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最終話 その罰、甘すぎませんか?

 


「ナディア・アーハイム公爵令嬢。 僕の妃になってくれないか」


 そのアルベルト殿下の思わぬ言葉で、頭が真っ白になってしまった。


 ......ん? 今、殿下は何て?


 膝をついて、頭を垂れていたから、目の前に見えるのは床。 ついつい許しもなく視線を上げたことを咎めないでほしい。 何て言ったのか理解が追い付いてません。


 そこでまた何度も目をパチパチさせてしまった。

 いやだって、殿下が片膝をついてこっちを見ているんだもの。


「............恐れ、ながら......聞き間違いでしょうか?」

「全く聞き間違えていないと思う」


 恥ずかしそうに頬を赤く染め、少し戸惑いがちに殿下は見てくる。


 いや、そのー......はい? 私、国外追放......もしくは公爵家からの籍剥奪ぐらいは覚悟してたんだけど......。



「......その罰、甘すぎませんか?」


「は?」



 ついそう言ってしまったら、殿下がポカンと口を開けてしまっている。 周りの侍女や殿下の護衛騎士たちも「は?」と声をあげていた。


 え、だって!! 甘いんじゃない!? 私、王子だった時のゼレン殿下に歯向かったのよ!? それがなんで妃って!! いや、妃も面倒だと思うけど!!


「ななな......ナディア様? あああの......その......罰じゃ、ないと......思うんですが......」

「え?!」


 斜め後ろのシルフィーヌが恐る恐る小声で言ってきた。 って罰じゃない!? ちょちょちょっと待って!? 本当に理解が追い付かないんだけど!! それじゃつまり婚約の打診......


「オホン。 ナディア様、これは罰でもなんでもありません。 純粋にアルベルト殿下の精一杯の告白でございます。 それを罰と感じたあなたに拍手を贈りましょう。 木っ端微塵に殿下の告白をぶった切りましたね。 さすがに殿下が哀れです」

「哀れ言うな......精一杯とか言うな......」


 ズンっと殿下がフレッド様の言葉に落ち込んだ。 シラっと冷めた目で見られても、え、どういうこと!? なんでここで告白!? 処罰を伝えに来たんでしょ!?


「そもそも、あなたが悪いんですよ?」

「はい?」

「ふふふフレッド!?」

「いいではありませんか、もうこの際。 あのですね、ナディア様。 本来ならあの夜会の日。 あなたが妙な事を言わなければ、ここまで殿下も苦労しなかったのですよ」


 え、え? 夜会? ああ、もしかしてゼレン殿下に婚約破棄言い渡された時のこと?


「本当だったらあの時、殿下は一方的に婚約破棄をした元第一王子のゼレン殿下を糾弾し、あなたを恰好良く助け、告白するつもりだったんです」

「ふふふフレッドぉ!?」


 か......恰好良く?


 勢いよく立ち上がったアルベルト殿下が、フレッド様の胸元の服を掴んでグラグラ揺らしているけど......それどころじゃないんだけど!?


 揺らされた状態でもフレッド様は口を止めない。


「なのにあなたが変なこと言い出したから、完全にそんな恰好良くお姫様を助ける騎士を演じることが出来なくなったわけです」

「フレッド! おまっお前っ!! 言うな!!」


 お、お姫様を助ける騎士?? どんな夢物語??


「そのあとも、あなたを恰好良く助けたいがために罰を施されている場所に赴きますが、あなた全っ然痛くも痒くもない様子で楽しそうにしておりましたから、(ことごと)く失敗してしまった殿下が哀れで哀れで」

「お前はそんなことを思っていたのか!?」


 私が邪魔してたの!?


「そ......それはごめんなさい?」

「ナディア嬢も謝らないでくれ!!?」


 恥ずかしいせいか、殿下は赤くなりながら若干涙目になっている。


 いやその......なんというか、まさか殿下が私に告白しようとしていたなんて思ってなくて......


 ......告白?


「えっ!? アルベルト殿下、私が好きだったんですか!?」

「今更っ!?」


 全然気づいてなかったのがショックだったのか、殿下の動きが止まってしまった。


「さっきの『妃になってほしい』という殿下の言葉をスルーしてましたね。 あれが一番シンプルで格好いいと、殿下がそれはもう悩みに悩んで考えたセリフだったというのに......」

「お前......それ以上僕の心を抉って楽しいか?」


 力なくツッコんでいる殿下をよそに、ゆっくりフレッド様が殿下の手を離して服を直している。


 いいいいやいやいやいや、スルーしてたわけではないんだけどね!!? 確かにアルベルト殿下、誰とも婚約しないなぁとかは思ってたけど! まさか私が好きだったっていう答えには辿り着かないわよ!! だって接点あまりなかったじゃない!


