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閑話(4)小人たちとのティーブレイク

ぼちぼち更新です。

 

 閑話(4)小人たちとのティーブレイク



『――美味しくなかったのかな…』

『おいら達が淹れたのが、やっぱり気に入らなかったんじゃ』


 おじいさんの話を聞いていた時、ふと聞こえてきた声の方にミリアは顔を向けた。するといつの間にか小人たちがテーブルの端によじ登って、自分たちが用意したお茶の行方を気になるのか、しきりに(ささや)きあっていた。どうやら、カップに残るお茶を気にしているようだ。



「いえ、違うの! とても美味しかったわ。お話に夢中になって、せっかくのお茶が冷えちゃったわね、ごめんなさい」


 ミリアは小さな彼らが見た目ほど怖くないともう知っているので、ブラウニー達の心配そうな顔を見て慌ててカップに残ったお茶をごくりと飲み干した。実際に、冷めているが十分美味しいお茶である。


「ごちそうさま。こちらも頂いていいかしら?」


『ど、どうぞ』

『おい、全部飲んでくれたぞ!』

『お菓子も、美味しいって言ってくれるかなぁ』


(食べる前に言われると、食べづらい…!)


 小さな人たちの事をなるべく意識しすぎないように、ミリアは焼き菓子を口にいれた。一口サイズで食べやすい大きさだ。少し硬めに焼きしめてある素朴な味の菓子で、木の実の食感が心地よく香ばしい。お世辞抜きにとても美味しかった。


「美味しい…! すごく美味しいわ。どうもありがとう」


 ミリアはにっこり笑って小さな彼らに心からのお礼を伝えた。途端に彼らは動きを止めた。


(またっ!? 今度は何?)


 表情に出さないようにしたが、ミリアは内心ドキドキだ。なにせ、妖精との付き合い方など、誰にも教わっていない。


 小さな彼らは、しばらく固まった後、今度は逃げずにその場で一斉に小躍りし始めた。ミリアは耐え切れずに大きな瞳を見開いた。



『やった、やった! またお礼言ってくれた!』

『褒めてくれた!』

『美味しいって! すごく美味しいって!』


 突然の動きに驚きはしたが、聞こえてくる声は喜びの雄たけびで、すぐにミリアは肩の力を抜いて、目尻を下げた。


「可愛い…」


 ぽろりと口から出た呟きは、思わず(こぼ)れ落ちた本心だ。見た目こそ強面だが、その言動や素直な心根はとても微笑ましくて、そんな彼らを知った後では、かぎっ鼻ですらチャーミングポイントに見えてくるから、不思議だ。


 ひとしきり大騒ぎした後、小さな彼らは一列に並んだ。



「どうしたのかしら」


 急にまた統制のとれた動きをする彼らに、ミリアはその動向を見守っている。テーブルの上に一列に並んだ彼らの先頭に居た、少し年上っぽい一人が一歩前に出た。



『綺麗な娘さん。お名前を聞いてもいいですか』


 ミリアは口を開こうとして、ちらっとおじいさんに視線を向ける。すると目があったおじいさんが、ゆっくりと頷くのを見て、もう一度小さな彼らをしっかり見つめて口を開いた。


 精霊によっては迂闊(うかつ)に名を知られると、彼らに支配される場合もあると聞いた。目の前の彼らから危険なにおいはこれっぽっちもしない。何より、アッシュに警戒心のかけらもないのが何よりの証拠だ。



「私はミリアよ。よろしくね」


 そうして右手の人差し指をそっと差し出した。その指先を小さな小さな両手できゅっと掴んで、はにかんだ笑顔を見せた。


(か、可愛いすぎるわっ…!)


 ミリアの顔が見るからにデレデレになっていると、一列に並んでいた残りの小人たちも一斉にミリアに突進してきた。



『おいら、ベンって言うの! ミリア、よろしくね!』

『あー、ベン、先にずるい! おいらはキアだよ!』

『お、おいらはその、…ディルっていうの。えーっと、お世話頑張るから!』


 思い思いに口を開くものだから、ミリアは返事をしようにも追いつかない。小さな彼らだが十人近く群がってきたら、そこそこ重い。


「ふふっ、くすぐったい」


 その内、興味が出てきたのか、ミリアの膝に顎を乗せてくつろぐ、アッシュを指さして一人が声をあげた。


『このでっかいのは、ミリアの子分?』

「こ、子分!? 違うわ、大切な私の友達、アッシュよ。悪いことしなければ怖くないから、アッシュとも仲良くしてくれる?」


 ミリアがアッシュの頭を撫でながら言うと、アッシュがちらっと小さい彼らを見た。そのまま彼らをじっと見つめてしばらく動きを止めると、おもむろに顎をテーブルにぽてりと乗せた。


『わー! 乗っていいって!』

『おいらも、おいらも!』

『待って、置いていかないでおくれよ!』


 どうやらアッシュは、彼らと意思疎通ができるようだ。あっという間にミリアからアッシュに興味が移った彼らは、わらわらとアッシュの頭を橋代わりにして大きな体を攻略し始める。そのまま長い毛の海に潜ったり、耳に捕まってぶら下がったり、やりたい放題だ。


(け、結構、やんちゃだわ。嫌がってないみたいだけど、アッシュにしたら小鳥が止まってるくらいの感覚かしら?)


 アッシュは彼らを気に止めることなく、皆が渡り切るとまたミリアの膝にあごをのせ、目を瞑ってしまった。アッシュの太っ腹な態度に感心する。


「アッシュったら、まるで大きなお兄ちゃんみたいね」


 ミリアの言葉にちらりと瞼を持ち上げるが、すぐにまた目を閉じて身体を揺すった。その動きに小人が数人転げ落ちたが、落ちた先で大喜びしている。遊びの一環のようだ。ミリアはそんな彼らの様子を見て、小さく笑った。


 それ以来すっかりアッシュを気に入った小人たちは、ミリアにお茶を出した後はアッシュと遊んでから帰る謎のルーティンが出来上がっていた。


 中でも一番体の小さなディルという小人は、特にアッシュに懐いていた。長い毛並みに潜った後は、アッシュの顔の横に座ってこしょこしょと話をしたり、小さな体で一生懸命アッシュの毛を梳いたり、ある時は爪の手入れまでしていた。その間アッシュは嫌がる事もなく、おとなしくされるがままになっているのだ。


(悪意がないのがわかるからね、きっと)


 総じて小人たちはみな、一生懸命お世話をしてくれるし、遊ぶときも全力だ。元の世界へ戻る時は彼らともお別れだと思うと、寂しく思いつつも、ミリアは今日も美味しいお茶を飲むのだった。




読んでいただいてありがとうございます。

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