ドーバー理論海を渡る
「積極財政」ではなくて「責任ある積極財政」のためにその根本となる「ドーバー理論」の理解が必要となる。しかし、現与党の K 財務大臣からドーバー理論の解説は少なく、その部分をきちんと説明しないと「責任ある積極財政」が単なる「積極財政」になってしまい、元も子もなくなってしまいそうなので、ここに勝手に補足することをご了承いただきたい。
そもそも、財務省のプライマリーバランス(PB)の黒字化目標というものには、赤字国債をできるだけ発行しないという手段が含まれている。実際に、現在においては国債の支払を国債で行なっている比率が高く、おおよそ70%ということになっている。つまり、100万円の借金を返すのに、新たに 70 万円の借金をしているという自転車操業状態なのである。しかし、一般家庭とはことなり、国が紙幣を刷ることができるので、これが一般でいうところの「借金」かどうかはわからない。つまりは、一方で財務省ではこれを返済しなければいけない借金とみなして PB の黒字化を目指しているのだが、もう一方で K 大臣の言うように、それは借金ではなく政府の負債であって国民の試算であるという見方もできるのである。果たして、K 大臣の言うように、将来的に国債がどうなるのかは不明であるものの、その根底となる「ドーバー理論」については理解をすれば、どの程度の国債発行が可能なのかが計算できるというものである。
一般的に長期国債の発行は、国債を買った人に支払う利息が問題になってくる。当然、手元の現金のままではなく国債を買うのかという投資の問題にもなる。資本主義経済においては、いや株というものがある経済においては、現金を手元に置くと価値がさがるという理念がある。価値が下がるというのは、手元の現金 100 万円が、10 年後位には 90 万円になってしまうということだ。これは、いわゆるインフレーション(物価上昇)に関わってくる。日本ではここ数十年の間、ものの値段というものが上がらない状態が続いていた。しかし、明治の頃から比べれば 1 円タクシーの値段が初乗り 780 円ほどに上がっていることが分かる通り、物価は徐々に上がっていくものである。これは、経済の仕組みというよりも、物の値段が上がるという前提で株式や投資が成り立っているからとも言える。逆に言えば、手元の現金が全く同じ価値のままであるならば、なにも株式投資をする必要はないのである。リスクを取らなければ 100 万円のお金は 100 万円のままである。しかし、株投資家にとっては、そんなことでは困るのだ。金の価値は下がり続けなくてはいけないし、株投資は上がらないといけない。そうしないと、株の意味がないのである。
そこで、株式投資家が選んだのは、株を集めたときになんらかの確率で価値があがることを決めたのである。そもそもは、船舶の保険であったり、航海のために資金をあつめてその結果として配当金としたの株のはじめである。船が沈んでしまえば投資したお金はつまりは株は帰ってこなくて大損になってしまうのだが、あらたな商品を積んだ船が無事に到着をすれば、その新商品を売って大儲けができる。つまりは、多くの配当金が受けられるという仕組みである。これは、確率的に発生するものでありつつも、投資先の会社やベンチャー企業の動向などをみて目利きを働かせて投資をする、という投資家という分野を発生させているものでもある。
さて、儲かる投資家を見たとき、それは手元の 100 万円が一向に増えない労働者にとって、どのように見えるかというと「うらやましい」と思う感情が自然である、というのが株式投資の根源でもあり、物価のインフレーションを促進させる原動力でもある。
手もとの 100 万円がずっと 100 万円のままであり続けたら、計画通りに過ごせばいいのである。しかし、どうだ、1年後とに10年後とにちょっとずつ目減りをしてしまう、手元の 100 万円を眺めるしかないとしたらどうだろうか。ええ、これ、ちょっと、なんとかならないの、とか思うだろう。そこが、インフレーションつまりは物価高の漬け込みどころである。昨日変えたお米の値段では、今日のお米は変えない。ほらほら、早く買わないと、明日になって高くなってしまうよ、という割引セールのような気分である。それを煽りに煽ったのが、上昇する経済というものであろう。
さて、「ドーバー理論」に話を戻そう。
