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NO.16 光

"「結局、俺たちは戻ってお金を払ったんだ」


姜沐は姫素衣に午前中の出来事を話し終えたところだった。


姫素衣は何事か考えている様子で、「なるほど、英語の辞書って一冊たったの800円なのね」と言った。


(さすが姫殿下だ、目の付け所が普通じゃないな)姜沐は思った。「普通さ、良いことしたのに名前も残さなかった俺を褒めるところじゃないか?」


「これが普通の物価……いや、これも普通とは言えないか」都なんだし、一冊800円はまだ高い方だよな。


姫素衣は言った。「でも、私の家にも英語の本があるわ。父が言うには600万ドル以上したって」


「……誰の本だよ、それ。インクに金でも混ぜてんのか?」


「シェイクスピアよ」


姜沐:「……頼むからさ、退院してもそういうこと、むやみに口にするなよ?」


彼の家にも似たような美術品はある。ただ、姜去寒は中国風の古書を好み、書架には古いものから新しいものまで、びっしりと並んでいた。そして姜沐はその中から『清河詞話せいかしわ』を見つけてしまった……ご先祖様たちとそう頻繁にお会いしたくないと思わなければ、姜沐はとっくにこの本に新しい家、例えば近くの川なんかを見つけてやっていたはずだ。


「うん、あなたにしか言わないわ」姫素衣は真剣な顔で言った。


姜沐は大いに感動した。


「じゃあ、私にも頬へのキスの挨拶のこと、教えてくれる?」姫素衣はさらに真剣な顔で言った。


姜沐は固まった。


(いや、ここはシェイクスピアの話に戻そうぜ……)


姜沐はふと李華のことを思い出した。もし李華がここにいたら、すぐに話題と関係ないネタを振って、李華がそれに阿吽の呼吸で乗ってくれるだろう。二人で職員室で立たされていた時も、いつも十句じゅっくも交わせば生徒指導の先生をけむに巻いて、まんまと逃げ出していた。校長先生は話の分かる大人な女性で、いつもドアの外でひまわりの種でもポリポリやりながら、中の様子を笑って聞いていた。結局、怒りのやり場がない生徒指導の先生に捕まって、床に散らかった種の殻を掃除させられるのは校長先生の方だったが。


「頬へのキスの挨拶、ね」


姜沐は平静を装い、顔色一つ変えずに言った。


「これは『ベゼ』とも呼ばれていて、古代ギリシャ・ローマ時代に起源を持ち、封建社会では騎士や聖職者の特権だった……」


姫素衣は何も言わず、ただ小首を傾げて姜沐を見つめている。その顔立ちは静かで穏やかで、森の奥深くに佇む神像のように白く清らかだった。


「あ、そうだ。姫様、ずっと授業出てないけど、俺が勉強見てあげようか?冗談抜きで、勉強にはちょっと自信あるんだけど……」


姫素衣は黙って見つめ続ける。


姜沐はもう誤魔化しきれなくなった。


「……いや、本当にただの日常的な挨拶なんだって」


彼は必死に言葉を絞り出す。その姿には、職員室で軽口を叩いていた時の意気軒昂さのかけらもない。「言ったろ?彼女にはイギリス人の血が入ってるって……向こうじゃ、たぶん、普通……なんだよ、きっと」


「じゃあ、私も」姫素衣は言った。


「……」


「ルーツを辿れば、私の先祖にもイギリス人がいるかもしれないし」


(姫様、自分が何言ってるかわかってんのか……?)姜沐は心の中で突っ込んだ。(軒轅氏けんえんし姫姓きせいの意味、わかってる?俺がいた元の場所ならともかく、こっちの世界じゃ、あんた以上に純粋な炎黄えんこうの子孫なんて、中国全土を探したっていないだろうに……)


だが、姜沐にはそれが言えなかった。彼女がまた、あの表情をしていたからだ。何も言わず、表情もほとんど変えないのに、その眼差しはひどく頑なで、一万頭の鉄騎馬でも引き戻せないような強情さが宿っていた。


姜沐は、初めて姫素衣に出会った時のことを思い出していた。


――あの時、姜沐は本来なら木から落ちるはずなどなかったのだ。


彼は天賦の才に恵まれ、何事においてもそうだった。人間の限界が10だとすれば、彼がこの世に生を受けた瞬間から、最低でも6の数値は持っていた。


木登りどころか、泰山たいざんに登ったって落ちるはずがない。


木の葉の隙間から、車椅子の姫素衣を見るまでは。


あの頃の姫素衣には、毎晩壁をよじ登って会いに来る少年もおらず、病状もまだ好転していなかった。「骨と皮ばかりに痩せ衰える」「か弱く風にも吹き飛ばされそう」――そんな言葉は、まるで彼女のためにあるようだった。


