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父の転移が多すぎて、困っています  作者: アカホシマルオ


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第2話 父の転移が多すぎて、友達ができない 前編

 


 私がまだ中学三年生で、高校受験を控えていたことの話をしよう。


「召喚状が届いたから、今日中に支度を済ませておいてくれ」

「ああー、やっぱり来たかぁ」

 朝食の席で父の宣告を聞き、私は天を仰ぐ。結局は強制的にどこかへ転移されるのだが、最近は何の配慮か召喚の一日前に召喚状が届くらしい。でもこれ、どこからどうやって来ているのだろう?


「ごめんね。受験も近いのに」

 母は私の進学について、ずっと心を痛めていた。

 ああ、これでまた穏やかな学校生活ともお別れし、明日からは殺伐とした異世界なのだろう。


 私の名は松丘絵里。来春の高校受験を控えた、ごく普通の中学三年生だ。普通じゃないのは、私の両親である。


 前回の召喚から日本へ戻って、およそ二か月半が過ぎた。そろそろお呼びがかかるのでは、と怯えていたところに召喚状が届いた。今度の異世界暮らしは、どのくらいの時間がかかるのだろう?

「念のため、教科書や参考書を全部持って行きなさいね」

「うん、そうする」



 私は物心ついた時から一か所に落ち着いて暮らした記憶がなく、両親と一緒に三人揃って諸世界を転々としている。

 父の職業は勇者で、母は聖女。アラフォーの両親と私の三人セットで勇者パーティとして召喚され、数多くの世界を救ってきた。

 でも子供の私は何の能力も持たない普通の人間で、お家でおとなしく留守番をしているだけなのだ。


 一家三人が呼ばれて行く先々で、世界は様々な顔を見せる。

 両親と敵対する勢力も、魔王であったり邪神であったり、悪の秘密結社であったり異世界から襲来する怪物であったり、一度は宇宙からの侵略者であったりもした。

 どんな世界での闘いの日々も、その世界の歴史に刻まれる栄光に満ちた英雄譚に間違いない。そんな日常を、私は生まれた時から繰り返している。



 凶悪な相手を前に勇者である父は怯むことなく立ち向かい、早ければ数か月、長くても二年ほどの期間でサクッと勝利して、家族は元の世界へと帰還する。

 日本の自宅へ戻って三か月もするとまたどこかへ召喚されるので、大人気の勇者様なのだろう。だから私は長くても三か月ほど通学すると、再び新たな別世界へ向かうのだ。


 ただ、異世界とこの世界とでは時間の流れが違う。戻ってみると概ね異世界に滞在した期間の半分から三分の一程度しか時間が経過していないのだ。

 家族三人、特に老化や成長が早いということもないので、肉体の経過時間はこちらの時間軸に基づいているのかもしれない。


 義務教育のうちは学校を欠席していてもすぐ退学とはならないが、高校へ進学すればそうもいかないだろう。


 しかし勇者召喚は、必ず聖女である母と一般人の私も含まれている。分割不可能なパッケージ販売なのだ。これは両親にも、どうにもならないらしい。これから私はどうなるのだろうか。今はそんな岐路に立っている。



 それほど何度も異世界に召喚されている私たちだが、そもそも勇者召喚など、おいそれとできるような儀式ではない。いや、そうらしいのです。


 勇者を召喚する場合、多くは王城や大神殿、大規模な研究施設など、国の中枢を担う重厚な建築物の最奥部で儀式を執り行うことが多い。世界が危機に瀕している割には、案外安全な場所なのだ。

 時々は、召喚の儀を阻止しようとする輩との間でいきなり修羅場になっていたりもするけど、そこは私の両親が現れるとサクッと処理してしまうので。


 あと、何度かは本当に滅亡寸前のヤバいところへ召喚されたこともあったけど、母が聖女の力をフル稼働して清浄化し、怒った父が全力を出して討伐を開始したので、史上最短で敵が殲滅された。

 いつもより早く帰れて私は喜んだけど、両親はしばらく動けないほど疲れきっていたなぁ。


 勇者と聖女の子ですから期待されがちですが、そもそも私は異能の力や異世界には関心がない。そりゃ、両親のこんな悲惨な姿をずっと見ているのだから。



 日本ではずっと同じ家に住んでいるけれど、この家に居られるのは年に三か月ほどだろうか。学校の休みとも重なるので、通学できる期間はもっと短い。


 両親は基本的にこちらにいる間は休養に充てていて、特に仕事をしているようには見えない。逆に異世界へ召喚されれば、私を後方へ残したまま最前線で闘い続けるので、顔を合わせる時間は意外と少ない。


 ただどこからか自宅へ送付されて来る召喚状の件もあるので、私の知らぬ組織で何かをしているのかもしれない。

 どちらにしても家の近所に私の年ごろの子供は少なく、幼馴染どころか普通に話す友人すら私にはいない。


 父の仕事で度々海外へ行くように装ってはいるが、転移先の異世界にメッセージや写真が届く筈もないし、返信もできない。帰還しても、洒落た土産話の一つもできないし。そんな人間とは、誰も繋がろうとはしない。

 だから、明日からの不在を告げるべき友人は一人もいない。

 うちの両親は、政府の特殊な仕事をしていると思われているかもしれない。いや、実は私もそう思っているのだけど。



 ということで翌日、私たち一家三人は自宅の居間から新たな異世界へ召喚された。慣れたもので、事前に集まりのんびりしていると、瞬時に周囲の景色が変わる。乗り換えなしで交通費もタダなので、楽なものだ。