経済が上昇するときには、必ずインフレーションが働くとすれば、手元の 100 万円の現金が目減りしてしまうと同じように、100 万円の借金も目減りしていくというのが「ドーバー理論」の根本的な発想であえる。つまり、今 100 万円借りたとしても、将来的には 90 万円返せばいいい。いや 50 年後だったら半分の 50 万円になってしまうかもしれない。というのが物価高の現象である。もちろん、ゼロ金利政策のように経済成長のまったくない GDP 成長率が 0% のときにはこれは起こらない。なにかと「発展している」という雰囲気が必要なのである。そう、なにも本質的に経済が発展している必要はなく、ただ物価上昇が続いている、GDP 成長率がプラスになっているという雰囲気があればよいのだ。実は物価上昇と GDP 成長率は独立した変数ではなく、連動している。物価が上がるということは、100 円のものが 110 円で売るようになるわけだ。GDP というのは総生産量というわけだから、100 円のものを 110 円で売るようになっただけで、あっという間に 10 % の成長率の完成である。そう、金額ベースの GDP 成長率だけ考えてしまうと、そこには架空の成長が含まれてしまうという落とし穴があるのだ。勿論、ここの GDP というのは「名目GDP」であって「実質GDP」ではないことを忘れないで欲しい。いや忘れて欲しい。単に、GDP と言えば、ごまかしがきくのである。
この物価高については、長期国債の利率も関係してくる、つまり、長期国債の利率が物価上昇の利率を下回れば、実質国債の利率はマイナスになるという理論である。先の借金の話と同じだ。100 万円を借りたとしても、数年で 90 万円の価値しかないとすれば、いまのうち借りていたほうがよいという話である。しかし、100 万円借金をした場合には、なんらかの利息をつけて返さなければいけない。たとえば、年利 2 % であれば、1 年後には 102 万円を返さなければいけない。しかし、物価上昇率が年 3 % であれば、1 年後の 102 万円は、実質的には 99 万円の価値しかない。なんと 1 万円の儲けとなるわけだ。100 万円借りたのに 99 万円分だけ返せばよいのである。
同じことは、長期国債にもあてはまる。長期国債の利率が 2 % だとして、経済成長率が 3 % であれば、どうだ。先のように 1 % の差分が発生する。
ちょっと簡単な比較でいえば、こうなる。
g > r
g : GDP成長率
r : 長期国債の利率
諸君、そこで考えても見給え。
さきほど GDP 成長率を手っ取り早く上げるためには、物価高を促進すればよいことがわかった。単純に言えば年 10 % の物価高になれば、GDP 成長率は 10 % になるのである。いいことだ。なにもしないうちに GDP 成長率が 10 % になるのだから。さて、このときの国債の利率はどうだろうか。最近でいえば 2,3 % の利率がいいところである。国債はたしかに安定の利率ではあるものの、株式投資に比べたら低い。もちろん、国が潰れない限り国債の支払が滞ることはないのだが。そう、国債の支払は国債で賄うことになるので、延々に国債で払っている間は大丈夫なのである。そう、国債が外国に買われなければね、という条件があるのだが、これは無視してよいだろう。ああ、本来は無視してはいけないのだ今回は目をつぶって欲しい。ダチョウが頭を地面に突っ込むようなものである。
そうなると、K 大臣の提唱する「ドーバー理論」は完璧だ。
株式投資を促進して、物価高の上昇を狙えばよい、国債を大量に発行せつつ、GDP 成長率よりも下回ればよいので、国債の利率が上がるたびに物価上昇を狙えばよいというわけだ。実際の経済成長に関しては投資を拡大すればよい。投資先は国内に限らず、いや、むしろ海外に投資するほうがいい。なにせ、国内の冷え込み状態ではリターンを得にくからだ。だから、海外投資を促進して輸出幅を大きく取る。積極財政、いや「責任ある積極財政」を進めるための下地がこれで完成である。なんて完璧な理論であろう。
おお、賛成だな俺は、うん。
<しばし、ChatGPT で「ドーバー理論」を検索>
結論から言うと、「ドーバー理論」という経済学用語は存在せず、正しくは「ドーマーの定理(Domar’s theorem)」や「ハロッド=ドーマー・モデル(Harrod-Domar model)」を指している可能性が高いです。
あ?、え?、「ドーバー理論」じゃなくて「ドーマー理論」なのか。え? そうなるとこの「ドーバー理論」ってのは一体、なんだ、いや、ちょっと....失礼、い・た・し・ま・し・たッ!!!
【完】
「ドーマー理論」で積極財政についは悪くないと思うのだが、日銀の利上げに対して注文を付けていないところから利上げと長期国債が同時に発生してしまい、経済成長率が国債利率を下回りかねないという現象が起こっている。注視する必要あり。
ちなみに、ドーマー理論は固定相場の頃の話なので、現在の為替の変動に対応していないと思われる。ここも危うい。




