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灰色の檻の中で  作者: セピア色にゃんこ
灰色の檻の中で
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2話 和馬と過去に交わした言葉

夜勤明け、柴崎翔は自室の布団に横たわり、ぼんやりと天井を見つめていた。近所の小学校から響いてくるチャイムの音が静かな部屋に広がる。その音が、彼の記憶の奥底に眠っていた過去を引き起こすきっかけとなった。


昨夜の出来事――和馬との再会が胸の中で繰り返される。鋭い目つき、冷たい言葉。かつての同級生だった彼が、極道の若頭として目の前に現れた。それはあまりに衝撃的だった。


「和馬……お前、どうしてこんな道を……」


呟くと同時に、心が遠い昔へと飛んでいった。


中学3年生、春――。


その年、柴崎は初めて「西村和馬」と同じクラスになった。小学校も中学校もずっと同じ学校だったが、不思議と同じクラスになったことがなかった。それだけに、彼への興味は強かった。


入学式を終えた後、初めてのホームルームで、柴崎は新しいクラスの雰囲気に少し興奮していた。これからの一年がどんなものになるのか、期待と不安が入り混じる。


「俺、柴崎翔!よろしくな!」


自己紹介を終えた後、真っ先に気になったのは、教室の隅で静かに座っていた和馬だった。黒髪を短く整え、どこか冷めた目をした少年。その存在に惹かれるように、柴崎は彼の机に向かった。


「お前、和馬だよな?俺、柴崎!仲良くしようぜ!」


勢いよく話しかける柴崎に、和馬は驚いたように顔を上げたが、短く「……西村和馬だ」と答えただけで、すぐに視線を逸らした。


その瞬間、周りの空気が少しだけ変わった気がした。柴崎は不思議に思いながらも、「まあ、最初はそんなもんか」と特に気に留めなかった。



時間が経つにつれ、柴崎は和馬がクラスの中で浮いていることに気付いた。昼休みも放課後も一人でいることが多く、誰かと話すこともほとんどない。周囲の生徒たちは、彼を避けるような素振りを見せていた。


「西村の母親、愛人らしいよ。」

「しかもヤクザの関係者って噂だぜ。」


そんな囁きが教室の片隅で飛び交っていた。


柴崎はその噂が和馬の孤独の原因であることを薄々感じていたが、それでも彼に手を差し伸べることをためらわなかった。


「おい、和馬!昼飯、一緒に食おうぜ!」


最初は断られることが多かったが、柴崎は何度も声をかけ続けた。しつこいと思われるかもしれない、それでも構わない。何度目かの誘いで、ようやく和馬が小さく頷いたとき、柴崎は心の中で小さくガッツポーズをした。



昼休み、一緒に弁当を食べるようになってから、和馬は少しずつ口を開くようになった。最初は短い返答ばかりだったが、話題が広がると、意外と色々なことを話してくれる。


「お前、なんかいい匂いするな。なんだろ、甘い感じ……」

「……金木犀じゃないか?」

「きんもくせい?」

「母さんが好きでよく使ってた香りだ。服にも染み付いてるんだと思う。」


そう言いながら、和馬はどこか懐かしそうに微笑んだ。その姿に、柴崎は少しだけ親しみを覚えた。


「そっか……俺も今度、ちゃんと嗅いでみるわ!」


その無邪気な言葉に、和馬はくすりと笑った。



しかし、そんな日々は長く続かなかった。秋も深まった頃、和馬が突然転校することになったという噂が広まった。


「本当なのか?」


放課後、和馬に問いかけても、彼は「そうだ」と一言だけ返すのみだった。理由も何も語らない。その無表情な態度に、柴崎はどこか置いていかれるような感覚を覚えた。


転校の日、校門の前でノートを手渡す和馬の姿があった。


「お前が学校に来られなかったとき、少しでも役に立てればと思ってた。」


その言葉に驚いた柴崎が何か言い返そうとしたその時、和馬は背を向けて歩き出した。


「俺にとって、お前はヒーローだった。」


小さな声で言い残し、和馬はそのまま去っていった。


柴崎はその言葉の意味を咀嚼する間もなく、彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。



「……俺がヒーロー?」


布団の中で目を閉じたまま、柴崎はつぶやいた。


和馬の言葉が胸の中でリフレインする。その記憶が今、昨夜の再会と重なり合い、彼の心をさらに揺さぶる。


少年時代のあの頃、和馬にとって自分はどんな存在だったのか。そして今、和馬はどこへ向かおうとしているのか。


答えは、まだ見えないままだった。


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