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灰色の檻の中で  作者: セピア色にゃんこ
灰色の檻の中で
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15話 家族としての新生活

新しい家は、閑静な住宅街にある一軒家だった。庭には広々とした芝生が広がり、春馬が元気に駆け回っている。


柴崎は縁側に座りながら、その様子を眺めて微笑んだ。

「本当に元気だな、あいつ。どこからあんな体力が湧いてくるんだ?」


隣に座る和馬が、肩をすくめて答える。

「翔に似たんじゃないか?」


その言葉に、柴崎は思わず吹き出した。

「俺、そんなに体力バカか?」


和馬は軽く笑いながら、柴崎の頭を軽く叩く。

「自覚がないのが一番厄介なんだよ。」



庭の片隅で春馬がしゃがみ込んで何かを探している。柴崎が声をかけようとしたとき、ふと和馬が話を切り出した。


「そういえば、覚えてるか? 小学校の時の作文。『僕の将来の夢』ってやつ。」


柴崎は懐かしそうに頷いた。

「ああ……俺がヒーローになるって書いたやつな。今思えば、子どもっぽかったよな。」


和馬は少し目を伏せ、遠くを見つめながら続ける。

「あれが俺を救ったんだよ。」


柴崎は驚いて和馬の顔を見た。

「救った? 俺が?」


和馬は静かに語り始める。

「母さんが病気で苦しんでた頃さ……俺は何もできなくて、ただ傍にいるしかなかった。そんなときに廊下に張り出されてたお前の作文を読んだんだ。『困ってる人を助けられるヒーローになりたい』って……それを読んで、俺も誰かを助けられる人間になりたいって思った。」


柴崎は少し黙り込んだ後、微笑んだ。

「そうだったのか……。和馬、覚えてるか? 実は俺も、あの廊下に貼られてたお前の作文、読んでたんだよ。」


和馬は目を見開き、驚きの表情を浮かべた。

「俺の……作文?」


柴崎は懐かしむように話し続けた。

「『医者になって家族を守りたい』って書いてただろう? あれを読んで、お前がどんなやつなのか少しわかった気がしたんだ。今思えば……あの時から、俺たちの道はどこかで交わる運命だったのかもな。」


和馬は苦笑しながら、静かに呟く。

「医者にはなれなかったけど……こうやって家族を守る場所を作れた。それで夢は叶ったよ。」


柴崎は真剣な眼差しで和馬を見つめ、静かに言葉を紡ぐ。

「十分だよ。和馬は俺たちのヒーローだ。」



春馬が庭から大きな葉っぱを持って駆け寄ってきた。

「父さん、見て! これ、すごくきれいでしょ!」


和馬は笑いながら春馬の頭を撫でる。

「そんなに気に入ったなら、部屋に飾るか?」


柴崎はそのやり取りを見ながら、心の中で穏やかな幸福をかみしめていた。春馬の笑顔、和馬の柔らかな表情。この瞬間が、これまでの苦難を乗り越えた先にある宝物だと思えた。



夜になり、庭から金木犀の香りが漂い始めた。


「……金木犀。前は苦手だったけど、今は大丈夫だ。」


柴崎がぽつりと呟くと、和馬が穏やかに微笑む。

「母さんが好きだった香りだ。こうしてお前と春馬と一緒に感じられるなんて、母さんが知ったら喜ぶだろうな。」


柴崎は頷き、和馬の肩にもたれかかる。

「俺たちも、ちゃんと前を向いていけるよな。」


和馬は力強く頷き、柴崎の手をそっと握る。

「俺たちはもう家族だ。どんなことがあっても守り抜く。」


夜空の下、金木犀の香りが静かに漂う中で、三人は新たな一歩を踏み出した。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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