ガチャン】


 ……あ!

 すいませんね。うるさかったですか?

 コイツ等後輩なんですけど、俺に会えたのが嬉しいみたいでハシャいじゃって。

 いつまでもガクセー気分が抜けてないんすよ~。

 きつーくセッキョーしときますんで、すいませ~ん。


【ガチャン】


 クソッ!

 テメエらのせいで叱られたじゃねえか!

 オレ今、あの人にチ●ポまで拭いてもらってんだぞ!?

 イメージ悪くしたくねえんだよ!

 クソが! テメエら治ったらおぼえとけよ!

 オレと同じ目に遭わせっからな、クソが!


【―――】


 は?


「同じ目って、どんな目ですか?」って……


 聞いちゃう?

 事件の被害者に、ソレ、聞いちゃう?

 バカじゃねえの、お前!?

 なんも知らないで見舞いに来るか、フツー!?


 ……まぁ、いいや。

 どーせヒマだし、話してやるよ。




 ショータとリュウと、心霊スポットに行ったンよ。

 さすがにそれは聞いてるだろ?


 なんか、何人も行方不明になってるところだってネットに書いてあったから、

 もし、ほんとにヤベーところだったら、オンナ誘って肝試ししようと思って。


 で、とりあえずヤロウ三人で明るいうちに下見に行ったのね。


 4●2号を●地の手前で脇道に入ってさ、

 テキトーなところに車停めてさ、

 細い道しばらく進んだら、 “Aバリ” が置いてあって、

「私有地につき立ち入り禁止」って書いてあった。


 そしたらショータが、

「ワタシ、ニッポンゴ、ワッカリマセン」ってガイジンっぽく言い出して、

 そのAバリ、崖下に投げ捨てたんだわ。


 バカだよな。


 で、先に進もうとしたら、

 後ろからなんか汚ねえジジイが、大声上げて追いかけて来んのよ。


 そしたらショータがさ、また、

「ニッポンゴ、ムジュカシクテ、ワカンナイネ」

 なんてチョーハツするから、そのジジイめっちゃ怒ってんの。


 で、ジジイはさ、ジジイ特有のエアガム噛みながら、

「このしゃきには “八木ヤギさま” がおられる、入るな!」って、

 すっげーイカクしてくんのよ。


 メンドクセーことになったなと思って、リュウの方を見たらさ、

 アイツ、なぜか肩振るわせて、必死に笑いをこらえてる。


 どうしたん? って聞いたら、

「八木って聞くと、『インモー土佐ガツオ』の八木を思い出さね?」って。


 お前らも知ってんだろ、あの伝説バカの八木だよ。

 オレも思い出しちゃってさ、もう笑いがとまんねーのなんの。


 で、しばらく三人で爆笑してたらさ、とうとうジジイがキレて、

「このクソガキどもが! 死ねッ!」ってゼッキョーしたのね。


 そのとたん、ショータもキレちゃってさ。

「ソノニホンゴ、ヨクナイニホンゴデ~ス」

 って、ジジイの顔面に回し蹴りをぶち込んだんだわ。


 ジジイ、鼻血を流しながら、地面の上でクロール泳ぐみたいに逃げてった。


 オレ、ショータにビシッと言ってやったンよ。

「なあ、ケーサツ呼ばれたらメンドくさくね?」って。


 そしたらアイツ、

「みねうちでござる」とかマジメな顔で返事してくんの。


 意味わかんね~。

 さっきまでのガイジンキャラはどこ行ったんだよ。


 それがまたおかしくてさ、三人で大爆笑。


 で、モンスターを倒した勇者たちは、ダンジョンの奥に進んだワケよ。

 坂を上ったり下ったり、だいたい一時間くらい歩いたかなあ。

 目の前に、木造のボロっちい建物が見えてきた。


 あのジジイの仲間がいたらイヤだから、スキマから中をのぞいてみたらさ、

 暗くてなんも見えなかったけど、誰もいないのはなんとなくわかった。


 さて、どうしようかってところで、ショータが暴走。

「おっおっおっ! 中に宝箱あるかも~」って、

 入り口のトビラをバーンって蹴破って、ズカズカ入って行っちゃった。

 

 あるわけねーだろ、こんなところに宝箱。

 アイツ、ゲーム脳だったからなあ。

 だからこのあと、死んじゃうんだけど。


 ま、それはおいといて……


 その建物、なんかおかしかった。

 外見はカンペキに寺なんだけど、中に入ってみると洋風――

 んー、結婚式場みてーなカンジって言えばわかる?


