勇者になった日
「はぁ、はぁ......」
魔王城、勇者セトは片膝をつき頭から血を流しながら目の前で悠々と佇む魔王を睨んでいた。仲間の三人は既に魔王にやられ地に付している。
「終わりだ、勇者。よくここまで戦った、久しぶりに良い余興となったぞ。褒めて遣わす」
一切の感情を読み取れないその口から放たれる言葉に挫けそうになる。もう、まともに剣を握ることすら難しい。友も恋人も全てあいつに奪われてしまった、もう自分には何も無い──
「......だからって諦める理由にはならない!」
セトは剣を握り己を奮い立たせるように雄叫びを上げ、立ち上がった。魔王はピクリともせずセトを眺め続けている。セトは左手を剣にかざし呪文を唱えた。
「アルカ・レグナ......」
鋭く静かに言い放った言葉に呼応し剣が白く輝く。セトは顔の横で剣を構え魔王を睨みつけた。
「行くぞ、魔王。これで最後だ」
「ああ、そうだな。もう終わりにしよう。───死ね」
魔王は右腕を大きく掲げると、それを勢いよく振り下ろした。──瞬間、振り下ろした腕の直線上を黒い刃が走り抜ける。セトはその刃に向かって走り出し、目の前でマントを翻した。マントは破れ粉々になる、しかし魔王の放った黒い刃を打ち消した。
魔王はそれを見て少し驚いたが、すぐさま二撃目を打とうとした。セトはそれを見逃さずすぐさま闇照らしの魔法を使った。
「ルクス・エターナ!」
部屋全体が眩い光で包まれる。目の前で使われてしまえば、通常の人間ならば失明は免れないだろう。それに魔王も思わず瞳を閉じた。
「うぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
雄叫びと共に剣を魔王の心臓に突き立てる。しかし、魔王の心臓が泊まることは無かった。
「無駄だ、その程度の攻撃で我を──」
魔王の言葉が終わる前に、心臓から色が失われ石のように変わっていく。色の失われた場所から魔王の体の支配権は奪われていた。
「剣にかけた魔法は強化魔法じゃない、お前を封印するための魔法だ。魔王、お前を倒すのは俺じゃない。いつか現れる未来の勇者だ。それまでその石の中で震えて眠っているがいい」
「愚か者め!問題を先延ばしにして解決するとでも思っているのか!?」
心臓から剣を抜こうとするが、既に両腕の支配権はなくなり刃を掴んだ状態から動かすことが出来ない。
「確かに、未来の人達に苦労を強いるのは心苦しい。......だが俺は知っている、人間の強さと絆を。そして次の勇者は人々を繋ぎ俺なんかよりもずっと強い力を持っている」
そう言いながら笑った勇者に魔王は恐怖し体を動かすが、やはり動かせることはなくついには「やめろぉぉぉおおおお!!」と叫びながら魔王はとうとう動かなくなった。
「はぁ、はぁ......」
辺りが静まり返る。自分の息遣いだけが耳に響いていた。
──チュンチュン、チュンチュン。
「ご主人様、起きてください。ご主人様」
鳥のさえずりを子守唄に庭で昼寝をしていると、頭上から声がかかった。
目を開けるとメイドのナナがいた。
体を横に向け再び目をつむる。ナナはそれに慌てたように体をゆすった。
「ご主人様寝ないでください!国王様がお呼びですよ!!」
その言葉に勢いよく起き上がった。冷や汗を流しながらナナの方をむき、
「オヤジが?なんで、なんか俺やらかした?」
「いえ、ただ家族全員を集合させろとのご命令が......」
思わず頭を抱え、蹲る。正直家族には会いたくなかったからだ。しかし父親は国王だ。命令は絶対、家族でも例外では無い。立ち上がったナナの手をとり玉座の間へと向かった。
派手に装飾されたこの城一番の大きな扉を開くと既に皆が集まっていた。どうやら、最後に集合したらしい。
「遅いぞ、また昼寝でもしていたのか」
そう叱責したのは長男のヴァルター兄さん。筋肉質で体が大きく、髪をオールバックに仕上げている。この国の所有する軍隊の総帥だ。
「まぁ、こいつは元々ズボラだからネ。今さらダヨ」
