試練を乗り越えろ
通路を通り抜けると、新たな広間に繋がった。その中央には二足歩行の腕の生えたワシのような魔物がいる。魔物はこちらに気がつくと、舐めきった口調で話しかけてきた。
「キッキッキッ!マダニンゲンガイタノカ、マァイイ、イマスグニコロシテヤル!!」
魔物はエドリックに勢いよく飛びかかってきた。エドリックは剣を抜いて構える。魔物の爪と剣の刃が重なり鍔迫り合いになった。ガチガチッ、ギリギリッと押して押されての攻防が続く。エドリックは、魔物の足の爪が湾曲して先端のみが地面に着いていることに気がつくと、自分の足で思いっきり魔物の爪を割った。魔物は、バランスを取れずヨロヨロと後退して行く。その隙を見逃さずエドリックは爪を割った反対側の足を切りに行った。しかし魔物は眼だけでエドリックの動きを予測し切られようとしていた足で剣を踏み押さえつけた。
「なっ……!」
エドリックは思わず声を上げてしまう。魔物は驚いたエドリックに勝機を見出し殴り掛かるが、エドリックは間一髪攻撃を避けた。しかし頬に切り傷が出来た。エドリックは覚悟を決め剣を手から離し捨てると、魔物の顔面めがけてストレートの拳をうった。しかしあっさりと受け止められ、負けじと反対側の拳も打つがどちらもあっけなく不発に終わってしまった。
「ケケッ!モウオワリダナ!!」
魔物はそう言うと、大きく口を開きエドリックをそのまま飲み込もうとした。
「お前がなっ!」
エドリックば魔物のせいで空中に浮いていた身体を大きく揺らし始めた。揺れた反動で魔物との距離が最も離れた時に上半身を後ろにそらし、魔物に近づいた瞬間に上半身を前に倒し魔物の眼に向かって頭をぶつけた。見事魔物の目に当たると、返り血が頭につき魔物は眼を抑えながら倒れ込んだ。エドリックは剣を再び手に取ると魔物の方へゆっくりと歩いた。魔物はもう片方の眼でエドリックを見て恐怖した。魔物は背中の翼で飛び上がりエドリックの後ろの通路から逃走しようとしたが、片翼がエドリックの構えた剣の射程内に入ってしまっていることに気が付かなかった。エドリックは魔物の翼に向かって勢いよく剣をふるい魔物の翼を両断した。魔物は大きくよろめき壁に激突しぐったり床に倒れた。
「タ、タノムオレガワルカッタ!ダカラッイノチダケハタスケテクレ!」
魔物は命乞いをした。
「お前だってそうやって今の自分みたいに命乞いをする人たちを殺してきたんだろ?お互い様だ」
エドリックは魔物の心臓めがけて剣を突き刺した。魔物は叫びながら絶命した。しかし、エドリックは魔物が死んでもなおそれに剣を突き刺し続けた。グチャッ、グサッ、グチャッ、グサッ、何度も何度も刃と肉の交わる音が広間に響いた。魔物が霧散し刃がカツンッと床をたたくと、エドリックはついに動きを止めた。
「はぁ、はぁ……」
エドリックは震える腕から剣を離し、その場にうなだれた。初めて死地を己の力のみで乗り越えた達成感と一歩間違えれば死んでいたという恐怖に数十分その場で泣きながら震えていた。
ふらつきながら女神像の広間に戻るとフレイヤが大慌てでエドリックのもとへ駆け寄り彼を思いっきり抱きしめた。フレイヤはそのままエドリックに治癒の魔法を放った。
「ヒーリオス・サンクティス」
それは治癒魔法の中でも最高位のものであり、フレイヤしか扱うことのできない魔法だった。
「どうですか?元気は出ましたか?」
「はい、さっきよりは。ありがとうございます」
フレイヤの心配そうな問いかけに彼女の胸から顔を出し弱弱しく笑いながら答えた。
「女神様、俺がんばりました」
「ええ、しっかりとみていました」
フレイヤはエドリックから離れると、戦いに行く前に出していた椅子に再び座った。
「本当はたくさん貴方をほめてあげたいのですけれど……こうして実体でいられる時間がもうあまりありませんので、貴方に伝ええばならぬことをお話します」
そう話すフレイヤの足元を見ると確かに彼女の身体は少し透けているように見えた。
「そんな……」
「大丈夫、死ぬわけじゃありません。また会えますよ。……コホン、それでは貴方の使命をお伝えします。貴方の持つ剣、勇者の剣はまだ完全な状態ではありません」
フレイヤは空中に大きな写真を三枚召喚した。それぞれは樹海、火山、湖にある遺跡を映している。
「今映している土地にはそれぞれ、蒼玉、紅玉、碧玉と呼ばれるオーブが置かれています。それらを手に入れ剣を鍛えていくのです」
フレイヤは再びどこからともなくアイテムを召喚した。それは四角い正方形の板で、3つの穴が三角形を描くように空いている。フレイヤに促されるまま、剣を鞘から引き抜くと刀身の鍔に近い箇所にその板を添えた。するといたは剣と融合し、板にできていた穴と同じくらいの穴が刀身にできていた。フレイヤは剣を鞘に戻し、再び話し出した。
「もう一つ、これはお願いです。貴方を助けてくれる仲間を見つけなさい」
「仲間?」
「ええ、腕に自信のある者何十人でも、信頼のおける者たった一人でも構いません。貴方はまだ幼く弱い、本当なら私がそばにいてあげたいのですがそうもいきません。ですので、貴方をサポートしてくれる人を見つけてください」
