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第14話 公爵令嬢からの提案

ナディア視点に戻ります。

 


「ぷふっ......ふっ......」


 えーっと......これどういう状況?

 いきなりアルベルト殿下が笑い始めてしまったんだけど。


 そんなに笑わせるようなこと言った?言った覚えが全くない。


 お笑い芸人になりたいって言ったから?

 いや、これでも私、前世でやってたのよ。全っ然売れなかったけど。


 ゼレン殿下たちに至っては、さっぱり訳が分かりませんという顔をしている。いやもう“お笑い芸人って何?”と顔に書いている。まぁ、この世界に旅芸人はいてもお笑い芸人はいないものね。漫才の概念も分かるまい。


 ああ、でもゼレン殿下はそれどころじゃなさそうね。


「わ......わかった!そ、その“おわらいげいにん”とやらをすればいい!!僕もそれを認めよう!!」


 これ、全く状況分かってないわ。


「ふっ......ナディア......僕は気づいたんだよ。君が言っていたじゃないか、僕の愛は偽物だと。ああ......まさしく君の言うとおりだったんだ!君への愛こそ、本物の愛だったんだ!それに君も僕を愛しているだろう!?今度こそ僕はその愛を受け止めようではないか!!」


 未だに私から愛されていると思えるその頭にあっぱれと称賛を送りたい。こんなに見事な手の平返しをする技術があったとは知らなかったわよ。貫きなさいよ、最初の本物の愛。


「ふっ......僕はなんて愚かだったんだ。そんな貧乏な男爵令嬢の上辺に騙されていた自分が恥ずかしいよ。そうだね。王子の僕に相応しいのはやはり公爵令嬢である君だったんだ。普段は僕の邪魔をして口うるさいとしか思っていなかったが、それが愛情の裏返しと、今気づいた」


 全く好きではないことに気付けと言いたいが、あれだけ泣かせたシルフィーヌにまず謝れ。


 ゼレン殿下がバッと両手を広げた。


「ナディア!僕は君からの愛を全て受け止めよう!!」

「お前が受け止めるのは罰の方だ、この大馬鹿者が!!!」

「へ?」


 再度陛下の一喝に、またもや訳が分からなそうにするゼレン殿下。だから私たちの方が「へ?」なのよ?


 陛下がゼレン殿下たちの周りにいた騎士たちに「その馬鹿者たちを取り押さえろ!」と命令を下し、強制的に腕を取られ、その場に膝をつかされたゼレン殿下たち。「ひっ!!」「やめろ!はなせっ!」とディーン様とエリック様が喚きたてている。


「ち、父上!?何故です!?ぼぼぼ僕はナディアと結婚します!そうすれば僕は王子でしょう!?」

「自分がナディア嬢にしたことを棚に上げ、どうしてそう自分に都合のいいことしか考えれない!?それが不思議で不思議で仕方がないわ!!」

「だだだって母上が言っておりました!!僕は王子だから、何をしても許されると!僕は愛される存在だと!!」

「たわけが!!お前の母親が死んで何年になると思う!?今に至るまでの間、教育係の言葉に耳を貸さず、余の説教を聞き流し、王族としての努力を怠ってきたお前に落ち度があると何故分からぬ!?やり直す機会と、己の身を見つめ直す機会を何度も何度もお前に与えたにも関わらず、お前は今度は死んだ母親のせいにするつもりか!!?」


 いっやー、全く陛下の言うとおり。というかタイミング計ってたわね。条件のこと話さなかったの、スルーしようとしてるでしょ、陛下。まあ、いいんだけどさ。


 あと殿下。ゼレン殿下のお母様が甘やかして育てたのも根本にはあると思うけど、お母様が亡くなってもう7年よ?その間「母上が言っていた」と言って、何も努力をしてこなかったのはゼレン殿下自身だから。今更母親のせいにするのはいただけないわー。陛下たちがあれやこれやとあなたのこと気にかけてたでしょうに。