 そもそも気になる! さっきからフレッド様がやけに強調してくる恰好良くって何!?


「恰好良くって......何です?」


 そこの意味が分からなすぎるから、私もついボソッと聞いてしまうと、殿下がやっと落ち着いたのか、また膝をついて私に視線を合わせてきた。 顔真っ赤。


「......君は兄上と婚約していた。 だから僕もその......最初は諦めていた。 だが学園で君を見かけるたびに......惹かれてしまって」


 学園での私に......引かれてた!? それのどこに好きになる要素が!?


「引いてたんですか!?」

「違う! 多分、そっちの意味じゃない!」


 すかさずツッコまれた。

 殿下ってもしかしてツッコミの才能が? よく分かったわね。私が考えてたことが。


「悩んでいる時、あのバカがあの夜会で君に婚約破棄をしようと企んでいるのが分かったんだ。 だけど、君はきっと僕のことなど眼中になかっただろうから......その......昔読んだ絵本の真似をすれば、ぼ、僕のことを好きになってもらえるんじゃないかと......」


 ツッコミをすぐやめてボソボソと喋り出した。

 殿下、これはあれですか? ツッコミ待ちですか? ボケの才能もあったのですか? 告白の参考文献が絵本って。


 あ、きっとあれね。 フレッド様が面白がって賛成したのね。 明らかに笑いを耐えているフレッド様に、全く殿下は気づいてないわけね。


「殿下、それ、フレッド様にからかわれてますよ」

「は!?」


 バッとフレッド様に振り向いたけど、一瞬で彼は真顔になっている。 この顔芸。 相変わらずすごいわ。


 それにしても......。


「アルベルト殿下......ピュアすぎません?」

「ピュア!?」


 ピュアもピュア。 純粋を超えて純粋でしょ。 参考文献が絵本って。 しかもそれを信じてるとか。 耳まで真っ赤になっちゃってるし。


 これ、本当に私のことが好きだったのかぁ。 いっやー、全く気付かなかった。

 全く気が付かなかった自分に感心していたら、フッとフレッド様が微笑んだ。


「だから面白いのですよ」

「なるほど」

「なるほどじゃないんだが!? というかフレッド! お前、僕で遊んでたのか!?」

「どうです、ナディア様。 さっきの罰というのは殿下を振った言葉ではないのでしょう? 殿下はあなた好みだと思うんですが?」


 ツッコミを華麗にスルーしているフレッド様が促してくる。


 まあ、そうね。 この短いやり取りでもアルベルト殿下にツッコミたい所満載だし、逆に私のボケにもすかさずツッコんでくれた。 こんな方だとは思ってなかったからなぁ。


 オホンと気を取り直した殿下が、また軽く咳払いをして向き直ってくれた。


「君は......その......笑顔が好きだと言っただろう?」


 それはもう大好きですが......



「僕も君の笑顔が好きだ」



 ......いきなりのストレート!

 さすがに恥ずかしくなってくるんですけど!? 思わずドキッとときめいちゃったんですけど!? 顔熱いんですけど!?


 そんな私に構わず、殿下は嬉しそうに笑っていた。


「君の赤くなるところは初めて見た」

「誰だって赤くなりますよ......」


 そうでしょうよ! イケメンにそんな嬉しそうにストレートに告白されたら、誰だってときめくでしょうよ!! 私だけじゃないし! チラッと見たシルフィーヌも周りの侍女も赤くなってるし!!


 そっと殿下が私の手を取ってきて、また緊張が自然と走る。 そしてまたはっきりと言ってきた。


「君が好きだ」

「っ......! どストレート!! ちゃんとさっき聞きましたから!!」


 ひぃぃ!! 聞いてられない! 恥ずかしすぎる!! 顔あっつっ!! なんでそんな嬉しそうなのよ!? これ、からかって遊んでない!? 私、前世でもモテたことないし、貧乏芸人生活だったし、今世ではあのバカをどうするかしか考えてないから免疫ないのよ!


 はっ! 知らなかったけど......これが彼の本性?


