14話 遠い場所で繋がる想い
時間が静かに流れた。
柴崎翔が姿を消してから数か月。和馬は新たな会社「東条企画」を立ち上げ、軌道に乗せるために奔走していた。フロント企業としての表向きの役割を果たすと同時に、元舎弟たちを合法的な仕事に引き込むことで、彼らの新たな人生を支える取り組みを始めていた。
「これが俺にできる唯一の償いか……。」
ある日、オフィスの窓から外を眺めながら、和馬は静かに呟いた。
◇
一方、柴崎は実家のある小さな田舎町で、静かに日々を過ごしていた。
「翔、大丈夫か?」
柴崎の母が心配そうに彼を見つめる。家の中で小さな子供が笑い声を上げ、元気に歩き回っている。その名は春馬。柴崎が身を隠している間に産まれた、和馬との子供だった。
「うん、母さん。もう少しだけここでお世話になるよ。」
柴崎は小さく微笑みながら答えるが、その瞳には迷いが浮かんでいた。
和馬との関係を切り、警察を辞めて新たな生活を始めたはずだった。それでも、和馬のことが頭から離れない。
「……今さら会いに行く資格なんてないよな。」
◇
その頃、和馬は定期的に柴崎の所在を探していた。
「元警察官で、オメガの男性……何か情報はないか?」
人目に付かないよう慎重に舎弟たちに頼み込み、ついに小さな手掛かりを得る。
「どうやら、実家に戻ってるらしいっす。」
「実家……か。」
その言葉を聞いた和馬は、胸に湧き上がる感情を押さえきれなかった。
「翔……。」
◇
ある晴れた午後、柴崎が春馬を連れて近くの公園に出かけていた時のこと。
「ほら、春馬。もう少しゆっくり歩けって!」
笑いながら息子を追いかける柴崎。その様子を、少し離れた場所から静かに見つめる男の姿があった。
「……お前、そんな顔もできるんだな。」
和馬だった。
ふと足を止め、柴崎がその声の主に気づく。驚きと動揺で目を見開いたまま、しばらく言葉を失っていた。
「和馬……なんで……?」
柴崎の問いに、和馬は短く答える。
「迎えに来た。」
その一言が、すべてを語っていた。
◇
公園のベンチに座り、二人は静かに話し始める。春馬は近くで遊んでいたが、その笑い声が二人の会話を和らげた。
「……俺、逃げたんだ。」
柴崎はぽつりと呟く。
「和馬のことが怖かったわけじゃない。ただ、俺がいるとお前に迷惑をかける気がして……それに、春馬のことも。」
和馬は黙って聞いていたが、やがて口を開く。
「お前が何を考えてたのか、今なら分かる気がする。でも、俺はお前を守りたかった。それができなかったのは俺の責任だ。」
和馬の真剣な表情に、柴崎は言葉を詰まらせた。
「……お前のことを諦めるつもりはない。春馬も、お前も、俺にとって大事な存在だ。それだけは分かってほしい。」
和馬の言葉に、柴崎はしばらくの沈黙の後、小さく頷いた。
「……和馬、本当に変わったな。」
そして、柴崎は春馬を抱き上げながら、和馬に微笑みかけた。
「……俺、和馬ともう一度やり直したい。」
その言葉に、和馬は深く頷いた。
◇
その日の帰り道、和馬は車の中で一人、静かに呟いた。
「これが俺たちの新しい始まりだ。」
窓の外には、ゆっくりと沈む夕日が見えていた。それは二人と一人の未来を祝福するように、温かい光を放っていた。




