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灰色の檻の中で  作者: セピア色にゃんこ
灰色の檻の中で
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13話 新たな道の選択


柴崎翔が姿を消した。


連絡は一切取れず、官舎も引き払われていることが分かったのは、失踪から数日が経った頃だった。


「……何でだ。」


セーフハウスの中で、一人ポツリと呟く和馬。目の前には、柴崎が置いていった小さな水筒がある。それを手に取ると、ひんやりとした金属の感触が和馬の心を締め付けた。


何も告げずに去った柴崎。何か事情があるのは間違いない。けれど、なぜ一言だけでも残してくれなかったのか。それが、和馬には理解できなかった。


「……何があった、翔。」



和馬はすぐに舎弟たちに命じて柴崎の行方を捜索させた。


「警察官が行きそうな場所、すべて調べろ。」

「分かりました!兄貴。」


交番、近隣の警察署、そして柴崎が訪れそうな商店街や住宅街を手分けして探したが、どこにも彼の姿はなかった。


和馬自身も車を走らせ、柴崎とよく歩いた商店街や、公園を巡った。しかし、手掛かりは皆無だった。


「お前、どこに行ったんだよ……。」


窓越しに見る曇天の街並みが、和馬の胸をさらに重くした。



捜索を続ける一方で、和馬は東条組の若頭としての役割に追われていた。


対立組織との交渉、縄張りの管理、不始末を起こした部下への指導。どれも極道としての日常ではあったが、今の和馬にはその全てが虚しく思えた。


「兄貴、大丈夫ですか?」

舎弟の一人が心配そうに声をかける。


「問題ない。次の会合の準備を進めろ。」


表向きは冷静を装っていたが、心の中は柴崎への思いでいっぱいだった。


「俺が、もっと早くお前を守れる立場になっていれば……。」


ふと目を落とすと、手には小さな擦り傷と包帯が巻かれている。先日の対立組織とのいざこざで負った傷だ。


これが自分の日常だと改めて思い知らされ、和馬は唇を噛んだ。



その夜、和馬はセーフハウスのベッドに腰掛けて考えていた。


「……このままでいいのか。」


柴崎がいなくなった理由を想像するたび、和馬は自分の存在が原因なのではないかと思い至った。


警察官と極道――その関係がどれだけ柴崎に負担をかけていたか。


「俺が、この世界にいる限り、あいつは俺を選べないのかもしれない。」


その考えが、和馬の心に決意を芽生えさせた。


「……やめるか、極道を。」


声に出してみた瞬間、驚くほど気持ちが軽くなった。



翌朝、和馬は東条組の舎弟たちを集めた。


「今日をもって、俺は若頭を降りる。」


その一言に、全員が騒然とする。


「兄貴、何を言ってるんですか!」

「極道の世界で俺がやれることは、もうない。」


和馬の強い視線に、誰も逆らえなかった。


「これ以上俺についてくる必要はない。それぞれの道を探せ。」



和馬はフロント企業を立ち上げるため、知人たちに連絡を取り始めた。合法的なビジネスの経験はなかったが、極道時代の人脈と知識を総動員し、一つの会社を設立する計画を進めた。


「表の仕事で、もう一度人生をやり直す。」


それが、和馬が柴崎のために選んだ新たな道だった。



夜、オフィスとして借りた小さな部屋で、一人設計図を見つめる和馬。


「これで、翔を迎えに行ける……その時が来るまで、俺は俺を変えるだけだ。」


静かな部屋に響くその言葉は、和馬の決意を物語っていた。


そして、遠い場所で眠る柴崎の存在が、彼の心に小さな希望の光を灯していた。

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