「......殿下って遊び人だったんですね」

「なんでそうなったのか分からないが、君以外にこんなこと言ったことない」


 くっ! その真っ直ぐな目で見ないでほしい! というかさすがの私も分かる! この人、本気で私が好きだわ! めっちゃ顔赤い! 私も絶対今赤いけど!


「君が僕との結婚を罰と感じるなら......かなりショックだが......いやとてもショックだが......立ち直れなくなるぐらいショックだが......」


 一気にどんよりと絶望した空気出すとか、どんだけ私の事好きなのよ!? でもごめん! そんなつもりで罰って言ったわけじゃないですから! 誤解させてごめんなさい!


「こ、こちらこそすみません。 えーと......罰はその、陛下からの処罰のことをてっきり殿下が伝えに来てくださったのかと思いまして。 殿下との結婚を罰と言ったわけではなくてですね......」

「それは......僕にもまだ可能性があるということだろうか?」


 じゅ、純粋すぎるその目を向けないでください。 直視できない!


「それに父上からは君への罰はお咎めなしと言われたが?」

「はい?」

「君の父親には伝えてあったぞ。 民からあんなに慕われている君に罰を与えようものなら、反乱が起きるかもしれないから、今回のことはお咎めなしと」


 ......お父様ぁ!? 聞いていませんけど!!


「君への求婚のことも相談したら、君がいいなら問題ないそうだ」


 お父様ぁ!? だから聞いていませんけど!! これ何!? 今すぐ返事出さないと駄目な状況!?


 一人内心今の状況にパニック起こしていたら、殿下はさらに意外なことを言いだした。


「君の前に言っていた“おわらいげいにん”とかいうのも、僕は応援したいと思っている」

「......はい?」

「どういうものかは分からないが......だが君はそれをしたいんだろう?」


 ......え、したい。 いや、だけど......お笑い芸人よ? 王太子妃がやるようなものじゃないんだけど。


「人の笑っている姿が好きだという君のことを応援したい。 それはきっと民の笑顔に繋がることだろうから。 それにその時に笑っている君に、僕は惹かれたんだ」


 あ、これ言えないわね。 人前で漫才するとかコントやるとか言えないわね。 完全に何かを勘違いしてるわ、殿下。 でも何も言えない! だって嬉しそうに笑ってるんだもの!! どどどどうしよ......



「......僕のことも笑わせてはくれないだろうか?」



 ............私にとっての最っ強の殺し文句を言われてしまった。


 ジッと見つめてきて、耳まで真っ赤にしながら伝えてくる殿下。


 ああ、もう。

 こんなの断れないじゃん。

 断ったら泣いちゃうじゃん。


 私は笑顔が好きなのよ。

 皆の笑顔が。

 笑っている顔が。

 楽しそうにしているのが。

 喜んでいる姿が。


 つまりは、目の前の殿下も例外じゃないわけで......。


 取られていない手で顔を隠して、思わず溜め息をついてしまった。 殿下の困惑した空気が伝わってきたけど、私だって考えたい。


 ......いいわよ。

 いいわよ、いいわよ!! ええ、ええ! やってやろうじゃないの! こうなったら腹くくってやる!!


 王妃になれば国民全員笑顔にできるかもしれないし! お笑い芸人のことも殿下は何か勘違いしてるけど、応援してくれるっていうなら、そっちもやってやろうじゃない! 何も私自身がやらなくても、若手を育てればいいのよ! お笑い芸人をプロデュースして、そっちでも笑顔を増やせばいいじゃないの!


 そうね。 殿下が漫才やらコントやら理解してくれれば早いかもしれない。 幸い殿下はツッコミもボケも才能ありそうだし。 あ、これは夫婦漫才できるんじゃないの? 国王と妃の夫婦漫才。 うむ。 何かイケる気がしてきた。


 そうと決まれば。


 手を下ろして、目の前の殿下を見ると、ゴクリと喉を鳴らしたのが聞こえた。 ふっ、大丈夫です。 安心してください、殿下。


 だからニッコリと笑ってあげた。



「殿下......その甘い罰、お受けします」


「僕との結婚、やっぱり罰なのか!?」



 見るからにショックっていう顔していても、すかさずツッコんできた。


 合格!! 合格です、殿下!!