 心底呆れかえっていたら、陛下がふうと息をついて、目頭を押さえていた。


「せめてもの情けだ。楽に死なせてやる」

「なっ!?ちちち父上!?ぼぼ僕を殺すと言うのですか!?ぼぼ僕は王子です!あなたの息子です!!」

「ああ、そうだな。だからこそ、余の手で楽にさせてやろう」


 スルッと騎士団長が剣を抜き、それを陛下に差し出した。カチャっという剣を受け取った音がやけに響き渡る。誰もが息を呑んだ。


 私と、父以外が。


 こうなることは、分かっていたからね。


「陛下。恐れながら、発言を許しいただけますかな?」

「む?」


 父が一歩前に足を出し、私もスッと父の横に並び立つ。


「......止めるというのか、アーハイム?」

「まあまあ、そんな怒るとまた血圧が上がりますぞ。そもそもこんなところで処刑するつもりで?ここは玉座の間。処刑するところではありませぬ」

「それはそうだが......」

「それに、私の娘が是非伝えたいことがあると」

「ナディア嬢が?」


 一瞬目を丸くし、父の隣にいた私に視線を向けてきた。だからにっこりと笑い返したわ。そう、貴族令嬢としての笑顔をね。


「陛下、恐れながら申し上げます」

「う、うむ」


 スウッと息を吸い込んだ。



「その罰、甘くないですか?」


「「「「「...........................」」」」」



 誰もが無言になっちゃった。これ、ゼレン殿下に言った時もそうだったわね。フレッド様なんてまた窓の外を見始めたわ。アルベルト殿下がまた肩を震わせ始めたけど。


「......アーハイム。そなたの娘がまた変なことを言い始めたぞ?」

「まあまあ。いつもです」


 失敬な。どこが変なのよ。


「陛下、お父様。私、どこも変じゃありませんが?」

「どこがだ!?“おわらいげいにん”とかいう職業でも頭を抱えたのに、今度は死刑が軽いと申すか!?」

「まあ、陛下。私、軽いだなんて申し上げてはいませんわ。死刑は重い罰だと理解しております」

「......甘いと言ったではないか?」


 甘いと重いは別でしょう?文字からして。


「陛下。恐れながら、ただ死刑を与えるのは甘いと申し上げておるのです。殿下が死刑になったことで民たちは満足するのでしょうか?」

「む......こ奴の遺体を晒せと申すか?確かに......こやつの遺体を見て、民たちの憤りが収まるかもしれんが......」


 陛下。考えが残酷だわ。自分の息子の遺体を国民に晒すとか。その呟きを聞いて、ゼレン殿下がさらにガタガタ震えだしたわよ。違う違う。


「陛下。誰も遺体など見たくありませんわ。少なくとも私は罪人の遺体を見て喜ぶ性格ではございません」


 おっそろしい。そんなので喜ぶ人間にはなりたくないわよ。もし自分の家族を殺した犯人とかの遺体でも見たくないわね。ただただ怒りが募ってきそう。


「ナディア嬢の言う“甘い”とはどういう意味だ?」


 さっきまで肩を震わせていたアルベルト殿下が、どこか面白そうに私と陛下の間に入ってきた。甘いの意味?それは前にも言ったと思うけど。


「ゼレン殿下は民たちをバカにし、あまつさえ公爵令嬢の私に謂れのない罪を押し付け、さらには一人の少女に日々恐怖を与えたのです。それで“死んで、はい、さようなら”は到底割に合わないでしょう?」

「割に合わないだと......?」


 陛下が「え、そうか?」という疑問の目を向けてくる。そうです。


「生かして、罪を償うべきです」

「ナディア!!」


 あ、ゼレン殿下が途端に目をキラキラさせてきたわね。何を勘違いしてるのかな?っていうか、ゼレン殿下も忘れてるわね。私、ちゃーんと言ったわよ?



「だって苦しんで苦しんで苦しんでもらわないと、こっちの気が晴れないではありませんか。死ぬまできっちり生き地獄を味わせないと」



 にーっこりとそう口に出したら、ゼレン殿下たちの顔からサーっと血の気が引いていった。ふふ、前にちゃーんとそう言ったでしょ?苦しんで苦しんで生き地獄を見ないと。


「......ではどうしろと言うのだ?」


 陛下が口元を引き攣らせてる。そんな恐る恐る言わなくてもいいのに。何を想像したのかしらねー?


 大丈夫よ。生き地獄とは言っても、ゼレン殿下たちにとってはだし。じゃあ言いますか。



「私が受けた罰、首からバカげた文言を書いた板をぶら下げ、ミニスカートを履き、ワイルドウルフをお供にして、各地の結界石の魔力補填を行うという罰でいかがでしょう?」

「「「は?」」」



 あっれー?何でそんな呆けた顔してるの、みなさん?口をポカンと開けちゃって。何を言うと思ってたのよ?


