唐突ではあるが、僕は神様になった
唐突ではあるが、僕は神様になった。
交通事故による最期であったが、神曰く、予定にない死であったと言う。
お詫びのしるしに神様となってこの世を楽しんでほしいと言われて、僕は晴れて神様に成った。
「別段変わりはないかな」
学校がない日は日がな街の中を散歩していた。スポーツバイクで遠くに行くときもあった。原付を走らせて行くときもあった。近場でもいい。僕は旅が好きだった。
神様になってもそれは変わらない。
僕は日本と言う国を片端から旅をすることにした。
周囲は僕を認識することはできない。
環境によって体調が変化することもない。
空腹や喉の渇きもない。
僕は淡々として、けれど周囲を観察しながら旅をしていた。
とある町に着いた時、奇妙な祭りをする集団に気づいた。
ナイゾウ祭り。
ないぞう、内蔵?
何を内蔵するのかよく解らない祭りが行われようとしていた。
街の人々が片手に赤い塊を手にして、開催される広場にて集まっている。
そして木の棒に括りつけられた黒い人形。
それに向かって人々が一斉に投げつけ始めた。
「内臓ね」
おそらく漬けられた内臓だ。
牛か豚か。
見分けはつかないが、それらが黒い人形に当たるごとに地面に落ちて潰れた。
家々の屋根の上にいる神様たち。
酒を飲みかわし、ゲラゲラと笑っている。
屋根に上り、彼に話しかける。
「何故彼らはあのようなことをされているのですか?」
祭りにはすべて神様に対する感謝が込められている。
もしくは災いを抑えるための儀式的な意味合いも。
けれど今回のこれは、客観的に見てもおかしな光景であるのに、内臓を投げつける彼らの様子は晴れ晴れとしていた。
「風習の名残だよ。この町では大昔、罪人に腐った食べ物や内臓を投げつけては、その腐敗による感染症で苦しめて殺すという刑罰があった。それが少しずつ変化して、黒い人形を悪い鬼に見立て、内臓を投げつけては邪気を払い、無病息災を望む祭りへ転化していった」
酒を飲み、彼は、ある者が投げた内臓が人形の顔にぶち当たって内臓が砕けたのを見て、ゲラゲラと笑った。
「お前、何処から来た? ここのもんじゃねえだろ?」
「日本を津々浦々と散歩をしている野良の神でございます」
「野良神……散歩とはまた粋なことをしているな」
「不慮の事故で死んで、詫びにと神様になりました」
「くははっ、お前の街の神は何ともずさんだな」
「それでも神として全国を気ままに旅できているのは楽しいものですよ」
「俺には解らんな。この土地を護る命を授かって数千年。お前の言う旅に憧れはすれど、実行しようとはついぞ思わなかった」
「それが神と言うものなのでしょう」
「くくっ、お前、いつ神に成った?」
「半年ほど前ですね」
「死んだときの歳は?」
「十七です」
「若すぎるな。それでいて神を知るか。くはは、良い気分だ」
彼は酒をぐいと飲み干した。その盃を僕に渡してきて、酒を注ぐ。
「飲め。俺からの祝いだ」
「ありがとうございます」
僕はその酒を一気に飲み干した。
生前は一度として当然ながら飲んだことはないけれど、これを断ることは許されないと、そう直感した。
苦い。
それでいて美味しかった。
初めてのお酒なのに美味しいと感じるのは、きっと神様だからだろうか。
からだがポカポカする。
「今度は何処へ行く?」
使いが彼に内臓を手渡し、彼はそれを人形にあてた。
何処からともなく突然内臓が飛来し、それが人形に当たったものだから、住人たちはこぞって喜んでいた。
神が来られたっ。
神が見ておられるっ。
と。
「何故投げられたのですか?」
「ああ? そりゃこいつらの喜ぶ顔を見るだけで酒が上手くなる。阿呆面がまた愉快だからな」
僕の手から盃を取って、酒を注いで飲む。
「優しいんですね」
「優しい? 違うな。俺は酒が好きだ。祭りが好きだ。必要だからこうしているだけだ。こいつらの為じゃねえ。ま、聞く話だと、別の町の祭りでは、より面白くするために人を殺す時すらそうだがな」
「残虐です」
「違うな。神だからだ。神に善悪はない。他意もない。ただただ純粋なだけ。お前が野良として日本を旅しているのと同じくな」
使いからもう一つ内臓を掴んで投げて当てると、人々がより喝采としていく。
此処に居る他の神様たちも同じように始めた。
「こいつらもまた祭り好きで、バカ騒ぎが好きな奴らだからな」
黒い人形が四方八方へと揺れるのを見て、人々は拍手喝采。
祈りを捧げ、願いを口にし、よりより平和を、よりよい安寧を求めて祈る。
「ここの奴らにとって人間は都合がいい。俺たちは飽きないし、祈りを貰えれば神としての格が上がる。人間社会で言うウインウインってやつだ」
そう言うと、彼らは町に神の力を流した。
土地が輝き、格が増していく。
「もっとこの町には発展してもらいたいものだ」
「これくらいがちょうどいいのでは?」
「子供が足りん。先を見るならじじばばではいずれ滅ぶ。十二分に頑張っているが、まだ足りない」
周囲を見る。
神と人間の関係性を――。
僕は立ち上がる。
「再び問うぞ。次は何処へ行く?」
「何処へでも。気の赴くままに」
「またここへ来い。百年でも千年でも俺は待てるぞ」
「ええ、いずれまた」
僕は歩き出した。人々の雑踏を抜けて、この町を去る。
「ああいう神様もいる」
神様は自分勝手だ。それが功を成して人々に良い影響を与えているのなら良い神様だ。
悪い神様はもっと悪い。平気で人を殺す。
「次は何処へ行こう」
北から南へ。
今度の街々はどんなところだろうか。
僕は楽しみにしながら歩を進めた。
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【集】我が家の隣には神様が居る
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