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空白の天使  作者: mimimi
序章
1/1

1-1 いつも通りの日常

 いつも通りの平穏な日常がいつまでも続くと私は思っていた。そう、あのときまでは。


***


 朝、聞きなれたアラームの音のする方へ手を伸ばしアラームを止める。まだ寝足りない気持ちを抑えつつ私は体を起こしスマホを手に取った。ロック画面には6時35分と表示されている。


 月曜日のダルさを嚙み締めながら自室からリビングへと向かう。人気のないリビングにはコンビニで買えるパンが1つ、そして五百円玉が1枚が準備されている。


 今日も私の母親は私が起きるよりも早くに家を出てしまったようだ。朝食と昼食代は置いておいてくれる優しい母親だ。


 私は冷蔵庫にある適当な飲み物をコップに注ぎ喉を潤す。やっぱり寝起きにキメる麦茶が一番美味しい。もちろん2番目はマラソンの後のスポドリだ。


 そんなくだらないことを考えながら用意してもらったパンを食べる。そして、今日の授業の内容の軽い予習をする。まあ、教科書を一読するくらいの本当に軽い予習だ。


 数Ⅰの教科書を見て、英表の教科書を見て、化学の教科書を見て・・・としているとスマホが着信を知らせてきた。相手は幼稚園からの腐れ縁の小森(こもり)橙花(とうか)だ。


 どうせ大したことないことを言うために電話をしてきたに違いないことがわかりきっているから私はそれを無視して教科書に目線を戻した。しばらく着信音が部屋に鳴り響き続けたが10分ほど経つとその音も止んだ。


 橙花は文武両道、才色兼備な私が知る中で最も優れた人間だ。試験の点数は常に満点、どんなスポーツも少しお手本を見ただけでそのお手本を完全に再現する。

 そんな可能性の塊のような存在、それが私の幼馴染(こもりとうか)だ。そんな彼女だが少し、いやだいぶ常人と異なった思考の持ち主でもある。


 橙花は人に対しての興味が普通の人の何倍も薄いのだ。特に人の顔を覚えるのが苦手なようでよくクラスメイトのことを間違えている。


 他にも、私に関することに過剰なほど大きな反応をするという変わった面を持つ。直近では先週、隣のクラスの男子に放課後の教室に呼び出されたときに、私が返事をするよりも先に橙花が食い気味に断るなんてことがあった。そのときの橙花の表情は少し怖かったことを覚えている。


 これは橙花と関係あるとは思えないが、私に用があった男子はその日から学校に来ていないそうだ。友人伝いに聞いた話だと彼は自室に引きこもってしまい出てこなくなってしまったらしい。彼の身にいったい何があったのかはわからないが相当ショックなことがあったのだろう。


 まあ、そのときしか面識がないほぼ他人の男子が引きこもりになってしまったところで、私には関係ないことだ。こんなこと言ったら冷たいと思われるかもしれないが、私にはどうしようもないことなのだから気にするだけ無駄だ。


 古典の教科書を閉じ、スマホを手に取る。ああ、橙花からメッセージが40件くらい来ている。さっきの電話を無視したから怒りを表すスタンプを連投してきたようだ。とりあえず適当な言い訳を返しておくか。理由は寝ていて気が付かなかったとこでいいだろう。これで何回目かわからない言い訳を手慣れた手つきで送信した私は使ったコップを洗うために台所に向かった。


「ふう。」


 洗い物を終えた私は今の時刻を確認する。7時40分くらいか。私の家から学校までは徒歩で20分くらいで到着できる。9時までに登校できればいいため今から準備すれば十分間に合う。


 鞄にさっきまで読んでいた教科書やを入れ玄関の近くに置く。そして私は歯磨きをしたり髪を整えたりなどの身支度を始め、およそ40分ほど時間をかけて支度を終える。


「うん。今日もかわいい。」


 姿見鏡で制服姿の自身を確認する。リボンはずれていないか、髪は乱れていないかなどの身だしなみの最終確認をする。問題ないことを確認できた私は鞄を手に持ち家を出た。


 春の暖かい日差しを体に感じる。昨日まで雨が降っていたとは思えないくらいの晴天だ。私は家の鍵を閉め,道に出る。


 そして,少し進んだところにある公園の横を通り過ぎようとしたとき,その公園の入り口から一匹の猫が私の目の前を通り抜けていった。


 猫は私に目もくれずにすごい速さでどこかへ行ってしまった。その猫は何かからにげてるみたいに見えた。


 公園に私は視線を移した。しかし公園には不審人物や危険な動物がいる様子は見られない。


 私は腕時計で時間を確認する。まだ時間があるみたいだから少し公園の中を調べてみようかな。


 公園内に踏み入れると寂びれた遊具が目に入る。ブランコや滑り台,鉄棒に雲梯といったよくある遊具があるだけでこれといったなにかはない。


 少し公園内を歩いて散策してみるが人っ子一人どころか野生の動物すら見当たらない。やっぱりあの猫が何かから逃げていたというのは私の勘違いだったのだろうか。


 公園の入り口に戻ろうとすると入り口近くのベンチの上に青色の表紙の本が1冊置いてあるのを見つけた。その本に引かれるように私は足を運ぶ。


 私はその青い本を手に取る。その本の表紙に書いてある文字は日本語ではなかった。本を開いて中身を読んでみるが,やはり見慣れない・・・というか見たこともない文字で書かれていてまるで理解できない。挿絵のようなものも存在しておらず,ほとんど謎の文字の文章で埋められていた。


「不思議な本。初めて見るはずなのに,この本どこかで目にした気がするんだよな。これがデジャヴという現象か」


 私は文字すらわからないその本にどこか既視感を抱いていた。なぜか読めもしない文字にすらその既視感を抱いてしまうなんておかしな話だ。


 この本,誰かの落とし物だよね。勝手に持っていったら盗みになっちゃうよな。でもこのまま置いていくのも憚れる。


 私はしばらく考えて一旦預かって下校時に交番にでも届けに行くことにした。拾って24時間以内に届ければ罪に問われることもないだろう。


 鞄に本をしまって公園の入り口に戻る。そのとき,後ろから視線を感じた気がした。私は後ろを振り向く。しかし,そこには誰もいなかった。


 少し怖くなった私は足早に公園から出て行った。


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