 でもこれが私が考えた苦しむ罰なのよねー。

 ふっふっ。いいわね。みんなのその予想外の顔。そうでしょう、そうでしょう。そういう反応になるわよね。


 とか少し満足していたら、アルベルト殿下がオホンと咳払いをしている。


「あーナディア嬢?それが罰?」

「ええ」

「それが罰?」

「ええ」

「本当にそれが罰......?」


 何度も確認してくるわね。そうだってば。


「何かおかしなところでも?」

「ありまくりだが?」


 即答された。当たり前だけど。

 オホンと今度は陛下が咳払いした。


「それのどこが甘くない罰だというのだ?」


 仰る通り。ふっ......でも甘いわね、陛下。


 ゼレン殿下に視線を向けると、私の言った罰の言葉を一生懸命考えているような顔をしている。


「ゼレン殿下」

「な、なんだい?」

「あなたは王子様であることを誇りに思っていますか?」


 私の唐突の問いに、殿下がいきなり顔を動かし無理やり前髪を上げていた(今、騎士たちに取り押さえられてるから手を使えないのよね)。


「もちろんさ!僕はこの国の第一王子!みんなに尊敬され崇拝されている!父上は民たちからの評判が悪いとか言っていたが、父上は騙されてるんだ!そう、民たちからの僕は」

「殿下、男であることに誇りを持っておられますか?」


 いまだにそんなことを(のたま)う殿下に拍手を送りたいが、遮って次の質問をしてみると、またきょとんとしてから不敵に笑っている。


「ふっ、そんなの当然じゃないか!!僕ほどスマートに騎士服を着こなす王子もいないだろう!加えてこの長身、整った顔!学園でもキャアキャアと令嬢たちの頬を赤く染まらせて」

「殿下、ワイルドウルフは可愛いですか?」


 実はアルベルト殿下への黄色い声だったのだが、それを自分への声だと変換する能力に称賛しつつまた遮って質問すると、今度は途端にブルブルブルと首を振りだした。


「ななな何を言ってるんだい!?僕の指を嚙みちぎるほど凶悪な魔獣を可愛い!?もう二度と関わりたくないと思うのが普通じゃないか!」


 私の肩に乗っている可愛らしいウル君を見ても、そう怯えられる殿下に心底満足してから陛下たちをまた見ると、これまた呆れるようにゼレン殿下を見つめていた。


 どうです?十分罰になるのでは?


「そんな殿下が首から罪人である証明の板をぶら下げ、男らしいこととは程遠いミニスカートを履き、ワイルドウルフに怯えながら各地を回るのです。屈辱以外の何でもないでしょう?」

「へ?な、ナディア?どういう」

「どうです、陛下?」


 訳が分からなそうにしているゼレン殿下を無視して陛下に聞いてみると、すっごいジト目で見られた。


「......それはただの笑い者になるだけではないか?民たちが納得するとは思えないが......」

「甘いですね、陛下」


 甘い。甘いわ。

 私は知っている。


 私は確かにみんなが笑ってくれる顔が好き。喜んでくれると嬉しくなる。それに生きがいを感じているほど。だからお笑い芸人に憧れた。


 でもね。



「失笑と嘲笑ほど屈辱を味わうものはないのです!!」



 グッと胸の前で握りこぶしを作って、堂々と宣言するとお父様以外の人間が無言になった。


 いやでもそうなんだって!!笑ってほしくて一生懸命ネタを披露するじゃない?体張るじゃない?なのに返ってくるのが「こいつ、バカじゃねえの?」っていう嘲りよ!私が望んでるの「面白~い!」っていう笑顔よ!そんな笑いじゃないのよ!!


 そして思った。前世での小説や乙女ゲームに出てくるバカな王子たち。こいつらに一生嘲笑と失笑を味わせてやりたい、と。


 ふっふっふっ!それがどんなに屈辱で悲しい事か分かる?そんな中死ぬまで生きていくのよ。


 まさに生き地獄!

 ゼレン殿下たちにピッタリ!!


 あ、そうだ。女装が好きな男子が学園にいたわね、そういえば。一回見せてもらったけど、大層美人だった。あれは女の私でも見惚れたもの。


 これはあれね。ミニスカートを着せた殿下に会わせるべきね!絶対悔しがるでしょ!女装でもあなた劣ってますよって、分からせてやろうじゃない!シルフィーヌを怖がらせたんだから、これぐらい許されるよね。あの時の苦労、少しでも晴らさないと気が済まない!


