第八話 化物なりのやり方
一瞬、打ち切りエンドになった気がしたが気のせいだった様だ。きっと俺が異世界に飛ばされるという物語の様なこの世界はいつ終わりが来てもおかしくないという深層心理からだろう
寝て目覚めたら実は夢でなんてザラなんじゃないかとか、非現実感の強まった今だからこそ余計に感じる。
会社員時代今の様に充実感こそなかったものの現実的ではあった。それが今じゃあ魔族に魔物、挙げ句の果てには契約の珠………俺の頭がぶっ飛んじゃって本当の俺は特殊な施設で隔離されちゃってたりしてw
っとまあ心の奥底にあるものを語るのはこれくらいにして………限りなく非現実的な現実に話を戻そう。
ヨルさん曰く死の国アワへ行くには荒れ狂う大海セトを越えなければならないらしく、セトを越えるには優秀な航海士ムカタナ三姉妹の協力が不可欠なのだそうだ。そこでムカタナ三姉妹の内が一人、タギツさんの住む海村エノへ三日三晩かけて尋ねたのだが……
「どこの誰かも知らないアンタらを命懸けでアワへ送れってのかい?バカ言うんじゃないよ」と一蹴りされ家から追い出されてしまった。
アスラ王の命であると言ってもきっと信じてもらえず、知らぬ存ぜぬで契約の珠を手に入れたい。そして異邦人と大罪人が旅の途中で体よく野垂れ死んでくれれば御の字とでも思っている国からも更なる助力を得られるとは思えない。
「ヨルさん……どうしよう……」俺は砂浜に座って始まって間もない旅に不安を感じながら尋ねると彼女は海に足をつけてバシャバシャと歩きながら「まあそう簡単にはいかんよね〜!」と楽観的姿勢で答えた。
えらくはしゃいでるな〜と思ったがすぐにその理由を思い出す。牢にいた彼女はまず海に行きたがっていた事を。そんな彼女に俺は「良かったね……海来れて。」と笑いかけると海の水を思いっきり俺に浴びせて「そこで八の字眉毛にしていても何も変わらんさ!ほら君も今を楽しもう!」と俺を呼んだ。
しゃーねぇ!現実じゃ海に行く事なんて無かったんだ。ぴちぴちギャル……かどうかはさておき女性と一緒に来てるのなら楽しまなきゃ損だよね!
「なんかすごい失礼な事を考えてる顔したぞ……」
ジトーっとした目で見つめて睨むヨルに「気のせい気のせい!」と笑って誤魔化した。俺とヨルさんは砂浜を走り出す
「あはははッ!ヨル〜〜〜ちょっ待てよ!!」
「捕まえてごらんなさい〜〜〜うふふふッ!!」
大の大人二人が海でイチャイチャする光景は非常に異様なものだった様で海村エノの人々がわざわざ家から出てきて見にくる程、俺はその多数の視線が鋭く突き刺さるのを感じていた。やばいよ……ちょっと恥ずかしくなってきたよ………と俺の羞恥心が限界を迎えかけたその時「いい感じに物見客が集まってきたね〜。そろそろか。」と突然ヨルはこちらを向いて構える。
俺は理解出来ず呆然と立ち尽くしていると……ヨルは「化物は化物らしく力を示すのが一番よ」と不敵に笑った。
一体何を……
ーーードゴンッ!!!!!メキ……メキ……
突然目の前の構えるヨルが消えたかと思うと次の瞬間俺のボディに彼女の拳がめり込んでおり、そのまま海側にぶっ飛ばされた。
バシャンッ!!!!!
「ゴボボボ………アボ……ボウギンべ……。」
必死に海から這い上がり、「せめて一言言ってくれないかな!?メチャクチャ痛いんだが!?」とキレると「死なない様には殴ったし死んでも君生き返るんだろ?」とヨルは煽る。
化物らしくか……ならとことんやってやりましょう!?……痛いのは嫌だが……「ただ間違って胸とかお尻触っちゃっても文句はなしだぜ!?」と息巻いた……が
ーーーーズドドドドドッ!!!!!
セクハラをした俺にヨルさんは容赦無く人ならざる速さでラッシュを叩き込む。
「どうしたのどうしたの!?さっきから全然手も足も出てないけど!!」
「グッ……これから出すんだよ!!ヨルさんもさっきの威力はどこいったのかな〜!!」
等と煽り返してはいるが正直精一杯で今のラッシュは最初の一撃と比べると間違いなく威力が増している。一発一発が即死レベルで猪に跳ね飛ばされた時でさえなにも感じなかったのに今は骨に響く鈍痛が終始押し寄せている。ツクヨの能力が発動してなければ跡形もなく消し飛んでいただろう。
この能力が持つ内になんとかしなければ……
パンチは振りかぶる距離があると威力が上がる……ならば振りかぶらせない様に密着しちゃえばいい。
しかし距離を取られればいたちごっことなってしまうので逃げ場をなくす必要がある……しかし壁も何もないこんな砂浜の真ん中でそれは難しい……なら!!
俺は防御の姿勢を一時的に解除してヨルさんに距離を詰めてタックルを繰り出し彼女の両足を両脇に挟んだまま前に倒れた。地面を壁代わりにする為ダウンさせて密着する。これが現状最強の無力化方法だ
「ハァ……ハァ……もう暴れるんじゃねぇぞ……へへへ……逃さねぇからな。」
…………あれ………
ヨルさんは顔を両手で覆って急に動かなくなってしまった。彼女の耳を見ると真っ赤になっており、その反応で自分の行いに初めて気付いた……これは……
「昼間っから盛りあうのは勝手だがね……村のガキ共も見てんだ。そういうのは見えない所でやんな化物共。」
いつの間にか三姉妹のうちの一人タギツさんが俺達の体位を見下ろしており、慌てて俺とヨルさんは離れて砂浜で正座する。
「アンタらが化物だという事はわかったさ……化物相手ならさっきの話聞いてやらんでもない。話は家で……」
そう言われて気まずい距離感を保ちながら俺たち二人はもう一度彼女の家へと招かれるのであった