「おおお、勇者様」

 石造りの広間に描かれた魔法陣の中心に、我らは出現する。アーチ形の高い天井の下、私たちを囲むように身なりの良い数人の男女が待っていた。後方には剣や槍で武装した兵士が緊張気味に控えている。


「今回はド定番の、中世魔法世界かなぁ」

 召喚術を用いるのは、圧倒的に魔法世界が多い。ここも、剣と魔法のファンタジー世界特有の魔力の香りに満ちている。これがマナとか魔素とかなのだろうか。私でも感じられる、ひりひりした空気が満ちている。

「どうやら、そのようだな」

 父が勇者らしく、堂々と周囲を見回した。


 召喚された場所の装飾と現地人の服装を見れば、概ねどんな世界にやって来たのか想像できる。予測不能な状況に遭遇すれば、いきなり身の危険を感じることとなる。

 両親はきっとその能力を用いて、より深く彼らのステータスなども見ているのだろう。好意的な現地人の登場で、今回は安全な転移だったようだ。


 さて、今回のクエスト達成には何年かかるのやら。半年後の高校受験に間に合うには、一年くらいでちゃっちゃと攻略してほしいなぁ。でも、両親には私のために無理をしてほしくない。いいんだ、学校なんてどうでも。そんな風に私は装う。

 どちらにしても、無力な私は安全地帯から出ることなく、一人でこの石の城の中で過ごすことになるのだろう。



「おお、勇者様が三人も召喚されるとは、頼もしい」

 現地人代表が感極まって畏まるのに合わせ、他の男女も正面に集まり片膝をつく。浅黒い肌にゆったりとした衣服を見ると、砂漠のような乾燥地にある王国なのかもしれない。全員が私たちと同じ、ヒューマンだった。


 私は何の力も持たないので、勇者様と言われても困るんだよ。そこは、父が上手く伝えてくれるだろう。いつものことさ。


「召喚に応じていただき、恐悦至極に存じます。私はこの地を統べる十四代王朝の筆頭魔術師でございます。今王朝が危機に瀕し、勇者様の召喚に最後の望みを託しました。どうかこの国を救っていただきたい、それだけが望みでございます」

 まぁ、大体いつもこんな感じだ。召喚の儀を司った魔術師を恨んでも仕方がないのだけれど、心の狭い私はどうしてもその白髪頭を睨みつけてしまう。


「あらあら、来たばかりなのに悲観的なお話ですね。私たちが来たから大丈夫とまでは言い切れませんが、先ずは事情をお聞きし、それから大急ぎで一緒に世界を救いましょうね」

 母が能天気な笑顔を見せたので、場の空気が少しは軽くなった。



 私たちはそのまま広間を出て謁見の間にて第十四代王朝のなんたらキング殿にお目通りした後に、用意された私室へ案内された。

 どうも今回の召喚は勇者一人だけを見込んでいたようだ。ところが妻子がおまけについて来たので、大慌てで別の広い部屋を用意したらしい。


 なんたらキングとの面会にやたらと時間がかかったのも、そのせいだとか。私の両親は異常に能力値が高いので、周囲の慌てぶりや内緒話も筒抜けなのである。


 父によると、召喚された瞬間から闘いは始まっているのだそうな。先ずは味方の信頼を得ることと、内部の勢力分布を把握し権力構造を単純化すること。それが毎回のスタートラインなのだった。


 現地の内紛などは当たり前で、滅亡の危機を脱した後のことも考え大規模な粛清が必要な場合もあるらしい。そんなだから、滅亡の危機に瀕して勇者を呼ぶ羽目になるのだぞ。迷惑な話だ。



 勇者一人だと思ったら聖女様のおまけつき。しかも人質にぴったりの子供までいるのだから、超お得な召喚セットである。これを喜ばないわけがない。

 翌日から両親は朝から晩まで精力的に動き、私は基本的に母の張った結界の中で生活をすることになる。


 この地で本当に信頼できる仲間を得るまでは、私に自由はない。というか、その後もきっとこの城塞の奥から出ることは、かなり難しいのだろうけどね。

 石造りの部屋に窓はなく、光と空調は魔法で管理されている。


 だから私は母親が次元魔法により何もない空間から取り出した高校受験の参考書や問題集を開き、お昼は以前に近所の弁当屋で買っておいた焼肉弁当を食べて一日を過ごす。

 飲み水や果実は部屋に運ばれていたものを口に入れるが、どれも母の聖魔法により完全浄化済みだ。


 食後は暇なので、ポケットからスマホを出してダウンロードしておいた映画を見たり、音楽を聴いていた。ソーラーパネル付きのモバイルバッテリーは、直接太陽に当てなくても両親の使う光魔法で充電が可能だ。どういう仕組みなのか、充電は瞬時に終わる。それなら電気魔法で直接スマホを充電すればいいのにと思うが、それにはスマホが壊れるリスクがあるらしい。うーん、光魔法ってところがキーなのかな?



 こうしてまた、新たな異世界転移生活が始まった。ほぼ少女監禁状態で、児童相談所に訴えて出たい。美少女監禁と言いたいところだが、そこにはもう一つ自信がない。

 今のところ両親が遠征する計画はなく、毎日夕方になると部屋へ戻って来る。だがこの先はわからない。


 もっとオープンな場所に転移していれば外の世界も見られたのに、今回はやや残念だ。運が良ければ、そのうちに両親と一緒に外出する日もあるだろう。この破滅に瀕した世界では、私にできることは何もない。あとは黙って待つのみである。



 後編へ続く




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