呆れたように期待のない眼差しでこちらを睨んだのは、次男のゼルテン兄さん。技術開発所所長かつ魔力総合研究所所長の肩書きを持っている。暑くても寒くても長い袖のコートを羽織り、長く伸びた前髪の間からは眼鏡の反射光が見える。
「まあまあ、これで全員揃ったんだしさ。お父様、そろそろなんで俺たちを集めたのか教えてよ」
笑顔でそう言ったのは三男のジョージ兄さん。この国の一番の人気者で老若男女から好かれている。学園の理事長を務めており、笑顔を絶やさない。
そんな彼に質問を投げかけられたのがこの国アンファング王国の国王で俺たちの父親、カイザー皇だ。
「うむ、皆を集めたのは他でもない。全員この国の歴史は知っているな?」
威圧感のある口調でその場の全員に質問をした。静かに頷き返すと父は話を続けた。
「この国は昔、勇者セトが魔王を封印した後に建国しその子孫たち、つまり我々ラインハルト家が今まで国を繋いできた。そして勇者セトから受け継がれてきた言葉がある」
「魔王が復活する時、勇者の剣を持つ勇者を探せ」
「近頃、魔物の被害が増えさらに異常気象が相次いでいる、作物も年々取れる量が減っているようだ。これはかつて勇者セトが封印した魔王が復活する予兆に違いない。おい......例のものをここへ」
父の言葉を受け取り執事が奥の扉から大きな荷物を運んできた。それには布がかぶされており、めくると大きな岩に突き刺さった剣が刺さっていた。
「これは勇者の剣。真に勇気ある者しか抜くことの出来ぬ、あの勇者セトですら引き抜くことの出来なかった伝説の剣だ」
その場に居たほぼ全員が固唾を飲み込んだ。ただ突き刺さっているだけのはずの剣から放たれるプレッシャーに皆が固まっているのだ。
「ヴァルター、ゼルテン、ジョージ、そしてエドリックよ、この中の誰かがこの剣を引き抜き魔王を倒してくるのだ!」
父は高らかにそう叫び両腕を上に掲げた。
「父上、先ずは私に行かせてください」
胸に手を当てながら父にそう言ったのはヴァルター兄さんだった。
確かに兄さんは兄弟の中でも一番力があり勇敢だ、この中だったら一番剣を引き抜くのにふさわしいだろう。
「うむ、引き抜くがよい」
父に言われヴァルター兄さんは剣の柄に手を当てた。
「ふんっ!」
両腕に力を込め、腕を上にあげる。しかし、兄さんの二の腕の血管が浮き出るほどの力を込めても剣はピクリとも動くことは無かった。
「はぁ、はぁ……」
「もうよい、下がれ」
「……ご期待に添えず申し訳ありません。」
ヴァルター兄さんは惜しむように剣の柄から手を離し剣から離れた。
その後、ゼルテン兄さん、ジョージ兄さんと続いて剣を引き抜こうとするも剣は決して動くことは無かった。
「あぁ、なんてことだ……ゼルテンに続いてジョージまでもが剣から見放されるとは」
父は悔しがった。そうだこの場に勇敢の血を引くものが居なかったのだから、これからは絶望と恐怖だけの魔王の世界になってしまうのだ。
「いや、まだだ」
声を上げたのはヴァルター兄さんだった。その声に皆はヴァルター兄さんの方を向いた。そして兄さんは何故かこちらをじっと見つめ口を開いた。
「エド、お前が引き抜くんだ」
その場に居た兄さんを除く全員がその言葉に驚愕した。
「ふんっ、こんな穀潰しには無理に決まっているのだヨ」
「そうだぜ兄さん!だってこいつは俺らみたいに何者かになれたわけじゃない、ただの役たたずだぜ!?」
ヴァルター兄さんは2人の兄の言葉に聞く耳を持たずこちらに向かって真っ直ぐ歩いてきた。
「エド、もう一度言う。お前が引き抜くんだ」
「む、無理だ。俺にはそんな事出来るわけない……兄さん達の言うとり俺は役たたずなんだ」
「だからだろう、何者になるかはお前次第だ。今がその時なんじゃないのか?」
俺の肩をつかみ兄さんはそう問いただした。そうだ、今まで何をやっても上手くいかなかった俺がなにかになれるとしたら今しかない。俺が俺を認められるように、俺が皆に認められるように──
「俺、抜きます」
剣に近ずき柄を握る。腰を落とし思いっきり剣を引き抜いた。
「うぉぉぉぉおおおお!!!」
限界いっぱい力を込めるが剣を引き抜くことは出来なかった。
「はぁ、はぁ……」
剣の柄から手を離す。
