表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/67

皇帝の異母弟


 (54)皇帝の異母弟


 キリアンは苛立っていた。ようやく母親の母国と連携が取れて、いざ動き出そうとした矢先、肝心の母親の情緒が安定せず、まともに会話ができない状態が続いている。


 そもそも母親が『静養』と称して北の元離宮へ行ってからは、真綿で首を絞められるように、徐々に物事が思い通りにならなくなった。理由はわかりきっている。皇帝になった義兄が目を光らせるようになり、それまでのような自由気ままな生活ができなくなったからだ。


 つまみ食いし放題だった女共はガードが固くなり、財源を気にせず購入できていた品々は、監視の目が厳しくなり、おいそれと購入許可が出なくなった。


 とどのつまり、好き勝手に出来ていたのは母親の権力下だったからなのだが、キリアンには自分自身が軽んじられていると受け取った。私物だったはずの高価な宝飾品や美術品は、いつの間にか国の管理下に置かれていた。そのことに腹を立て、管財人に詰め寄ると返ってきた言葉はこうだ。



『国庫から支払われた物品は国の財産です。キリアン様の私物ではありません』


 皇族には国から潤沢な支度金が支給されるが、それがいくらあるのかキリアンは確認したことはない。欲しいと思った物はすべて手にできたからだ。入手困難な品であろうと、値が張ろうと、『欲しい』と母親に言いさえすれば、数日後には自分の手の中に落ちてきた。その事になんの疑問も抱かなかった。



 そのすべてが変わったのは、十年前のあの日だ。キリアンはその日、私的な屋敷で気に入りの女共を侍らせ享楽的な夜を過ごしていた。成人前の彼はおおっぴらに夜遊びができなかったので、皇城から程近い場所に自分だけの城を作らせていた。


 その小さな屋敷の中では彼こそが法であり、すべてを思いのままにできた。年々小うるさくなる母親に『市民の生活を体感して将来の糧にする』と心にもないことを説いて手にいれたキリアンの城だ。そこで過ごす最後の夜になるなど思いもせずに、彼は一晩中遊び明かした。


 夜がすっかり明けてから、鈍い頭のまま皇城へ戻ると、そこは一変していた。



 父である皇帝は捕縛され、頼りにしていた宰相も投獄されていた。さらに皇城内には物々しい雰囲気に包まれ、母親とは一度も顔を合わすことなく『静養』に向かったと聞かされた。


 キリアン自身は、自室へ事実上の軟禁状態になり、ひと月あまりも自由に部屋から出ることもできなかった。彼が外出を許可されたころには、何かと便宜を図ってくれた宰相はすでに処刑され、主だった有力貴族らは罪人となっていた。



 彼にとっては青天の霹靂だった、十年前の皇国を揺るがす大事件。当時皇子だった義兄、ヒューバードが起こした革命である。愚かにも歪んだ今の生活がこの先も永遠に続くと、信じて疑わなかったキリアンにとっては、まさに寝耳に水である。


 そんな彼が怒りの矛先を向けたのは、義兄と騒動の中心人物とされた実母キーラだ。



『僕が不自由な思いをすることになったのも、うまく立ち回らなかった母上のせいだ。ヒューこそ、諸悪の根源に過ぎない!』


 このように喚き散らしては、使用人に当たり散らしていたが、一年ほどするとようやく現状を受け入れたのか、また自堕落な生活を送り始めたのだった。


 一歳違いの義兄は物心ついたときから、彼の眼の上のたんこぶだった。何をするにも比べられ、すべてにおいて優秀な義兄は数歩先にいた。キリアンには義兄の存在全てが疎ましかった。



『皇帝なんて血生臭いやり取りで手にした皇位じゃないか。僕の方が正統だ』


 己に義兄よりも優っている点は、曲がりなりにも王女だった母の血だ。それも周りに言われてようやく気が付いた事だ。正妃だったヒューバードの母は、皇国内の有力貴族の娘だ。元より純血主義寄りの思考だったキリアンは、その事実に陶酔していった。


 もはや彼に着いている有力貴族はほとんどいない。表面的には従うように見せているものの、本心では見限っている貴族が大半だ。それもすべて己の行動に起因しているのだが、幼い頃より自分を特別視する癖がついたキリアンには、己の行動を顧みることができなかった。



『まずは頭のおかしいあの女をなんとかして、勅命を書かせる。その後、密かに軍隊を引き入れる。あいつが居ない今がねらい目だ』


 キリアンはブツブツ呟きながら、皇城の人気のない廊下を歩いていった。その後ろ姿を複数の目が追っていたことなど、まったく気づかないままに。




読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