それでも、彼女は立ち上がりたかったのだ。


ただ立ち上がって、雨上がりの空を見たかった。


それだけなのに。


だが、姫素衣は失敗した。虚弱さが縄のように彼女の手足に絡みつき、立ち上がろうとしては座り込み、座り込んではまた立ち上がろうとする。けれど、か弱い身体は枯れた藁のようで、燃え上がることすらできず、まともな灰も残せない。


だから彼女は車椅子に座り、ただ呆然と空を眺めていた。


無表情に。


今の彼女と、まったく同じように。


そうだ、姫素衣はそういう女の子なのだ。まるで常に全てを持っているようで、それでいて常に全てを失っているよう。だから、何を得ても、何を失っても、彼女はいつもこんな風に無表情なのだ。


引き止めたいと思わないわけじゃない。ただ、悲しみに慣れてしまっているだけ。


だからあの時、姜沐はわざと枝を折ったのだ。


だから今、姜沐はふとため息混じりに笑い出したのだ。


「実はさ、頬へのキスって、主にフランスの習慣なんだ」彼は笑った。「イギリスとはあんまり関係ない……就算あったとしても、姫家のあんたとは、まず間違いなく関係ないね」


「うん」


姫素衣はそれ以上何も言わず、小さく頷いた。


またあの表情だ。何かを失うことに慣れてしまったような顔。


「でも、姫素衣に関係あることは、一つあるぜ」


姜沐は手首をぷらぷらさせながら、姫素衣の真正面に歩み寄った。


「例えば、昨日はまたどしゃ降りだったこと。それから、今日はまたいい天気だってこと」


「そして――今、ちょうどこんな太陽が出てるってこと」


姫素衣は不思議そうに顔を上げた。


姜沐が何を言っているのか、尋ねようとしたのかもしれない。


だが、彼女にその機会はなかった。


――次の瞬間、強い力でぐいっと両脇を抱えられたからだ。


突然、身体が持ち上がる!


姫素衣は呆気に取られた。


低い視界が一気に高くなる。まるで雲の上に浮かんでいるような錯覚さえ覚える。暖かい風が頬を撫で、色の少し褪せた髪が揺れる。


「な、ななな……!」彼女の頬はみるみるうちに真っ赤になり、まるで雲間に沈もうとする夕陽のようだ。


「降ろして!」


「やだね!」


「は、早く降ろしなさいっ!!!」


姫素衣は心臓が止まりそうなほどドキドキしていた。


姜沐はははっと笑い、姫様をまるで大きなぬいぐるみでも持ち上げるかのように、高く掲げた。


そして、さらに大きな声で繰り返す。


「降ろさなーい!!!」


「あ、あなたねぇ――!!!」


姫素衣は恥ずかしさと怒りで、目の前の憎たらしい男の頭を、持っていた保温ボトルで思い切り殴りつけてやりたい衝動に駆られた。


姜沐はふざけるのをやめた。


「今の夕陽、見ないのか?」


彼は姫素衣と向き合っている。夕陽の光が彼の背後から差し込み、その整った顔立ちを陰影の中にぼやけさせる。


「あんたがあの日見たがってた、雨上がりの夕陽だよ」彼はそっと囁いた。


姫素衣ははっと息をのんだ。


姜沐はいつのことか言わなかった。ただ「あの日」とだけ。それでも、彼女にはそれがどの日を指しているのか、すぐにわかった。


あの日、彼女は全力で立ち上がろうとしたのに、まるで縄で縛られているかのように動けなかった。


そして今、彼女の喉を締め付けていた虚弱さは、この少年の前では何の意味もなさない。彼は何の苦もなく自分を持ち上げている。まるで子供の頃の彼女が、窓辺で自分のテディベアを持ち上げていた時のように、いとも簡単に。


夕陽の光がゆっくりと薄れていく。巨大な太陽が沈み、最後の光が空の雲を炎の色に染め上げる。


燃えるような赤い光が、あちこちに残る水たまりできらめき、まるで炎が川の中を流れているかのようだ。


光の輪が姫素衣の瞳に映り込み、その蒼白い頬まで赤く染め上げていた。


「……ありがとう」


蚊の鳴くようなか細い声だった。


そして太陽が完全に沈み、圧倒的な闇が世界を覆い尽くした。


『新しいCGが解放されました。メニュー画面に戻り、ギャラリーをご確認ください。』

『新しい幕間ストーリーが視聴可能です。未受け取りの報酬があります。』"


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