「......アーハイム。またお前の娘がおかしなことを言い始めたぞ」


 何もおかしなことじゃないでしょ!これ以上の罰ないじゃない!!

 内心ムカッときていたら、お父様が隣で笑っていた。


「はっはっ。まあ、いつものことですよ。ですが陛下、こう考えてもいいのではありませんかな?」

「む?」

「ゼレン殿下にその罰を与えることは、反面教師にもなるとも思うのです。娘の言うとおり、これはゼレン殿下たちにとっては屈辱的なことでしょう。それを見た民たちもまた、こうはなりたくないと思うのではないかとも思うのです」

「だが......そんな姿を民たちに見せたら、王族の恥さらしではないか?」

「その処罰を与えたのもまた陛下。民たちの方がずっと賢い。その区別が分からない愚かな民があなたの国民であるはずがないでしょう。現に娘が受けた罰は不当だと声も上がっているのですから」


 お父様の言葉に「むぅ......」と陛下が悩み始めてしまった。そうよねー。いくら貴族と違って学校に通えてないとはいえ、ちゃんと平民たちは常識を知っていると思う。っていうか普通に優しかったし。あ、一段落したら八百屋の女将さんのところに行かなくちゃ。それとマッサージ屋もね。


「それに加え、ゼレン殿下は魔力量だけは多いのです。各地の結界石の補給には持ってこい。それだけでも地方の貴族たちの負担も減りましょう」


 お父様の言うとおりなのよねー。結界石っていうのは村や街に結界を張るために必要なモノ。これのおかげで魔獣たちは襲ってこないのよ。


 この世界ではそれを補給するのも貴族のお仕事。でも常に補給しないといけないそれは貴族の負担にもなっている。そっちの補給ばかりに魔力を使っていたら、いざ魔獣退治になった時に魔力不足で存分に応戦できない。特に小さい町や村のところでは大変なのよ。


「ただただ民たちからは見下され、魔力を補うためだけに生きる。ゼレン殿下にとってもこれ以上の罰はないかと、娘の提案を聞いて私もそう思ったのでございます。もはやそれは奴隷よりも酷い扱いではないかと」


 うんうんとお父様の言葉に頷いていると、陛下はまた半目でジトっと見つめてきた。


 いやだって、ただただ処刑にして“はいさようなら”ってやっぱり納得いかないもの。このバカ王子に振り回されてきたのよ?最初はこのバカっぷりを育て上げて、私のお笑い劇場の人気お笑い芸人にしようとも思ったけど無理。ただただ周りを見下すゼレン殿下に他人を「おもしろーい」と言わせることは出来ないわね。


 だったら、少しでも利用すべきでしょ。せっかく豊富な魔力量だけはあるんだから。その命、自分が見下した平民のために使うべきじゃん。


 そしていっぱい失笑と嘲笑を受けるがいいわ!ゼレン殿下みたいなナルシストでプライドの塊には持ってこいの罰!!絶対屈辱塗れ間違いなし!!


「陛下。ゼレン殿下がこの罰を受け入れるなら、我がアーハイム家も娘に対しての王家の振る舞いにこれ以上何も申しませぬ」

「よく言う......ただそなたは面白がっているだけではないか」

「娘と同じで面白い事が好きなのですよ。私によく似たのでしょうなぁ。はっはっ」


 おかしそうに笑うお父様を恨めし気に陛下が見ていた。昔からお父様とお母様は私が何やるにしても許してくれてたのよねぇ。「怪我だけはしないようにね」としか言われてないし。本当、私恵まれてるわー。感謝してますとも。


 ゆっくりと陛下がゼレン殿下を、そして宰相や王妃様をグルリと見渡していた。王妃様が困ったように笑っていた。


 これ、あれだ。折れた。

 やったね!


 その後、深い深い溜め息をついた陛下がゼレン殿下への罰を言い渡し、その場にいる全員が膝をついた。



 ゼレン殿下含めディーン様とエリック様だけは状況についていけず、「父上!お許しになってくださったのですね!」なーんてバカげたことを言っていたのに、その場にいる全員がまたまた深い溜息を吐いたのは言うまでもない。



お読み下さり、ありがとうございます。

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[一言] 笑いものにするのが甘いと言うなら、達磨にして補給のためだけに一生涯飼うというのもあるけど。 これやると厳しいバツにはなるけど、同時に国や王家の格が下がるからなぁ。
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