危険な香り
「それにしても、どこに行けばいいんだろう……」
エドリックは森の中、焚火にあたりながらこの後の道のりについて考えていた。フレイヤからは場所を示してはもらったが、土地の名前や行き方を教えられておらず、初めて外を出るエドリックにとっては土地勘なんて物が無いので、どちらに進めばよいのかわからず夜まで森の中を彷徨っていた。
「とりあえず飯を食べよう。たしか城に出る前に買ったやつが……あった」
懐からパンとハムを取り出し小分けにしようと剣を抜こうとすると、懐にはまだ何か入っていることに気づいた。取り出してみると、それは折りたたまれた羊皮紙で、開くと地図が描かれていた。右下には、「ゴメンネッ!」という文字とフレイヤが両手を合わせて誤っているような顔の似顔絵が描かれていた。
「女神様……」
彼女のおっちょこちょいに笑いつつも、感謝を胸に抱きながら地図を読んだ。どうやらオーブは神殿から東、北、西にそれぞれあるらしく、ここから一番近いところが、東の樹海にある蒼玉のようだ。逆に一番遠いのは西の湖の碧玉らしい。
「なら東から左回りの順で回っていこう」
これからの旅路を決めると、パンとハムを頬張り、眠りについた。
…………
……
…
「寝れん!」
エドリックは、その場から飛ぶように起きた。
「考えてみれば初めての野宿だし、寒いし、冷たいし!虫うるさいし、なんかよく分かんない獣声とか聞こえてくるし!怖い!!」
一しきり言い終えると、あきらめて再び横になる。マントをかけ布団替わりにするも心もとない。エドリックは火をつけなおすと、目を瞑り羊を数えながらだんだんと眠りについた。
朝が来て目が覚めると昨晩の残り火を消し地図を確認しながら森を後にした。地図によると樹海に入る前に村があるらしい。そこで遺跡に入る前の準備をしようと目指していた。日中を歩き続け、夕方ごろになると目標にしていた村がようやく見えてきた。腹をすかし足が震えてきていたので本当に助かった。この村はどうやらメーフ村というらしい。入ってみると穏やかな雰囲気でここに暮らす人々はのびのびと過ごしているように見える。エドリックは樹海に入るための準備をするため雑貨屋に寄った。
「すいませーん」
中からパタパタと足音を立てながら出てきたの腰の曲がった老婆だった。
「はいはい。……おや、見ない顔だねぇ。旅の人かい?」
「はい、この先の樹海の遺跡に用があって」
「はぁ、あの遺跡ねぇ……。あそこはとても危険だよ」
「何か知ってるんですか?」
「いいや、ただ帰ってくる人はみぃんな大けがで帰ってくるからねぇ。一時期あそこの診療所がパンパンになって普段もらっておったお薬がなかなか貰えなかったことがあったんよ」
老婆が指をさした方向には確かに小さな診療所が見えた。田舎の診療所はどれくらいの設備がそろっているのかわからないが、確かに大けがをしたらここで治療するのは難しいだろう。
「……それでも、どうしても行かなきゃいけないんです」
「そうかい、じゃあこれを持っておいき。それと今日はもう休んで明日に備えるんだよ」
老婆は大きな麻袋をカウンターにどさっと置いた。
「……こんなにですか」
「何事も用心じゃよ」
「ほほほ」と笑いながら老婆は会計をおこなった。この人は意外とやり手かもしれない。
財布を取り出そうとしていると、横目に何かがキラリと映った。映ったものを見るとそれは、何かの石をはめ込んだネックレスだった。
「あの、これって何ですか?」
老婆はエドリックが指さしたネックレスを見ると「あぁ」と思い出したように答えた。
「昨日、若い女性の旅人がねお金がないからと言ってこれを渡してきたんじゃよ」
「へぇ、きれいな石ですね」
「ただの石じゃないよ、それは魔鉱石。使えば石に宿った魔法を一時的に使うことができる」
「そんな石が……」
「このあたりじゃあ珍しいからねぇ。わたしも今まで生きてきて初めて見たよ」
「使える魔法は何なんです?」
「さぁ?もし火でも出たりしたら大惨事だからねぇ」
「……じゃあ、これください」
「いいのかい?一万ゴールドはくだらない品だよ?」
「まぁ、一万くらいなら」
ポンと財布をカウンターに置き広げると、ジャラジャラとお金が滝のように流れ出てきた。軽く2,3万ゴールドは入っているだろう。
