第五話 王の御前
「アスラ王連れて参りました。」
一人の兵士が玉座に座る髭もじゃのおっさんに告げ、俺は拘束されたままその前に座らされる。彼がスワ国で使いの奴が言ってたアスラ王か……そして……その隣の……幼女は……ハッ!!
この時俺は衝撃で空いた口が広がらないとはまさにこの事なんだと初めて実感した。
なんとその幼女は髪色以外俺に力を授けてくれたツクヨの姿そのもので俺はその幼女に対して「ツクヨ!!」と呼びかけた。しかし周りの兵士その俺の様子を見て「日の巫女様に向かって何事だ!!暴れるなと言ったであろう」と言って無理やり押さえつける。
グッ……!!力強えぇ……筋肉馬鹿どもめぇ………。
「おやめなさいッ!!かの者は客人であらせられます!」
そういって日の巫女と呼ばれる幼女は兵士をどかせて俺に近づき「こんな形になって申し訳ありませぬ。直ぐに拘束を解きますゆえ」と彼女が少し俺の枷に触れると一気に燃えて消え去り俺は自由の身となった。
「日の巫女よ。勝手な事をされては困る。此奴は断首されても死ななんだ化物なのだぞ?」
髭もじゃのおっさんアスラ王は日の巫女に対して苦い顔をしたが彼女は「この者からは微かではございますが、アスラ王殿下、そしてスサナウエ女王と同じ気配が感じられます。その様な者が野蛮な行動を起こすとは思えませぬ!」と幼いながらも俺への対応の不服を伝えてくれた。
「日の巫女様……私の為に有難うございます。それでアスラ王、日の巫女様……スワ国から私を呼び寄せた理由をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
そう、ほぼ強制的に連れてこられた理由を俺は知らなければいけない。少なくともスワ国で余生を過ごす事がツクヨに与えられた使命では無く、この世界を救う為にもっと世界を知らなければいけないからだ。
そんな俺の問いにアスラ王はハハッと少し笑い「話が早くて助かるな……異邦人。其方は本来異邦人でありながらこのシオンの地に降り立ち土地を穢したが故死罪か永久投獄が決定しておったのだよ。」となんの躊躇もなく答えた。
シオンの地っていうのはこの土地全域の事だろうか……でもミナカタやスワ国の人達はそんな事一言も……
………………いや……違うか……
皆が暮らしの知恵や生きていく術を教えてくれていたのは異邦人である俺をスワ国の民として迎える為で……誰も俺の居場所を吐かなかったのは俺を命を守る為……全て知ってたから……あの親子でさえも……。
ああぁぁ………なんなんだよッ……俺だけ何も知らない………守られてばっかだ……情けねぇ……ツクヨもスワ国のみんなも……グッ……
「しかし其方は死という罪を受けたにも関わらず乗り越えた。ならばその罪を匿っておった者達に償ってもらわねばならぬな」とアスラ王は更に続け、俺は「やめて下さい……それだけは……どんな事でもしますから……」と屈した。
それが……精一杯だった……
「ワシとて同胞の命を奪うというのは心が傷む。故に其方に挽回の余地を与えようと思うてな。」
最初からそれが狙いだったかの様に薄ら笑いを浮かべるクソジジィに「何をすれば?」と尋ねた。
「死の国アワの大剣神殿に眠る契約の珠を持って参れ。生気を吸うその珠を見事このマヤ台国へ持ち帰り、その中身を献上した時其方の自由とスワ国の民の命を保証しよう。」
生気を吸う契約の珠……俺が死を乗り越えたからこその……全てジジィの手の上って事か……だが……断れば皆が……
その時日の巫女が声を上げる。
「アスラ王、この方は異邦人でこのシオンの地に詳しくなく、その様な誇大な役割とても遂げる事が出来ると私には思えませぬ。そこで日の巫女として進言したい事がございます。」するとアスラ王は「申してみよ」と一言話し、日の巫女は「大罪人ヨルをこの者の案内人とし、契約の珠をマヤ台国に運ばせるのです。」と進言した。
アスラ王は渋い顔をして日の巫女を「その真意たるや」問い詰めると彼女は「ヨル、そして異邦人のどちらも今アスラ王が手綱を握っており逃れられぬ身である事、そして王直属の命はこの国の命である故に他国との軋轢を生みかねない事にございます」と真っ直ぐ王の目を見て答える。
その話から人質という名の手綱が俺に結ばれている様にヨルさんにも俺と同じ何かが手綱として結ばれているのだと察した。だからこそ彼女は大人しくあの場で囚われているのだろうと。
アスラ王は少し考えた後周りの衛兵にも聞こえる様に「異邦人と大罪人を今夜マヤ大国から放り出せ。」と命じ、俺は衛兵達に再び押さえつけられ連れていかれるのであった。