ギルド登録
「ここどう考えても異世界だよな」
どうやら俺は異世界に転移されてしまったらしい。周り一帯、草原が広がっており遠く離れた場所には建物がちらほらと建てられているのが見える。きっとあそこに行けば何かが分かるかもしれない。
俺はスキップ交じりに街へ向かった。脳内ではあまりの嬉しさにアドレナリンが溢れだしそうだった。
来世は子供の頃からプログラミングに出会いますように。
大学の時からプログラミングを学習した裕二にとって、大人になってからより早く成果を出せるようにと死ぬ直前に願った思いはどこへやらと消し飛んでいた。
異世界ものの小説にハマった時から思い描いていたモンスターや対人との戦闘ができるかもしれない。頭で考える必要がなく、筋肉だけで物事を決めて上からの圧力に気にすることなく暴れられるかもしれない。裕二の思い描いていた夢物語はこの世界では手に入れられるのかもしれない。
「わくわくするな~」
元の世界では体力が平均より無かった俺は何故かこの時、あまり疲れることなく遠くに見えていた街まで差程疲れることなく到着することができた。
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「頼もう!!」
俺は扉を開け、建物へ入った。ここは冒険者ギルド。街に着いてから通行人に教えて貰い、無事ここまでたどり着くことができた。異世界とは言っても皆、話す言語は日本語のようだったようで助かった。もし新たに言語を学ばなければならないとなっていたら絶望していたに違いない。しかし、最悪のシナリオは避けられたようである。
「あん??」
勢いよく扉を押したことにより、ギルド内の人達が裕二にに注目した。
「え」
予想以上に注目されていることに俺は若干恥ずかしさと気まずさを浮かべながら真正面に設置されたカウンターへ歩いた。
「ぼ、冒険者登録がしたいです」
周りの視線はまだ俺の方に向いている。
冒険者登録は珍しいのだろうかと思ったが、ドアを勢いよく開けてしまったことによるものなのかも知れないのでよくわからない。とりあえずは視線は無視することにした。じゃないとギルドの出口へ向かって逃げ帰ってしまう気がした。
「冒険者登録ですね。登録料が必要になりますが、大丈夫ですか?」
カウンターの後ろで立っている受付に冒険者に登録したい旨を伝えると、どうやら登録料が必要だったらしい。
「え、お金いるんですか?」
当然のことだと言わんばかりに受付の女の人はコクコクと頷いたが、俺は金銭を持っていない。もしかしたらと服のポケットの中を探るが運良くお金が入っているなんていうことは無かった。
「もし初期登録料が支払えないのであれば、後から請求といった形も可能ですよ?貸付になりますが、元の価格に10パーセントを上乗せした状態でのスタートとなります。なので元が銀貨10枚で上乗せにより11枚の借金ということになります。」
どうやら後から払えるということなので、「それでいいです」と受付に伝えると一旦裏へ入り戻ってきた時には紙を1枚渡されてサインするように言われた。
「これでいいですか?」
用紙には契約書と書かれており、名前に年齢、住所を記載する場所か用意されていたが、俺は名前だけを書いてそれ以外は空欄のままにしておいた。
何歳?と聞かれれば元の年齢である24歳と応えるのが普通なのだろうけれども、書かなかったのには理由がある。
まず、体力が有り余っていること。
最初は興奮しているため疲れを感じていないのだと思っていたが、明らかに普段運動を行っていないデスクワークの人間が出すことの出来ない速さで街まで移動することができた。
次に身長。受付のテーブルの位置が結構高く感じる。周りに立っている冒険者と思われる人達の胸あたりまでの身長しか無いことに恐らく自分が子供になっていることはほぼ確実と言っていいだろう。
よって、俺は今自分が何歳であるかがわからない。だから空欄。自分でもわからないものは書きようがない。
あとは住所の欄。これも家など当然無い俺にとっては書きようのない項目だ。だから案外やることがなく俺は受付嬢に紙を渡されて直ぐに返した。
「名前はユウジ。年齢はわからないってことでいいのかしら?住所も無しと」
日本であれば相当に不審がられる、というより登録することは絶対にできないであろう内容だが、受付嬢は特に疑問に思う素振りを見せることもなく空欄に八の字にをつけていった。思っていた通り、ここは異世界なだけあって孤児や浮浪者のよう年齢と住所が不明であったり、そうでなくとも国に登録しておらず住所が無い者も冒険者として登録でこきているのかもしれない。異世界に来たばかりのこの世界での過去が無くとも冒険者になる事は可能だったようで俺はほっと胸を撫で下ろす。
「では最後にこのギルドカードをお渡ししますね。ステータスを見る際は魔力を流せば見ることができますよ!」
「ま、魔力」
「はい!」
にっこりと笑顔を向けてくる受付嬢はもう冒険者の登録は終わったのだともう離れてもいいぞといった雰囲気で俺を見つめていた。
「ありがとうございます」
俺は逃げるようにしてギルドを後にして、街を出た。今思えばクエスト、依頼といったものを受けなければならなかったと思い出すが、今更戻っていくのは少し気まずい気がした。よくわからないけど、あの時はそういう雰囲気だったし今日は仕方がないだろう。とりあえずはモンスターを狩ってみたい。
俺はモンスターが居ないかふらふらと歩き回っていたが、どこにもモンスターはいなかった。というより、ここは草原。大きな木やモンスターが隠れられそうな場所はどこにも無かった。木の生い茂る森が少し先にありそこにはモンスターは現れそうと、勝手な想像と自分の勘を頼りに森へ踏み入ると奥へ進んで行った。