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タケルとイナタ  作者: 神無月龍詠
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第一話~~【少年タケル】

目にうつるすべての物が気に食わなかった。

学校とか、教師とか、友達とか、時間とか、さらには自分自身も気に食わなかった。

自分の意志と関係なく移り変わる状況。進む時間。それらに取り残されているような気がした。

だから壊した。目に映るすべての物を恨み、壊した。

いつも目の前の物を壊しつくした後、その狂気の破壊衝動は己に向けられた。

それ故に少年の身体には傷が絶えなかった。

それがタケルという男だった。


少年タケルにとって家や学校はとても居心地の悪いところだった。

学校に友達はいなかった。当然である。相手は怖がって話かけてはこないし、タケルを見るとさっと道を開けた。誰とも関わりたくないタケルにとってはありがたいことだったが、目も合わせようとしないクラスメイトや自分を避けていくクラスメイトに腹が立ちどうにかなりそうだった。

家には一応両親がいるが、父親は短期バイトすらもまともに続かないでくの坊で、母親は夜のお店で働いていた。二人は毎日タケルに暴力をふるい、酒を飲んではタケルを罵倒し、また殴る日々であった。


ある日、タケルは学校を休んだ。もちろん、無断である。初めの頃は担任から確認の電話が来たが、今ではからっきしだ。部屋の中はカーテンが日光を遮っていて薄暗かった。

十二時ごろだろうか。父親がどすどすと足音を立てて上がってきて、乱暴にドアをあけて入ってきた。その際に悪態をつきながら持っていた空き缶をタケルに投げつけて床に背中を預けた。

投げつけられた空き缶はタケルの額に命中し、当たり所が悪かったのか、額はバックリと割れて、血がどく、どく、と流れた。

タケルの中で何かが切れた。別に、血が出たことに腹を立てたわけではない。今までの積み重ねやタイミングがタケルをそうさせたのかもしれない。

タケルは床に落ちている瓶を手に取って、それを父親の顔面に振り下ろした。

突然の凶行に父親はがあああ、と呻きタケルから距離を取ろうと足をばたつかせたがタケルは容赦なく二発、三発と瓶を振り下ろした。空を斬った瓶は四発目でひびが入り、五発目で粉々になった。

しかしタケルは近くに落ちていた瓶を手に取ると同じように瓶を振るった。

そのうちに父親は頭をかばうような体勢のまま動かなくなった。タケルは瓶を放ると何を思ったか、鞄にペットボトルの水や菓子パンを詰め始めた。

一通り詰めて、タケルは自分の机から紙と鉛筆をとって、「さよなら」とかいてテーブルにおいた。

少しの間それを見つめ、タケルは紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

玄関を出る際に、タケルは振り返って部屋をみた。恐らく、もう二度と帰ってこないと本能的にわかっていたのかもしれない。ごみの散らかった床、黒ずんだ畳、うずくまっている父親。何一つとしてタケルの心を引き留めるものはなかった。


少し歩いて家の方を見ると、階段を上がっていく母親がみえた。こちらには気づいてなく、ドアを開けて入っていった。

タケルは一人になった。


タケルの家の周辺は、田舎ではあったがそれなりに家やお店などが建っている所だった。人目が付くのでタケルは山間部である西へと歩みを進めた。

初めの数日は家から持ってきたパンやカップラーメンでしのぐことができたが、携帯食料が尽きてからは畑から野菜を盗んで食べたり、商店から物を盗んですごした。ここら一帯は老人ばっかりなので盗みがばれにくかったし、万が一見つかったとしても走って逃げることが可能だった。

しかしそんな生活を続けているとさすがの村人たちも警護団なるものを結成して巡回をし始めた。今までは簡単に盗めたものも簡単にはいかなくなった。

それでも元々若手の少ない村である。村にあるすべての店を見張れる訳はなく、タケルは見張りのいない店を狙って盗みを働いていた。しかしそんな事が出来たのもほんの数日だった。

ある日の朝、タケルがいつも通り盗みを働こうと山から下りてきたとき、村の村長宅にパトカーが止まっているのを見つけた。村長らしき人物と警察が話をしている光景を見て、タケルはこの村はもうダメだと思った。タケルは山を越えた向こう側の村へ移動しようと思った。

しかし隣の村までは二,三日かかるくらいの距離であるため、その間の食料を確保する必要があった。

タケルは夜になるのを待ってから行動に出た。最初は雑貨店に侵入し、自分の体に合った鞄を頂戴した。食料をため込むためである。

タケルはまず侵入しない店の窓ガラスをあえて派手に割って、村人たちの注意をひいているうちに別の店に侵入するという作戦をとっていた。しかし今夜は最初に割った店の近くに潜伏して、集まってきた村人がほかの店の見回りに行った瞬間を見計らってその店に侵入した。