 で、その結婚式場の一番奥にさ、

 人間より一回り大きいくらいの仏像が、

 デデーンって置いてあったんだよ。


 それがすっげえ気持ち悪くてさぁ。

 変態だよ、変態。露出狂の仏像。

 頭だけ動物で、チ●ポをフルボ●キさせた全裸のおっさんが、

 あぐらかいてるんだよ。


 そしたらリュウがさ、ぼそって言ったんだ。

「あ、ヤギって、八木じゃなくて山羊か……」って。


 そう――

 つまりは、その像の頭が “山羊” だったワケなのね。

 もうさ、オレもショータもツボに入っちゃって、笑いが止まんねーの。


 でも、このままだとリュウに()()()()()()()()()で悔しいから、

 その変態仏像のオデコに、ナイフで「八木」って刻んでやったんだよ。


 自慢じゃないけど、オレ史上最高のギャグだったと思う。


 リュウは笑いすぎて過呼吸おこすし、

 テンションMAXのショータなんか、そこらへんの壁蹴りまくって穴あけるし、

 いやぁ、めっちゃ盛り上がったわぁ。


 で、その「山羊頭の八木チャン」と記念写真撮ったら、

 他にやることもなくなっちゃって、

 なんとなく「帰るか」ってフンイキになった。


 そこでようやく気が付いた。

 仏像の首に、何か掛かってたんだ。


 あー、そこにオレのバッグあんべ。ちょっと開けてみ。

 中に新聞紙で包んでるやつがあるだろ。

 そう、それそれ……

 

 なっ、なっ、なっ。

 その逆さ十字のロザリオ、ちょっとイイだろ。

 たぶんシルバーだぜ、それ。

 オレ、アクセサリには詳しいんだ。

 ケガ治ったら、鑑定団に出してみようと思っててさ。

 入院費くらいにはなるんじゃねえの。


 おっと、そりゃあどうでもいいんだ。

 ――いいか、ここからがヤベーから、よく聞いとけよ。


 オレたちが建物から出ようとしたらさ、なんかクセェんだよ。

 真夏の動物園のサル山みてーなニオイが、外から漂ってきた。


 で、外に出てみたらさ、建物の前の広場みたいになっているところに、

 バカでかい山羊が寝そべってた。


 は?

 ウソじゃねえから! 刺すぞテメー!


 毛むくじゃらで、黒くて、象ぐらいの大きさで――

 ソイツが、荒い鼻息立てながら、こっちをじっと睨んでやがんの。


 あまりにワケわかんなくて、三人とも固まっちゃった。


 どれくらい経ったかなあ。ショータが言ったんだ。


「山羊って草食だろ。そこらへんの草でも食わせて、

 テイムしたスキに通り抜けちゃおうぜ」って。


 ショータのヤツ、バカだから、山羊が肉食だってことを知らなかったんだな。

 すぐ近くに生えてた木の枝をへし折って、山羊の口に近づけたんだよ。

 

 そうしたら山羊が、ヴェエエエエエエエエって鳴いたんだ。

 すっげえ音量だった。

 空気が震えて、建物がミシミシいうくらい。


 次の瞬間、山羊は木の枝じゃなくて、ショータの頭に嚙みついた。

 それで、ブンって首を一振りしたら、無くなってたんだ、頭が。


 山羊は、そのままショータの体をメチャメチャにするのに夢中で、

 こっちのことは見ていない。

 おれはモンハン得意だから、焦らず冷静にその山羊を観察したんだ。


 ――たぶん角が弱点。


 直感的にそう思った。


 で、リュウと協力してその山羊をボコボコにしてやろうと思ったらさ、

 リュウのヤツ、ションベン漏らしながら逃げ出しやがった。


 しょうがないから、追いかけたよ。

 しばらく行ったら、道の端っこで、リュウがうずくまってんの。

 派手にコケて、足をくじいたらしい。

 大丈夫かって声をかけたら、返ってきたのはいきなり泣き言。


「逃げ切れるわけがない。あの山羊はバケモノだ」

「俺達が失礼なことをしたから、怒って出てきたんだ」

「謝って許してもらおう」


 いいトシこいた大人なのに、あきれるほどバカだよな。

 だからオレ、言ってやったんだ。バケモノなんているわけねーだろって。

 なのにアイツ、オレの言っていることなんてまるで聞こえてないフウに、


「お前、ロザリオ持ってきちゃったよな? あれがスイッチだったのかも!