「オホン。 ごめんなさい。 テストしてしまいました」

「て、テスト?」


 心底不思議そうな殿下に、自然と笑みが零れる。

 

 そうね。 まずはこの殿下を笑わせてあげようじゃない。



 「殿下の求婚、お受けします」



 はっきりそう伝えると、見る見るうちに首まで真っ赤に染め上げていくアルベルト殿下。 何これ、おもしろい。 人ってここまで赤くなれるのね。


 ギュッと私の手を握ってくる。


「う......」

「う?」

「嬉しすぎると......言葉が出てこないものだな」


 いや、笑ってほしいんですけどね? ただOKしただけなのに、そこまで嬉しがってくれるとか......こっちまで恥ずかしくなってくる。


「殿下のピュアさには負けました」

「ピュアって言わないでくれ......」

「いいじゃないですか。 可愛いと思いますよ」

「......僕は君の前では恰好良くいたいんだが?」


 ここまで好かれていたとは。 いや、今の殿下は絶対カッコいいより可愛いですよ。


「私、好き勝手しますよ。 いいんですね?」

「応援するって言っただろう?」

「殿下にも手伝ってもらいますからね?」

「望むところだ」


 やっと殿下がそう言って笑ってくれた。

 よし、言質取りましたからね!


「では手始めに、殿下には漫才とコントを覚えてもらいますから!」

「......待ってくれ? 何か嫌な予感がしてきた」

「何言ってるんですか。 さっき『望むところだ』と言ったばかりじゃないですか」

「いやいや、まずその“おわらいげいにん”というのをちゃんと教えてくれないか?」

「?」

「何で不思議そうな顔をしてるんだ!?」

「前に言ったじゃないですか。 笑われる職業です」

「その意味が分からないんだが!? 実際何を君はするつもりなのかを教えてくれ! この前みたいに振り回されるのはさすがに御免だ!」

「あー、まずは劇場ですね。 それと人員確保も。 いや、ここは養成機関を作るべき?」

「全く聞いてない!? 応援するけど、僕の言葉も聞いてほしい!! そして無視されるのは傷つくから!」


 慌てる殿下をよそに、これからの計画を立てていく。

 あーこれから忙しくなりそう! でもこう色々と考えるのもまた楽しいんだよねー!! やる気漲ってきたー!!


 周りではシルフィーヌや侍女、殿下の護衛騎士たちとフレッド様がクスクスと笑っていた。 ウル君なんか欠伸してからコテっと寝てしまったし。


 殿下は戸惑いつつもどこか嬉しそうに私にツッコんでいて、それを見て私も自然と嬉しくなった。



 その後、アルベルト殿下とは正式に婚約。


 彼はいつも私を嬉しそうに楽しそうに見て、本当に応援して手伝ってくれた。


 そのおかげか、ローゼリア国では大人も子供も笑顔に溢れ、

 お笑い芸人が誰もが知る人気職業になり、


 私自身も楽しく面白く、愛する夫と一緒に笑って(たまに夫婦漫才にも付き合ってくれたりする)、平和に暮らしましたとさ。


 

















 ちなみにゼレン殿下の罰は国どころかこの世界中に知れ渡り、いい教訓になっているとか。

 彼らは泣きながら罰を今でもこなしている。


「殿下......最近、このミニスカートに慣れてきました......」

「そうだね、ディーン......僕もだよ......」

「殿下......今日はデザートつくらしいぜ......」

「それは嬉しいね、エリック......プリンかな? ああ、でも二人は甘いの好きだよね。 僕の分をお食べよ」

「「殿下っ......!!」」


 衛兵さんの報告書によると、ゼレン殿下が少し思いやりを覚えたらしい。


 拍手を贈ろうと思う。



 完結です!

 最初と違い、大分ナディアへのツッコミの方が多くなってしまうという摩訶不思議現象が起きた物語になってしまったことに、作者本人も驚いている状態です。大きく目を瞑ってくださると助かります。

 評価・ブクマ・いいねをつけてくれた方々、本当にありがとうございました!

 かなり励みになりましたし、とてもとても嬉しかったです!

 そして何よりも、拙作を最後までお読み下さったことに心より感謝を申し上げます!

 本当に本当にありがとうございました!

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[良い点] 3バカトリオがボケ要員かと思ったら主人公からしてボケ倒してるのが面白いw [気になる点] 笑い過ぎておなかが痛いwwよじれたはらわたを返してください・・・ [一言] どこを切り取っても笑い…
[一言] 面白かった
[一言] 三バカが最後までブレなくて良かったです!(笑) それにしても父公爵は凄いですね〜 あの包容力!そして娘をよく理解してる! 陛下、宰相、騎士団長は… …ご苦労さまでした(笑) 面白く読ませて戴…
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