冒険の始まり
先ほどまで魔物で覆いつくされていた空は、真っ暗な星の輝く美しい夜が広がっていた。
エドリックは力が抜けたように、その場に座り込んだ。
「ご主人様!」
ナナが心配した顔で駆け寄ってきた。
「ナナ……」
ナナはそばまで近寄って来るとそのまま勢いよく胸に抱きしめてきた。服は血や泥で汚れてボロボロだったが、彼女の胸の中はさっきまでの恐怖や緊張を一瞬で和らげてくれた。
「怪我は無い?」
顔を上げそう質問する。
「はい、おかげさまで」
ナナがそう答え終えると同時、ガチャンと大扉が開いた。2人で大扉の方を見ると、父や兄達が集まっていた。彼らはこちらを確認するや否やすぐに駆け寄って色々と問いただしてきた。
「い、今の光はなんだ!」
「外にいた魔物も全て一瞬にして消えていました」
「玉座の間が光り輝いたと思ったら……、ゆっくりで構わん。説明せよ」
緊張の糸が切れ、動かすのに手間取っていた口を何とか動かそうとしながら父達に事情を説明しようとした。その前にヴァルター兄さんが手に持っていた勇者の剣に気づいた。
「まさか……エド、お前があれをやったのか?」
ヴァルターの視線に気づき、皆が一斉に同じ方向を見る。引き抜かれた剣を確認するとまた大騒ぎになった。
「まさかあれを抜いたというのかネ!?」
「はぁ!?いくらなんでもありえないっしょ!だって、あのエドがだぜ!?」
「いいえ、私は確かにエドリック様が岩から剣を引き抜くのをこの目で確認いたしました」
周りの声を静止するようにナナがそう叫んだ。ナナの言葉にその場の皆がしばらくの間口を閉ざした。その中最初に口を開いたのは父だった。
「エドリックよ、お前が本当にその剣(引き抜いたのだな?」
エドリックは立ち上がり真っ直ぐ自分の父のことを見つめると大きく頷いた。
「そうか。……ならば、エドリックいや、勇者エドリックよ!その剣を手に悪しき魔王を討伐してくるのだ!」
「はい!」
「本当にお行きになるのですね」
城門前、ナナは寂しそうにそう言った。
靴紐を結び直し、羽織ったマントを正しながらエドリックは答えた。
「ああ、勇者の剣を抜いた俺がやらなくちゃいけないからな」
「……それにしても、お見送りは私だけなのですね」
「しょうがないさ、皆自分のやるべきことがあるんだから。俺なんかを見送っている暇なんて無いんだよ」
「でも……」
「ナナ、ありがとう。お前がこうやって居てくれたお陰で俺はやっと何者かになれる気がする」
「ご主人様……分かりました」
ナナは深く頭を下げた。
「どうかご無事で。ナナは何時までも貴方様のお帰りをお待ちしております」
「うん。……行ってきます」
エドリックは城門を背に歩き出した。平原を歩き、皮を渡り、森を突き進んでいく。道中父の言葉を思い返していた。
「エドリックよ、この城から北東に進んでいくと森の中に巨大な神殿がある。まずはそこに行き主の老婆からお告げを聞くがよい」
「北東の神殿って立ち入り禁止の場所じゃ」
「ああ、勇者のみが入ることを許された場所だ。そこの老婆ならお前を導いてくれるだろう」
(神殿か、初めて行くな。ヴァルター兄さんは行ったことがあるんだったっけ?よく考えてみれば、俺って城の外に出る事自体初めてじゃん)
考え事をしながら道無き道を歩いていると目の前に青色のゲル状の生物が飛び出してきた。
「……なんだお前」
距離を置き立ち止まってからその生物に質問した。おそらくやつは魔物だ、それに質問をするのもおかしな話だが好奇心が抑えきれなかった。
「ナンダッテオマエ、ソリャオレダヨ」
「?」
「オマエボウケンハハジメテダロ?ダッタラマズハオレダロ」
「何を言っているんだ?」
「マァ、ナラウヨリナレロダ、サァイクゾ!」
「オリャッ!」と叫びながら魔物はこちらに突進してきた。腕にぶつかってくると、反動で元の場所に戻っていた。
「……ドウダ、イチポイントクライイタイダロ?」
「……痛い」
「ヨォーシ!ヨシ!ヨシ!ヨシ!ソレジャアモウイッパツイクゾ!ドーン!」
「や、やめっ……!!」
僅かに抵抗しながら突き出した拳が魔物の体内にあるコアにたまたまあたり魔物は「ウワァーッ!」と叫びながら霧散していった。
「なんだったんだ、一体」
再び神殿に向かって歩みを進めていった。
「ここが神殿か……」
森を抜けると巨大な石造りの建造物が現れた。所々が崩れていたりツルや蔦が生い茂っていたりとかなり昔から存在していたことが伺える。真っ直ぐ奥に進んでいくと、大きな石扉かあった。石扉は押したり引いたりしてもビクともしなかった。どうしようかと悩んでいたところ、扉の中央に鍵穴らしきものがあることに気づいた。それと同時に父の言葉を思い出した。
「勇者のみが入ることを許された場所だ」
(勇者しか持ち得ない物……そうか!)