やっぱり俺は何者にもなれないのだと実感させられた。
「最初からわかっていたヨ、引き抜けないことなど」
兄さんの言葉が心に深く突き刺さる。こうも非力な自分に酷く怒りを覚え、悔しくなった。
「もうよい、皆よくぞ勇気を示してくれた。この剣はもう暫くここに置いておく。何度でも挑むがよい」
父の命令と共にこの場は解散となった。悔しさを噛み締めながら玉座の間の大扉から廊下に出る。
「お兄様!お話はもう終わりましたの?ならセレナと遊んで欲しいですわ!」
横から勢いよく妹のセレナが飛びついてきた。彼女だけは自分にも分け隔てなく接してくれる、笑顔が愛らしい子だ。
「こら、いきなり飛びついてきたらダメだろ。それに遊んでもらうなら他の兄ちゃん達でもいいだろ?」
「嫌ですわ!他のお兄様たちは怖いし、忙しいですわ、ですからあまりお邪魔したくありませんの」
まるで自分が年中暇だと言われているようで少し傷つく。事実なのでしょうがないのだが純粋な言葉で言われるとなかなかにキツイ。
「そうか、じゃあ兄ちゃんと庭で遊ぼう。ナナを呼んできてくれるか?」
そう言うとセレナはぱぁっと笑顔になり、「わかりましたわ!」と元気よく飛び出して行った。
「ふぅ」
セレナ達と遊び、夜になって自分の部屋のベットに飛び込んだ。仰向けになり、右手を握りながら天井に突き上げる。自分が勇者になる姿を想像した。
「ま、無理だよな」
今日はもう寝ようとした時、
「きゃぁぁぁぁあああ!!!!」
誰かの甲高い叫び声とともに巨大な爆発音が城中に響き渡った。それに思わず飛び上がり部屋の窓から外の景色を眺めた。
そこには火の海に焼かれる城下街と空一面にびっしりと覆われた魔物の軍勢が迫っていた。
「なんなんだよこれ……」
ふと父の言葉を思い出した。魔王復活の予兆、これはもう既に魔王が復活し、人類に宣戦布告をしているのかもしれない。
その場から逃げ出すように部屋の外に出た。廊下を走り続けると壁の至る所が崩れたり燃えたりしている。既に城内にも大量の魔物が侵入しているのだろう。
「きゃあ!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえた。ナナの声だ。玉座の間から聞こえた。急いで駆けつけ扉を開けるとナナが魔物に襲われていた。
「ナナ!」
ナナの元に駆けつけ、ナナを自分の背に隠すように魔物の前に立つ。
「ご主人様!」
「お前、なんでこんなとこに!」
「申し訳ありません、魔物から逃げていたら思わず……!」
魔物はエドリックが現れても怯むこと無く、ゆっくりとにじりよってくる。2人はゆっくりと後ろに下がり続けることしか出来なかった。
「ギャァス!」
魔物は叫びながらその大きな爪を振り下ろし切り裂こうとしてきた。ナナの頭に手を置き、頭を思いっきりしたに下げる。間一髪攻撃を避けることが出来た。魔物は再び攻撃をして来た。ナナの身を守るように覆いかぶさり、2人は大きく吹き飛ばされてしまった。
立ち上がろうとするとなにかが手にあたった。それは勇者の剣だった。
「これは…」
思わず握る手に力が掛かる。
今この剣を引き抜かなければナナ諸共死ぬ。しかし今の自分に引き抜くことなどできない。ふたつの思考が混ざり剣を握る手が震え出した。
「ご主人様」
ナナに呼びかけられ彼女の方を見つめる。震える自分を心配するように見つめていた。彼女を見て少し頭が冷静になった。それと同時にヴァルター兄さんの言葉を思い出した。
「何者になるかは自分次第」
そう小さくつぶやくと剣を握る手に再び力を込める。もうその手に震えは無かった。魔物はゆっくりと近づいてきている。魔物は最後の一撃と言わんばかりに大きく手を上げ振り下ろした。
「うおおおおおお!!!!!」
剣を引き抜くと同時に魔物の方へ振り向き、剣を振るった。剣は岩から引き抜かれ眩い光と衝撃波を放った。衝撃波は目の前の魔物を破壊し、城の外、城下町全域にまで及び、空に覆い尽くしていた魔物全てをも破壊し尽くした。
はじめまして、小説を書き始めました。
拙い文章ですがどうぞよろしくお願いいたします。




