魔法
裕二は今、魔物を探しに森の中を歩いていた。
「ところでこの魔力ってどうやって使うんだろうな?そもそも俺魔力使えるのか?」
現代人にとって魔力は物語上の存在。今まで見たことも感じたことも無いものを使おうと思っても中々できることじゃない。
「はっ!ふっーー!やああああぁ」
変な掛け声と共に先程渡されたギルドカードに気のようなものを送るが、カードはビクともしない。それどころかよくわからん力を懸命に込めたせいで少し疲れてしまった。
「ギャウォン!」
休憩に地べたで座ってしまっていた裕二の前にヒョウ柄の小動物が茂みから飛び出してきた。
「ギャギュルギュル」
こちらを伺っているようだ。ヒョウ柄の動物はこちらを見て牽制しているようで、歯を剥き出しにしていた。特にモンスターっぽさはないけど、普通に肉食獣っぽい見た目の動物で裕二は内心焦っていた。
「ん?」
今目の前にしている小動物は「ピキャー」という奇声を上げている。怖いには怖いが俺はそれよりもこの物体の周りを囲むようにしてあるオーラのようなものが気になった。
よく目を凝らして見ないとわからない程の薄い膜がこのヒョウ柄の小動物にまとわりついていた。
ヒョウ柄の小動物は口を大きく開けると、魔法陣のようなものを口内で出現させ、英語文字が魔法陣の周りを1週ぐるりと回ると次の瞬間、「ピキーーン!!」といった爆音なヒョウ柄の小動物の口から発せられた。
「うがっ、!」
耳は当然のごとく鳴り響き、両方の耳から血が流れ出た。
「**@###!!」
自分が声を発していても何も聞こえない。この爆音のせいで耳が破裂したのかもしれない。勿論、これを発生させたのはこの小動物。怖くて逃げようとするも、突然の動物の奇声爆弾によって驚き、俺は後ろに倒れた。
逃げなければ
わかってはいてもいざとなれば逃げれないこの状況に舌打ちをしつつも徐々にだが腕を必死に動かすことによって後ろに少し下がれていた。しかし、この小動物に殺される未来は確定されたようなもの。
恐怖で押しつぶされそうになった時、それは起こった。
「助けてくれえ゛ーーー!!!!」
ブゥウオオオオン゛
「ギギャッ、、」
助けを求めて叫んだ一言が音の並となってヒョウ柄の小動物を襲った。俺の口からは一瞬、紫色に発光された。何が起こったのかわからないと思って唖然としていたが、どうやら小動物の方も同じようだったみたいだ。目を見開いたまま体の動きを止め、裕二がその体を触ろうとした瞬間、その体が灰になっても消滅し、綺麗輝く石へと変化した。
【レベルが上がりました】
「え、な、なに??」
急に俺の口から爆音が発せられたかと思うとこちらへ襲いかかっていたヒョウ柄の小動物はなんの外傷も無く絶滅してしまった。
今まで感じたことのなかった第六感のようなものな身体中を巡っている気がする。体の奥底には小さな壺ともいえる力のような"何か"を感じ取ることができた。
「これが魔力、か。これをギルドカードに流せば、ステータスが見えるはず」
ふと冒険者ギルドで受付嬢に教えて貰ったことを思い出し、ギルドカードに手を当てる。覚えたばかりの魔力という第六感を使い、体を伝って手にこの力を流し込む。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
名前:小林 裕二
歳:13
力:4
魔力:3
スキル:無し
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ギルドカードは言わばスマホのような形で利用することができ、裏面から薄い光が発光し次々と俺のステータスの内容が表示されていく。
「いや、よわ、なにこれ」
どんなゲームでもどんな物語でも異世界ものの主人公というのは必ずといって良いほど、高ステータスというのがテンプレ。にもかかわらず、俺のステータスは誰がどう見ても弱そうだ。
「まあ、こんなもんだよな現実なんて」
まだ俺が主人公であるとは決まっていない。そもそもこの世界において俺は差程特別ではなく、多くの人間が異世界から転移されてきている可能性がある。そして、転移した際に神から特別な能力を与えられるとかいうどこぞの物語のようなイベントも起こらない。元の世界でも異世界でも神様は平等のようだ。
俺はあまり気を落とさないように自分に言い聞かせ、再び森の中を探索することにした。
「魔力は言わば第6の力。これでさっきのような魔法陣を生成することができるっていうのはわかるが、なんで魔法陣は円形なんだ?四角の方が見やすくないか?」
歩きながら先程のヒョウ柄の小動物が放った魔法陣のことを思い返す。魔法陣の中で流れていた文字は明らかにプログラム。動物が文字を扱うなんて馬鹿げているとはおもうけど、実際に発動できていたのだから動物にも文字を読む程度の知能があるってことなのかな?魔法陣は外側の円で文字列が流れていき、円の枠に収まらなかったものは中央に折り返して流れていた。
元プログラマーであるが故に魔法陣の2つの円に流れるように表示されていった文字列はプログラムであることは瞬時に理解できた。あとは内容を把握したいところだけれども、あんな瞬時に文字列を全て記憶するなんてことはできない。考えても無駄だと思い、一旦街へ戻ることにした。次にモンスターが襲ってきてもさっきと同じように魔法が発動するとは限らないのだ。
裕二は街へ戻ると、通行人に本屋は無いかと聞き教えて貰った。本屋に到着すると扉を開いた。中からは紫色の靄が溢れだし、これを呼吸と共に吸った俺は深い眠りについた。