フレイヤの声は震えていた。何故そこまでしてくれるのかは分からなかったが、彼女を悲しませたくはなかった。
「はい、わかりました」
「うん、いい子」
フレイヤは、エドリックの頭を優しく撫でると、彼から数歩離れる位置に移動した。
「そろそろ時間ですね」
「女神様、最後に質問しても宜しいですか?」
「はい、何でしょう?」
「どうして俺なんかにここまでしてくれたんですか」
傲慢な考えかもしれないし、もしかしたらあれがフレイヤなりの接し方かもしれないなそれを差し引いても今までに感じたことの無い感覚がエドリックの心の中に芽生えていた。その正体をどうしても知りたかったのだ。
「私は生命を司る女神。この世の善なる生命は皆私の子供のようなものです。子供を愛さぬ親などいませんよ。それに……」
「それに?」
「エドは毎日私の神像を丁寧に磨いてくださっていましたよね」
「え」
「自分の部屋、エントランス、そして城下町の広場、毎日雨の日も風の日も欠かさず手入れをしてくれた。私はそれがたまらなく嬉しかったんです」
「それは、俺にはあれくらいしか出来ませんでしたし、あれくらい別に誰でも……」
「いいえ、一見誰にでもできるようなものでも実際に続けられる人は滅多に居ません。あやたのそのやさしさと行動が勇気となり力になるのです」
自然と目から涙が溢れてくる。誰にも何も言われることのなかった行動をちゃんと見てくれている人がいて、それを認めてくれたことがすごく嬉しかった。
「ごめんなさい。俺、これからできなくなってしまって」
「そんなことはありません。貴方の遺志を継いでくれる人はいますよ」
今度は空中に動画が流れる。そこにはナナが移っていて広場の女神像を拭いている様子が映っていた。
「ナナ……!」
「エド、私は貴方をずっと見ています。どうかあきらめず頑張ってください」
「……はい!」
フレイヤはエドリックの返事を聞くと優しく微笑み、消えていった。あたりを包んでいた光も消え、暗い静寂が訪れる。エドリックの瞳にもう迷いはなく、涙を拭き終えると神殿を後にした。
────魔王城
「ふわぁー。ねむい……」
フラリスは惰眠をむさぼっていた。周りを囲むように八つの椅子が置かれた大テーブルの上でダイノジで転がっている。
「あら、あなたが一番乗りなんて珍しいわね」
壁からするりとすり抜けるように出てきたのは桃髪のツインテールと腰から生えた悪魔の翼、男を魅了するきわどい服を身にまとっている淫魔、レインだ。
「んぁ、ああ、いや……前の集会から、ずっとここに……いるだけ……」
「前の集会って……500年以上前の事じゃない!」
「だって、動くの……メンドクサイし……」
「よぉし!到着!!……なんだぁ?まだ二人しかいねぇじゃねえか!」
フラリスとレインの会話中に割り込むように声を荒げながら部屋に入ってきたのは、逆立ったオレンジの神に筋肉質な褐色肌の巨人、ゲダルトだった。
「っるっさいわね、もう少し静かに入ってきなさいよ」
「なんだよ、そんなにイラついてよ?……生理か?」
「ハァッアァァ!?最っ低!!今まで我慢してたけどもう限界、あんたなんて今すぐ殺してやるわ!」
「おう!いいぜ、俺もちょうど喧嘩したりなかったんだ!ぶち殺してやるよ!!」
レインの放つ紫色の気弾とがダルとの放つ拳がぶつかろうとしたとき、間に何者かが割り込み、それぞれの技を相殺した。彼は全身をコートで隠し、フードを深くかぶっている。ゲダルトの拳を指二本で受け止めている。得体のしれない彼が誰なのを二人ははっきりと理解していた。
「「デムート!」」
「もう全員集まっている、喧嘩はその辺にしておけ。……フラリスも席に着け」
二人は渋々、互いをにらみ合いながら自分の席に着く。フラリスもテーブルの上を転がりながら自分の席に着いた。
「……あれ、モデラは?」
全員の顔を確認しながら席に着いたレインは席が二つ開いていることに気づきそう質問をした。
「あいつはまだ行方が知れない。もしかしたらまだ目覚めていないかもしれん」
「えー、全員復活したからこうして招集をかけたんじゃないの?」
「そんなものよりも緊急事態が起きた」
デムートが「ビジョン」と唱えるとテーブルの中央に巨大なスクリーンが展開された。そこには勇者エドリックが魔物と戦っている姿が映っている。
「こいつは?」
「新しい勇者だ。すでに女神とも接触している」
「……ちょっとかわいいかも」
「まだ子供、だね……。ボク、でも勝て、そう」
「早まるな、勇者は私が送り出した魔物、1万体を一振りで全滅させている」
思い思いの言葉を並べている者たちにデムートは静止をかける。デムートの言葉にその場の全員の表情が一気に青ざめた。
「いくら勇者とはいえ、一万もの魔物の軍勢をたった一振りで……。まさか魔王様と同じ───」
「まだそこまでは分かっていない。とにかくこちらも魔王様復活を急がねばならなくなった。早急にとりかかってくれ」
デムートの言葉に全員がうなずくと一斉にその場を離れ飛び去った。デムートのみがその場に残り勇者の映るスクリーンを見続けている。彼はそうして不敵な笑みを浮かべるのだった。
三話目です。
頑張ってます。




