NO.8 JKの二重崩壊の作り方
名称:【孔廟祈福】シリーズ水性ペン(黒インク)
セット:劣等生文房具セット(1/3)
レア度:激レア級
種類:道具
耐久:500メートル/1日
効果:普通の水性ペンとして必要な機能をすべて備えている。
説明文:「もし妙齢の少女を一人用意して、生理も心理も両面から崩壊させたいなら、どうする?」
「彼女を、高校三年生にするだけさ。」
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「……まあ、そんなに期待してなかったけど、これはこれで使えそうだな。」
本当は白いノーマルの究極マン変身アイテムが欲しかったが、少なくともこの水性ペンはそこそこ頑丈らしい。
特にこのペンの説明を見ていると、姜沐は、かつて“年老いていた”頃(?)の荒削りで賑やかな青春時代を妙に懐かしく思い出してしまうのだった。
昔、政法大学に通っていたころ、教授がこんなことを言っていた。
「私の調べによると、ケンカで致命傷を負う99%は、先に手を出した側なんだよ。さて、なぜか分かるか?」
当時の姜沐は今ほど記憶力が優れていなかったが、「できないなりにがんばる」主義で、意気揚々と手を挙げた。
「だって、生き残った人はみんな『死んだやつが先に手を出した』って言うからですよね!」
その回答に教授はまんざらでもない顔をして、「じゃあ今日の講義内容を二十回ノートに書き写してきなさい」とご褒美をくれた。
さらに、同級生にも肝をすり減らしてハゲかけたやつがいて、単位を落とすわ恋人にも振られるわ、研究課題に追われてほとんど鬱寸前だった。
そんな彼に姜沐は「どうでもいい心配はやめて、大切な人のことをもっと心配しろよ」と声をかけた。
すると彼はやたら感激したらしく、「そうだな、余計な心配を減らして、もっと……もっと何をすればいいんだっけ?」などと妙に真剣な顔をして言っていたのを覚えている。
ああ、あのころの青春はもう戻ってこない。
……なんて思ったが、そういえば今の俺は異世界に来てるんだった。なら、戻らなくても別にいいか。
そんなことを思いつつ、姜沐はアイテムの詳細を再度確認する。
「この『セット』ってやつはなんだろう?」
取り扱い説明書をサッとめくってみると、ようやくこんな文言を見つけた。
【セットとは、複数をそろえると追加ボーナスがある装備のこと。ゲームやったことないの? こんなとこで説明書を探してる暇人がいたとはね?】
ここまで“ご丁寧”だと逆にほほ笑ましい。次に幕間を見るときは、満タンのお湯入りポットを「動力源」として携行しようと決めた。
酒はまだ飲み足りないが、腹はもう十分。姜沐は鼻歌まじりで食器を台所へ運び洗い終えると、そのついでに自分もさっぱりとシャワーを浴びる。
余談だが、その最中にまた父の友人が探している“少年”を見かけた。だがそいつは相当手際がいいらしく、姜沐がちょっと目を離した隙に姿を消していた。
──そしてバスタオルを巻いて部屋に戻ってくると、こんな暮らしも悪くないと思えてきた。
ちょうど外は土砂降り。勢いよく降りしきる雨には、どことなく爽快感がある。この世界の女の子たちと同じで、好きなら好き、嫌いなら嫌い、はっきりしているじゃないか。
恋愛はもう蜃気楼みたいにぼんやりしたものじゃない。結果がどうなるかは分からなくても、そこには何らかの意味がある。空に電磁波が充満していようが、愛の電波が簡単にかき消されるわけじゃない。
実に素敵な世界だ。優しさゼロかと思いきや、むしろ情熱全開のお節介な“仲人”みたいなものじゃないか。
……こんなに褒めてるんだし、この“世界の兄貴”か“姉御”かわからん存在よ、とりあえずちょっと手加減してくれない?