「ひ、ひぇ~……!」
老婆は目の前に現れた大金に思わず腰を抜かしていまっていた。老婆を落ち着かせ会計を済ませると、宿に向かいチェックインを済ませた。部屋のベット座り込み「ふぅ」と一息つくと、先ほど手に入れたネックレスを取り出した。
「どんな魔法が入ってるんだろ」
部屋を見まわしここだと危険だと判断すると、エドリックは村の外の平原に向かった。
「よし、ここら辺なら大丈夫かな」
平原の小高い丘、沈みかけている夕日が村を照らしとてもきれいな情景が広がっている。エドリックはネックレスを上に掲げ魔鉱石を使用した。……しかし何も起こらなかった。
「あれ!?なんでだ?!?!」
軽く叩いたり、振ったり、して再度使用するがやはり何も起こらなかった。
「はぁ、はずれかぁ……。これがあれば俺も魔法が使えるようになると思ったのに」
エドリックは露骨に肩を落とすと、そのままトボトボと村に戻った。
村に戻り空きっ腹を満たすため、酒場に入った。扉を開けるとカランッコロンッとベルの小気味いい音が鳴る。多くは無いが酒場のほとんどの人がもう酒を飲んで酔っている。エドリックは完全にアウェイな状態だった。
(うっわぁー……、調子に乗って入らなきゃ良かった!)
ガチガチに緊張しながらカウンターの店員の前に座る。当たりをキョロキョロと見回していると、店員が話しかけてきた。
「あら、旅の人ですか?」
「は、はひっ!」
途端に話しかけられエドリックは驚いて変な声で返事を返した。
「ふふっ、こういったところは初めて?」
「はい……まだ旅に出たばかりで」
「あらそうなの?じゃあ、こちらどうぞ」
店員はメニュー表を手渡してきた。開いてみると色々と文字が書かれている。幸いシンプルな名前だったのでどれがなんの料理かはすぐに判別できた。
「未成年はお酒は頼んじゃダメよ」
「わ、分かってますよ。……えっと、じゃあオムライスとパスタとステーキと──」
「ちょっ、まってまって!そんなに頼むの!?」
「だ、ダメでしたか?」
「ダメでは無いけど、お金とお腹は大丈夫なの?」
「はい!」
エドリックがにこやかにそう返すと、店員は注文を受け取り料理を作り始めた。料理が出来上がり、エドリックの前に全て出てくるとこれまでの旅の中で一番の笑顔を見せた。
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
店員は肘をカウンターに乗せ顎を手の上に置きながら、興味深そうに料理を頬張り続けるエドリックを眺めた。
「美味しい?」
「はひ!おいひいでふ!」
「ゆっくりでいいわよ、ふふっ。……ねぇ、あなたってなんで旅をしてるの?」
「あー……、魔王を討伐しに行こうかなって」
「そんな軽いノリで、魔王を?」
「軽くないですよ、滅茶苦茶怖いです。死にたくないですし。......でも、俺がやらなくちゃいけないので」
「そうなのね、じゃあいっぱい食べて強くならなきゃね」
店員は食事中のエドリックの頭を撫でながらそう言った。エドリックは思わず顔が赤くなり、食べている手が止まってしまった。
「じゃあこれサービス。お巡りさんにはヒミツよ?」
店員はグラスに注いだ赤い液体をカウンターに置いた。グラスを鼻に近づけ匂いを嗅ぐ。ほのかに香るブドウとかぐわしい木の匂いが漂ってきた。これは間違いなくワインだった。
「い、いいんですか?」
「さぁ、グイッといっちゃて!」
店員に促されるままワインをグイッと飲む。初めて感じた味に舌と脳がビックリしていた。
「うわっ、スゴく変な味」
「まぁ、最初はびっくりするかもね。大丈夫よ、大人になったらちゃんと美味しく感じるようになるから」
出てきた料理を一通り食べ終え、「ごちそうさまでした」と言って会計をした。店員は店を出るエドリックの背中を見送ると、店の裏に入っていった。
「ふふっ、あーんな簡単に飲んじゃうなんて、勇者ったらおバカさんなのかしら?」
店員は姿を変えた。彼女の正体は桃髪のツインテールのサキュバス、レインだった。
「ハイッ、作戦しゅーりょー!帰って私もお酒飲もっーと」
レインはステップをしながら作り出した黒い霧に入り姿を消した。
4話目です。
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