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灰色の檻の中で  作者: セピア色にゃんこ
灰色の檻の中で
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11話 番としての関係

和馬のセーフハウスで迎えた朝、薄明かりが差し込む部屋の中で柴崎は目を覚ました。

ヒートの苦しみは嘘のように消え、身体の重さも和らいでいる。

しかし、胸の奥には、言葉にしようのない感情が渦巻いていた。


「あれが、番……」


そっと自分の首筋に触れる。そこにある噛み跡は、小さな痛みと共に、和馬との深い繋がりを刻んでいた。



番となった二人は、それ以来、定期的に会うようになった。

柴崎が交番での勤務を終えた後、人目を避けて和馬のセーフハウスに足を運ぶのが日常になりつつある。


その夜も、柴崎は和馬と共にセーフハウスの小さなキッチンにいた。

和馬は不器用ながらも食事の準備を手伝っている。


「お前、こんなこと得意そうじゃないな。」

柴崎が笑いながら言うと、和馬は眉間に皺を寄せた。


「馬鹿にするな。やればできるんだよ。」


言いながらも、包丁を持つ手はぎこちなく、野菜を切る度にカウンターに小さな音が響く。

柴崎は笑いをこらえながらも、そんな和馬の姿にどこか温かさを感じていた。


ふと、和馬が無意識に柴崎の頭を軽く撫でた。


「……お前、こうやって笑ってる時が一番らしい顔してるな。」


和馬の何気ない言葉に、柴崎は一瞬動きを止めた。


「……何だよ、それ。」


照れ隠しのように言い返すが、心臓が早鐘を打つのを止められない。



しかし、日常に戻れば、柴崎の胸には常に葛藤が付きまとった。

交番の業務をこなす中、ふとした瞬間に和馬との関係が頭をよぎる。


「もし上司にバレたら……」

「和馬が何か問題を起こしたら、俺はどうすれば……」


柴崎はデスクに広げた資料を見つめながら、心の中で何度も自問していた。


「俺は、警察官で……和馬は……」


その時、同僚が肩を叩いた。


「おい、柴崎。最近元気ないけど、何かあったのか?」


「……いや、別に。」


笑顔でごまかしながらも、その言葉が胸に刺さる。



一方、和馬もまた、自らの立場に苦しんでいた。

柴崎との時間を終えた後、彼は東条組の事務所に戻り、いつものように指示を飛ばしていた。


「この取引には一切手を出すな。何か問題があれば俺に報告しろ。」


舎弟たちは緊張感を滲ませながら頷き、即座に動き出す。


その日、対立組織からの挑発が入り、和馬は対応に追われた。

荒々しいやり取りの末、和馬の右手は傷つき、汚れた包帯で覆われている。


「これが……俺のいる世界だ。」


彼は包帯を巻いた手をじっと見つめ、低く呟いた。



その夜、再びセーフハウスで会った二人。

和馬は窓の外をぼんやりと眺めていた。


「……お前、本当にこれでいいのか?」


突然の問いかけに、柴崎は驚いたように和馬を見つめた。


「どういう意味だよ?」


和馬は視線を外さずに続けた。


「お前が俺といることで、失うものもあるだろう。」


「……失ってもいいものだってある。」


柴崎の言葉に、和馬は少しだけ目を丸くした。


「俺が決めたんだ。この関係を選んだのは、和馬じゃなくて俺だ。」


静かに告げる柴崎の声には、確固たる決意が込められていた。


和馬は少しだけ苦笑を浮かべ、続けた。


「お前は昔から、変わらねぇな。」


「それ、褒めてるのか?」


「さあな。」


二人の間に小さな笑いが生まれた。



しかし、その一瞬の安らぎの後、和馬は再び真剣な表情に戻った。


「お前の未来を奪いたくない。」


柴崎はその言葉に一瞬沈黙したが、やがて微笑みを浮かべて答えた。


「俺の未来には、和馬が必要だ。」


その言葉に和馬は何も返さず、ただ静かに柴崎を見つめていた。


窓の外には、柔らかな月明かりが二人を照らしていた。

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