プロローグ
メリークリスマス!
という訳で、告知はしましたし、短編にも関わらず何故か数件だけブックマークがついていたので続き……
本編を書いています
終末罪禍へようこそ。
ここは自由だ
俺ら末端の者たちは君たちを歓迎しよう
我らが団長や幹部たちは歓迎してないがな
終末罪禍とは、そんなフレーズで罪禍たちの下位メンバーが宣伝している変なクランだ。
クランリーダー、罪禍でいうと通称 団長 と幹部は全てSSSランク冒険者と言われているが、それは定かではない。
他にも、
曰く、幹部の1人は竜王を一撃で倒した。
曰く、団長は一歩も動かず国を滅ぼせる。
曰く、彼らを敵に回せばすぐに抹殺される。
曰く、彼らの力は神々すらかなわない。
曰く、終末罪禍とは彼らそのものを表している
など、様々な噂がたてられてはいるが、実際は誰もその力を目にしたことはないので眉唾だと思われている。
そんな終末罪禍にて
ひとつの騒動が起ころうとしていた
side__ソル
「ソル、お前、もう出てけ」
「え……」
執務室に呼び出されて開口一番の「出てけ」
唐突に言われたその団長の言葉に、僕の頭は真っ白になった。
「いま……なんて?」
ただの聞き間違い
そんな僅かな望みをかけるように、震えながら聞き返す
「聞こえなかったのか?出てけと言った」
「え……」
「はぁ……追放だ追放。何度も言わせるな」
「そ、そんな……」
しかし、現実は無情だった
聞き返しても答えは変わらない
確かに僕は弱いし、戦闘なんて苦手だった。 でも僕は僕なりにクランに貢献しようと頑張ってきた。
会計や帳簿をつけたり、ポーションや武器の仕入れをしたり、クライアントに依頼を優先してくれるように掛け合ったり、クランのメンバーのメンタルケアもしたり、依頼達成後の報告書を書いたりもした。
「僕だって働いて…」
「ん?あぁ……あの誰でもできる雑用のことか?あれくらい誰でもできるだろう。ソルはここにいても居なくても変わらないんだよ。むしろ邪魔」
「なっ!」
あんまりの言い草に呆然とするが、団長のヴェールは待ってはくれないようだ。
面倒くさそうに僕を見るとため息をついて手を振り払った
「退職金はくれてやるからさっさと出ていけ」
こうして、僕はSランククラン『終末罪禍』をあっさりと追放されたのだ。
_________
これがたったの10分前の出来事
……今思えば、僕は全くお金を持っていない。
幸い、宿はクラン住みではなく前払いで取っていたので1週間分はタダで泊まれる
今手に持っているのは、去り際に渡された、ほんの少しだけの退職金だけ
僕のした仕事の価値を示す金額らしいが……
「はぁ……」
金額を見てため息がこぼれる
どうやら団長にとって僕の仕事は1週間分の生活費並らしい
はぁ……これからどうすれば
広場の噴水で途方に暮れていると、慌しい人影が見えた
あれ?こっちに走ってきているような……
って!危ないぶつかる!
しかし、僕の目の前で急停止したと思えば僕の方を掴んで揺さぶってきた
の、脳が揺ゆれれれるるる
……
「先輩!クランを抜けるってマジすか!?」
「そうだけどジル……どうしてここに?」
「先輩が抜けるなら私も抜けるっす!」
この子はジル。
このクランの中でもトップ10に入る実力者で、クランの中の1パーティのリーダーを務めている。
何故か以前から僕を慕ってくれているけど。
にしても…抜けるって!?
「どうして?」
「先輩がいないクランに意味なんてないっす。それに、先輩の仕事を馬鹿にするクランは落ちぶれるって相場が決まっているっす」
「そ、そうなんだ」
「それに、他のメンバーも続々と抜けるって言ってたっすよ」
えぇ!?
きゅ、急展開過ぎて着いて行けない
「みんな先輩に世話になって恩義を感じてたっす。先輩のいないクランにはなんの意味もないって言ってみんな出ていったっす。
今は依頼で離れているメンバーも多分、これを知ったら同じことをすると思うっす!
だったら、今度はこんなわからず屋なクランじゃなくて、先輩が中心となって動く最強のクランを目指そうっす!」
「僕の、最強の……クラン……」
かっこいい響きだ。
特にやりたいこともなくなったし、お金も無い。
みんながそう言ってくれるのなら、目指して見るのもいいかな。
とその時
『条件を満たしました。スキル【時短】がユニークスキル【時間操作】へと覚醒しました』
な、なにこれ……?