タケルは水や食料を詰めれるだけ鞄に詰めて、いざ退散しようとしたその時だ。

「いたぞー!泥棒!こっちだー!」外から叫ぶ声がこだました。

タケルは思わず近くにあった瓶を取って叫んでいる男に思いっきり投げつけた。一本目は外したが、

二本目は男の頭に命中した。今回の瓶は中身に何かしら液体が入っていたせいか、男は「だぁぁ!!」と叫んで地にひれ伏した。タケルは瓶を両方の手に一本ずつ持って店から飛び出した。


タケルはすぐに草木が生い茂る山の中へと駆けた。しかし、村人たちも後を追って山へと入ってきた。

村人たちとはだんだんと距離が離れていったが、警察官二人は足場の悪い山道を駆けて、タケルと距離を縮めていった。だが、さすがに子供と大人では体力が違う。タケルは警察官に追いつかれてしまった。警察官はタケルの右腕をつかみ、観念しろと言わんばかりに強い蹴りをタケルに入れた。

衝撃にタケルは地面に倒れ、警察官が馬乗りになってきた。その瞬間タケルは持っていた瓶を警察官の顔面に振るった。手ごたえはあった。警察官は突然の衝撃に体をのけぞらし、顔を手で押さえて悶えた。

タケルはそんな警察官の顔を何度も蹴って、自分の身体から引きはがして再び逃走を再開した。

もう一人の警察官が迫ってきたが、持っていた瓶を投げつけるとそれに驚いた警察官は体制を崩して斜面を転がり落ちていった。タケルは追っ手を撒くことに一応成功した。


その日タケルは夜通し山を歩いた。少しでも追っ手から距離を取るためである。何時間歩いただろうか。月が沈み太陽が姿を見せ始めた。鳥たちが歌い、空が明るくなってきた。

さすがのタケルも身体の疲労からは逃げられず、休憩のために腰を下ろした。しゃがんだ瞬間に一気に眠気も襲ってきて、タケルは目を閉じた。


目が覚めたのはおそらく昼である。太陽が真上に浮かんでいるからだ。それにしても、夏だというのに意外と山の中は涼しい。汗をかいている様子もなかった。

このまま山中行軍を続けようかと思ったがタケルはすぐには動けなかった。

お腹がすいていたというのもあるし、睡眠をとったとはいっても前身が筋肉痛をおこしていたし、警察官に蹴られた横っ腹もひどく痛んだ。

しかしそれよりもタケルをその場に縛り付けた理由があった。


タケルの目の前に人間が眠っていたのである。

一瞬、追っ手かとも考えたが、追っ手であるならば眠る前に自分を捕まえているはずであり、それはないと思った。だとしたらこいつは一体何者なのか。

慎重に近づいてみた。短い黒髪、半シャツ半ズボン、靴。いたって普通の人間だ。

「うう…」

音を立ててしまったのか、問題の人間が目を覚ましてしまった。タケルは焦った。こいつをどうするべきか。追っ手ではないが何かしら自分に用があるに違いない。服装からしてハイキングをしているようにも見えない。問題の人間はもう今にも起きてしまいそうだ。

仕方がない、先手必勝だ。タケルは拳を振り上げ、問題の人間に振り下ろそうとした。

が、その瞬間、

「あーーーーー!!!起きた!起きた?遅かったねぇ!!」

寝起きの人間とは思えない声量にタケルは驚き一歩距離を取った。

問題の人間は目をかっぴらくと、びょーんと飛び上がってその場で飛び跳ねたり手足を動かし始めた。

一通り動き終わったのか、若干息を切らしながらこちらに近づいてきた。

「ねぇねぇ、あんた、なんでこんなところで寝てたの?」

タケルは即座に返答できなかった。突然の出来事に混乱していたのもあるが、何よりタケルを戸惑わせたことがあった。それは、

問題の人間が女であったことだ。

タケルは生まれてから全くと言っていいほど女性とかかわりを持ったことがなかった。当然である。日ごろから暴れているタケルに近づく女はいない。

だからこそ、タケルは何もできなかった。男なら殴って済むが、女の場合はどうすればいいのかわからなかった。

一向に返事をしないタケルに女はいらだったか、頭を上下左右にぐわん、ぐわん、と揺らして髪を片手でぐしゃぐしゃとかき乱した。

「あーーー!ごめんごめん、まずは自己紹介しなきゃねぇ!」

女はにかっと笑って、両の手を広げていった。



「私の名前はイナタ!よろしく!」

どうもこんばんわわわ。神無月龍詠です。久しぶりの投稿になります。文章が稚拙な事には目を瞑ってもらえると助かります。

さて、この「タケルとイナタ」ですが、知っている方はおや?と思ったかもしれません。実は元ネタとなった作品があります。真藤順丈先生の「地図男」です。正確には作中に出てくる話です。

一応、丸パクリしているわけではありませんのでご理解を。「地図男」も素晴らしい作品なので一読する価値はあると思います。

それでは、またの後書きで会いましょう。


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