勇者の剣を鞘から抜き、鍵穴に突き刺した。すると扉はゴゴゴゴと鈍く、重い音を立てながらゆっくりと開き始めた。剣を鞘に戻し、扉の奥に入る。
「すいませーん!」
中はただ自分の声が反射して響いているだけだった。扉からの光で奥が微かに確認できた。石でできた椅子に腰かけている人がいた。その人の元まで駆け寄り、身体をゆすりながら再び声をかける。しかし反応はなかった。俯いていた顔を確認しようをすると何かが地面にポタポタと垂れていることに気づいた。触れて確認するとそれは間違いなくこの人の血だった。
「はぁ!?な、なんだよこれ!」
エドリックは慌ててその場から後ずさる。死んでいたこの人は恐らく父の話していた老婆であり、血痕の新しさから見て死んだのは恐らくここ最近の出来事だ。
「まさか、昨日の襲撃!!」
ここから城まではそう遠い距離では無かった。城の空一面を覆い尽くすほどの魔物の軍勢だった。何体かはこちらにやって来ていても不思議ではなかった。
「でもどうやって……」
ここは勇者の剣を持つものしか入れないはず。ちょうどその時、入ってきた扉が完全に閉まり神殿の中が暗くなった。そのおかげで天井から光がさしていることに気づいた。光を辿ると真上に大きな穴が出来ていた。魔物はここから侵入したのだろう。椅子の裏には奥へと続く通路がある。まだ老婆を殺した魔物がいいるかもしれないと思い、慎重に歩みを進めた。通路を抜けると再び広間に出た。その真ん中には美しい女性の像が置いてある。
「女神像か……」
この世界を想像したとされる女神の像だ。城のエントランスや自身の部屋にも置かれていたのですぐに分かった。女神像の心臓部になにか光るものを見つけ、それに触れると辺り一面が光で包まれた。あまりの眩しさにし一瞬怯んだがすぐに目を開けると、女神像に色がつき動き出した。
「よく来ましたね、勇者」
彼女は優しく微笑みながら語りかけてきた。
燃えるような朱色の髪に真紅の瞳、体をローブ一枚のみで隠しており、まさに教科書で習った通りの女神だった。彼女の名はフレイヤこの世の全ての生命を司る女神だ。
「女神様……」
「大丈夫、全て知っています。順番に説明していきましょう」
フレイヤは指を鳴らし2人分の椅子を用意するとそこに座るように促した。
「まず、貴方がその剣を引き抜くことが出来た理由からですが、簡単なことです。あの4人の中でもっともその剣に勇気を示したから」
「でも俺は力もないし知識も魔力も兄さん達より劣っています」
「勇気にそれらは関係ありません。貴方は何も持っていないわけじゃない勇気という確かな力を持っているのです」
「俺、怖いんです戦うのが。……さっき老婆の死体を見ました。したいなんて初めて見たんです。今も震えが止まりません。自分もああなってしまうのかと思うとすごく怖いんです」
フレイヤ立ち上がりこの部屋の更に奥を指差した。
「この奥に彼女を殺した犯人の魔物がいます。……エド、あなたへの最初の試練です。奥の部屋の魔物を討伐してください」
フレイヤのその言葉に足がすくみ、立ち上がることが出来なかった。フレイヤはそんなエドリックの両手を優しく握りゆっくりと立ち上がらせた。
「エド、大丈夫。あなたならできます」
「でも俺……」
「勇気とは、恐怖を知り、それに立ち向かい、歩みを止めず進み続けること。力なんて自ずとそれについてくる。あなたにからきっと勝てる」
今までの人生でこれほどまでに自分を肯定されたことなどなかった。彼女の言葉一つ一つが心に刻まれ、涙が出てくる。フレイヤの底なしの応援に少しづつ力が湧いてきた。
「女神様、俺頑張ります」
「ええ、魔物は一体、この神殿の封印を破り天井を壊したのも彼です。少々手強いですがあなたの勇気なら必ず勝てますり終わったらまたお話し、しましょう」
フレイヤの手を離し、振り返らず通路を走る。フレイヤはエドリックが見えなくなるまでその背中を見守り続けた。
2話目です。
感想待ってます