スキル覚醒なんて聞いたことがないんだけど……
時間操作?なんだか凄そうだ。
でも、元々が大して使えない【時短】だし……
試しに使ってみようと思い、何となく念じてみると……
「あれっ?何も変わらない。特に変わった感じはしないし、力が抜けるような感覚もない?」
あれ、おかしいな
発動はしているはずだけど
やっぱり名前だけなのかな……
そう思ってジルを見ると、硬直している
「どうしたの?」
呼びかけても反応が無い
え?
音が…、聞こえない
「誰も動いていない……僕しか動いていない?」
そして、停止だけということも無く。しっかりと解除もできた(突然動き初めてびっくりしたけど)
停止も解除も自由自在。
どうやらこの時が止まった世界では誰も起こったことを認識できないらしい。
これは……とんでもないスキルを手に入れたぞ
これなら最強も夢ではない。
このことをジルに話すと
「凄いっす!!もうその力さえあれば敵なしじゃないっすか!!」
と言ってよろこんでくれた。
「ジル、僕は決めたよ。僕達で最強のクランを作ろう!」
「ハイっす!」
僕たちが新時代の__新しい星を作るんだ!
________
Seed__ヴェール
いつものように大量の書類を一斉に片付ける
とはいえ、1件は自分から作ったようなものだが
手を組んで頭まで伸ばし、欠伸をする
ん、執務室に誰か入ってきたな
この感じは……
「よォヴェール。ソルを追放して良かったのか?随分と駒が減ると思うが」
特徴的な深紅の赤髪。引き締まった上半身に軽く羽織を纏っただけのラフと言うには軽すぎる格好でその男はやってきた。
……やってきたというのは少し語弊があるか?
正確には窓の縁に座っている訳だが
「ルージュか。気にしなくてもいいだろう。そもそも、こんなクランなど飾りだ。メンバーなんていらない」
「それもそうだなァ。なンせ、面倒せェクソギルドの上層部から無理矢理作らされたもんだからなァ。外部がどうなろうと俺らの知ったことじゃねェよな」
ルージュはうんうんと頷くと思い出したかのように顔を上げて俺を指さしてきた
「つうか、俺しか居ねェんだからその気色悪い喋り方するンじゃねえよ」
……それもそうだ
何で外部の奴がいないのにこの喋り方をしているのだろうか?
「あぁ〜面倒くさかった。何で俺がこんな喋り方しないといけないんだよ」
ルージュてめぇ覚えていろよ
いや、ルージュだけじゃないな
俺をリーダーに押付けたやつ
別の所では団長だったからって……
「というかギルドがクソなのは元からだろうが。どうでもいいことで俺らを縛り付けやがって」
そう、ギルドはまじでクソだ。
賄賂、横領、暴力、差別等など、権力によって好き勝手に行っている。
そして何よりも、大変気に食わないことに。
自分がSランクを従えていると調子に乗っていやがる
無論まともなやつはいるが圧倒的少数だ。
そんな少数派の意見など、大多数のクズどもによってかき消されちまう。
まぁ、だからこそ俺らがこうして睨みを聞かせているわけだが。
それもそれで面倒でストレスだ
いっそ皆殺しにしようか……
とそこまで考えた時だった
「あ?今。時止まってンな」
「あぁ、確かに。そういえばソルは【時短】のスキルを持っていたな」
「あァ、【時間操作】にでも至ったとかか?そンなら納得出来る」
「まぁ、俺らからすればそう大したスキルじゃないがな、大抵の奴は完封できるだろ」
時間停止対策もしていないようなやつは特に
と思ったらルージュが大笑いし始めた
「ハハハハ!おいおい!素の実力で圧勝してンのにスキルの質でも完勝されるとか!ハハハハ!!惨めなやつだなァ!!アッハハハ!!!あいつが勝つとか無理だろうが!そもそも俺らに勝てるやつなんて居ねェよ」
「そう言ってやるなよ。世間一般から見ればソルのスキルは便利で強いからな」
一般、ではな
「で、あいつは書類仕事とかやってたが、その穴埋めはどうするんだ?」
「どうせ、このクランから抜け出すやつが続出するだろうし、段々と減っていくだろ。それにあいつがやっていたのは所詮1割にもみたない。今更消えても本当に問題なんて起きようがないんだよ」
ま、退職受理の書類は増えるけどなと呟きつつ、頭の隅で考える
そう、これはあいつの物語ではない。
これは、真の『終末罪禍』のメンバーの物語だ
クリスマスなんで、もう1話投稿しようかな……
その後は週1になる予定です
『享楽主義の天邪鬼』はそのうち一旦消してまた書き直す予定なので、リメイク前が見たい場合は検索して頂ければ……