4話 冷徹な若頭
商店街はいつも通り静まり返っていた。柴崎翔は巡回の途中、路地の奥から怒号が聞こえた気がして足を止めた。
「……何だ?」
この辺りは寂れた商店街。人通りもまばらで、トラブルなどほとんど起きない。だが、今聞こえた声は間違いなく男たちの怒鳴り声だった。
慎重に声のする方へ足を進める。街灯の光が届かない路地裏に差し掛かると、そこで目にした光景に息を呑んだ。
スーツ姿の男が、数人の男たちを前に冷静に立っている。その男の周囲には、手下と思われる数人の屈強な男たちが取り囲んでいた。怯えた様子の二人の男が膝をつき、震えながらそのスーツの男を見上げている。
スーツの男は低い声でゆっくりと話し始めた。
「この街で、二度とふざけた真似をするな。」
その声は静かで抑揚もない。それなのに圧倒的な威圧感があった。膝をついた男たちは顔を引きつらせながら、必死に謝罪を繰り返す。
「す、すみません!もう二度としません!勘弁してください!」
スーツの男はその謝罪を冷ややかに聞き流し、片手を軽く挙げると、周囲にいた手下たちが一斉に動き出した。
その光景を陰から見ていた柴崎の背筋に冷たい汗が流れる。
(和馬……?)
記憶の中にある、かつての同級生の顔がよぎる。だが、今目の前にいる男は、かつての彼とはまるで別人だった。
スーツの男が指示を出し、手下たちがトラブルを起こした男たちを路地から追い出す。緊張感に包まれていた空気が一瞬緩んだその時、スーツの男――東条和馬がふとこちらを振り向いた。
「巡回か?ご苦労さん。」
彼の口元に浮かんだ微かな笑みは、挑発とも取れる余裕の表情だった。
柴崎は一瞬足が動かなくなった。その鋭い目と落ち着き払った態度に、自分がどう対応すべきかわからない。だが、和馬はそれ以上何も言わず、そのまま路地の奥へと消えていった。
取り残された柴崎は、大きく息を吐く。
(あれが……和馬……?)
あの少年の面影は確かにある。しかし、目の前にいたのは、冷徹で威厳を纏った極道の若頭だった。
巡回を再開しながら、柴崎の胸には言いようのない感情が渦巻いていた。
(俺が知っている和馬は、どこに行ったんだ……?)
静まり返った商店街の中、柴崎はただ自分の胸の鼓動を感じながら歩き続けた。