 返そう! ヤバいからあの山羊に返そう!」


 って、ギャンギャンわめきちらすのよ。

 オレ、カチンと来ちゃって、言ってやったんだ。


 ――だったら、こないだオレが立て替えたボウリング代1,560円、今すぐ返せよ。


 だってそうだろ?

 人にエラソーにセッキョーするなら、まずは自分が手本を見せるべきだろ?


 そしたらリュウのヤツ、


「ぞんなごどいっでるばあいじゃないだろぉぉぉぉ!」


 って泣きながら逆ギレすんだもん。ほんとタチ悪ぃよ。

 ピンチの時に人間の本質が出るって、ホントなんだな。


 で、そんなことやってる間にさ、案の定、

 また、あの動物園の臭いがしてきた。

 振り向いたら、いつの間にか黒山羊がこっちをじーっと見下ろしているんだよ。


 リュウは、もうすっかりビビっちゃった。

 ウ●コ漏らしてんだよ。

 ズボンの裾から、ウ●コがビチビチこぼれて来てんの。


 山羊の前に飛び出して、土下座しながら、

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」って繰り返してんの。


 バカだよな。

 動物に言葉が通じるわけねえだろ。


 山羊は、リュウの背中を前足で押さえつけると、一気に頭を嚙みちぎった。


 よく振ったビールの栓を引っこ抜いたみてーに

 ぶしゃああああああああああああああ!!

 って血が噴き出した。


 あーあ。

 まったく、最初っからオレの言うとおり逃げていれば、

 こんなことにはならなかったのに。

 てかさ、オレがこんな怪我をすることになったのも、

 よくよく考えてみればアイツがダダこねたせいなんだよな。

 

 まあ、いいよ。もう全然怒ってないし。

 リュウ、死んじゃったもんな。

 訴えたってカネとれるわけでもないし。

 

 あ、もしかしてオレ、優しすぎる?

 でもさ、優しさって、生きてく上で大事だと思うぜ。

 ま、お前らのようなDQNには一生理解できないだろうけど。


 さあ、クライマックスだ。

 オレは必死に走った。

 とにかく人のいるところまで行けば、なんとかなると思った。


 オレ、高校の時バスケ部でレギュラーだったから、足には自信があるんだよ。


 で、しばらく走っているうちに、道もだんだん広くなってきて、

 乗ってきた車が見えてきた。


 ――助かった。


 そう思ったのと同時に、頭の上の方から、

 ヴェエエエエエエエエ!!

 って、あのものすげえ鳴き声がした。


 次の瞬間、オレの体は宙を飛んでた。

 車の上をそのまま飛び越えて、車道まで放り出された。


 アスファルトに背中強打して動けなくなっているところにさ、

 パトカーが走ってきて、バーン!!


 ――で、両手両足フンサイ骨折の重傷ってわけ。


 でも、結果としては良かったんだよな。

 そのパトカー、最初にやっつけたジジイが呼んだらしいんだけど、

 オレのことハネちゃったわけじゃない。

 オレ、被害者扱いになって、警察から見舞金まで出るみたいなんだよ。


 あの山羊も、パトカーのサイレンに驚いて逃げちゃったみたいだし、

 やっぱオレ、持ってるよなあ。


 ――って!

 なに勝手にロザリオに触ってんだテメー殺すぞ!!


 あのな、クサレ脳味噌にも分かるように言うとな、

 人のモン勝手に持ち出すのは、悪いこと。

 立派な犯罪でちゅからね~!


 ――あとさあ、最初からずっと気になってたんだけどさ、

 病室ではせめて帽子くらい脱げって。

 どーいう教育受けて来たんだよ。

 本当に日本人かテメー。


【―――】


 そうだよ、そうやって素直に帽子脱ぎゃあいいんだよ。

 ……てか、誰だよ? ガイジン!?


 待て、待て待て待て!

 お前の名前、もしかして「八木」か?


 オデコに自分の名前の墨入れてんの!?

 自己主張すっげえ激しいな、オイ!?


 お前みたいなバカ、はじめて見た――

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