明日散歩するとき、また角からパンくわえた美少女が飛び出してくるのは勘弁してくれ。いや、どうしてもならせめてジャムは塗らないでほしい……
俺まだ14歳なんだぞ、お姉さん? 18になるまで待ってくれ。
一応、法律学部出身としては知法を犯すのはまずいから!
べつに“青梅竹馬”って概念を知らんわけでもない。ただ、昔こんなことがあったんだ。
──まだこっちに来る前、日本の病院で軽い手術を受けるとき、採血の看護師さんが可愛くてね。俺は緊張を紛らわすため冗談を飛ばしだしたら、看護師さんは笑い転げてしまった。
こっちも気が楽になってきたな、と思った瞬間、男の医師が入ってきて「仕事中でしょ、もっと真面目にやって」と一喝したんだ。俺の顔をジロッと見て退室。
「なんだあれ? あのもっさりヘアー、主任医師には見えないけど?」と俺が言うと、看護師はこう返した。
「あの人、私の旦那なんですよ。あとであなたの執刀を担当しますね♥」
……おいおい、そりゃ精神的プレッシャー一気に爆上がりだろ。
先生を代えてもらうか、いっそ日を改めて出直したいくらいだ。
──そういうわけで、こっちでも余計なことをしゃべると命取りかもしれん。
ここにいる女の子たちは好き嫌いハッキリだし、もし間違えて踏み込んだりしたら、本当に“ぶちこまれる”可能性もある。
体を拭いてパジャマに着替え、壁掛けの時計を見た。
【20:37】
「やっぱりか。」
さっき幕間で見えた食いしん坊少女の部屋の時計は、確実に21時過ぎを指していた。
よほど時計が1時間遅れていない限り、“幕間”で得られる映像は、まさに「大事な情報」を映し出す装置だ。
未来の情報に勝るものなど、まずない。
「それであっちには“放送担当”なんてのがいるわけか……」姜沐は本棚から本を引き抜き、ちらりと眉を寄せる。「放映機器をバラされちゃ困るんだろうな。」
「しかも幕間の報酬って、新人用の特典と同じで道具ばかりくれるんだよな……」
本を開きながら、「わざわざ種類を『道具』と銘打ってるってことは、『スキル』とか他のカテゴリーもあるってことになるよな……たぶん。」
充分にあり得る。
「てことは……やっぱり“スキル”みたいなものを手に入れるには、あの方法を使うしかないのか。」
彼は手元の本を眺める。すると視界の中に自動的に文字が浮かびあがる。
【『清河詞話』 進捗度98%】
「……はあ、なんでこんなのを立項しちゃったかなあ。」と姜沐はこめかみを押さえる。
もしもっと直接的で、際どいだけど中身の薄い本を選んでいれば、初回立項の時間短縮75%もあるし、数日頑張れば読み終わったはずだ。
しかし、この本はまさに『大俗即大雅』の体現。未成年向けじゃない部分もあるが、やたら深みがある。嫌々ながらも真剣に読み解こうとすると、かなり骨が折れる。
なぜ三年で終わるはずが四年かかったのか? そりゃあ、こんな挿絵つきの本を教室で広げられるわけがない。
しかも挿絵つきだから尚更だ。
授業中に古文版の『西遊記』を読んでいても、先生には「古典文学の勉強なんですよ」と言い訳できる。
授業中に『ハリー・ポッター』を読んでも、父には「成績いいし、課外読書はいいことだ」と説得もできる。
でも授業中に『清河詞話』を読んでいるところを見つかったら、間違いなく先祖の霊に土下座する羽目になる……。
「まあいい。四年使ってやっと進捗率98%まで来た。残りはあとちょっと、あと2〜3週間で終わるだろう。『見込み利益がめちゃくちゃ高い』ってのは、いったいどんなご褒美になるのか……」
そんな自分を納得させつつ、姜沐は心の中でこっそりと誓う。もし今回の報酬もまた“激レア級”なんてものなら、その放送担当に濃硫酸でもふるまってやろう、と。
飲み込めないなら強要はしないが、うがい程度には使ってもらおうか……と。




