-第二章- 亡国 ニーナ
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- 第二章 -
(45)亡国・ニーナ
広いタルンギ皇国の南東の端、国境を兼ねる山脈を超え、さらに熱砂の砂漠を渡った先に、かつて美しい国があった。ニーナ王国である。数多の神々をあがめ、自然を愛し、平和を愛し、石と暮らした国だった。
ニーナ王国は立地的な問題もあり、人々の暮らしはおろか、王家についてもその多くは謎に包まれていた。小さな王国は自然の要塞に守られ、昔ながらの生活を営み、他国との交流はほとんどなかった。一応隣国にあたるタルンギ皇国ですら、ニーナ国との交流の記録は数えるほどだ。
かの王国は石を加工する技術が極めて高く、砂漠を渡るすべを持つ少数民族によって、わずかに運ばれるニーナ国の石は、高額で取引された。石の他に、ニーナ国で作られる物には、そのほとんどに用途に応じた加護が付与されており、現在の高位魔術師が施す魔力付与より精度が高かったという。そちらも希少価値が高かったが、国外に持ち出される品は極わずかで、ニーナ製品に出合う事自体が奇跡だと言われていた。
そんな謎多き王国が、滅亡したのは今から三十五年前。小さな国は王都の他に大きな町はなく、王都陥落はわずか三日三晩の出来事だった。
侵略者は闇に紛れて王都へ侵入を果たすと、まっすぐ王城へ向かう道すがら、寝静まった家に次々と火を放った。王都は瞬く間に炎に包まれ、罪無き人々を家ごと焼き殺した。
異変を知らせる一報が王城にもたらされたときには、王都はすでに火の海だった。ニーナ国王は、己の命と引き換えに全面降伏することを決意し、これ以上の被害を食い止めるべく、家臣の反対を押し切り、侵略者に交渉の場を求めた。
そんな王を侵略者は、交渉の席で王の提案を一笑に付すとためらいなく王の首を刎ねた。話し合いの場はその瞬間から、惨劇と化した。
侵略者たちは一切の温情を見せず、半狂乱で王の躯に縋る王妃や、剣を抜いて抗おうとした王太子や側近、別部屋に隠れていた年端のいかぬ王女や王子に至るまで、その首を切って回った。王城の兵士の捨て身の警護も圧倒的戦力の差に、ほとんどがその場で討死した。
それもそのはず。昔ながらの暮らしをしていた王国の武器や防具は、旧時代の物。平和を愛するお国柄が仇となり、お家芸ともいえた加護も武器へは施されていなかったのだ。さらに小国ゆえ、全兵士をかき集めたとしても、侵略者たちの半数にも満たなかった。
王族の亡骸は王城前広場にさらされ、残った家臣や兵士は王城内に留め置かれたまま、城に火を放たれた。生き残った国民は、燃え盛る王城を見て、王国の滅亡を否応なしに知ることになった。
その後、王の死を嘆き殉死する者、侵略者に捕らわれていく者など、様々であったが、侵略者たちの目的はニーナ国の持つ高い技術力から生み出される宝の品であり、一部の技術者以外、いかなる助命も残留も認めることはなかった。わずかに生き残った民は国を捨て、散り散りに流浪の民となるしかなかった。
だが、侵略者たちは致命的なミスを犯していた。ニーナ国独自の高度な技術は、自然を愛し土地を慈しむ彼らにもたらされたものであって、自然や神々を崇める対価として与えられた特別な力だった。美しい国土を焼き払った時点でその恩恵は失われてしまっていたのだ。
欲した技術を手にすることができなかった侵略者たちは、すっかり痩せた土地に様変わりした元ニーナ国を数年で見限り、住む人のいなくなったかつての美しい国土は、やがて砂漠に取り込まれ、完全に地図から姿を消した。
「――とまぁ、これが俺のじいさんから聞いたかの国の末路さ。王国生き残りから直接聞いた話だって。結局、彼らの持っていた石の加工技術も、加護付与の力も、永遠に失われたって訳だ。馬鹿だよな、リムラックの奴らもさ」
「しっ、声が大きい。一応、襲撃者の黒幕は不明って事になってるだろ、滅多な事を口にしない方がいい」
「悪い悪い。でも口にしないだけで、皆知ってるさ。独り占めしようと欲を出して、二度と手に入らなくしちまったんだから、ほんと悪いことは出来ないって今では良い教訓だよ」
「…そうだな。それにしても、聞いていた話よりずっと酷いな。よくそんなむごいことが出来たもんだ」
「ほんとにな。でもリム…あの国もその後、大きな災害に見舞われて、多くの国民が餓死か浮浪者になったらしいじゃないか」
「あー、それは俺も聞いた。国民に罪はないのにな。しかも、その損害を他国から補おうと戦争ふっかけてるって」
「そうそう、それであの国は今も年がら年中戦争だ。働き手が戦争に駆り出されるから、町には老人と女子供しかいないって」
「それは…、もうあの国ダメじゃないか? 直接の取引先にはないけど、影響が出そうだな。あそこもヒューバード様みたいな王様だったら、もっと違う国になってたのかな」
「うちの皇帝陛下みたいなお方が、そう何人もいる訳ないよ!」
「そりゃそうか」
男二人は紫煙をくゆらせながら、荷馬車の横で町の向こうにそびえたつ山脈に目を向ける。亡国があった場所は、ここから山を越えた向こう、砂漠を渡った先にあった。
「それにしても、ニーナは砂漠を渡った先に突然現れる、オアシスのような美しい国だったって。じいさんが子供の頃、一度だけあの国に行ったって自慢してた。ま、砂漠で死にかけたらしいけど。俺も見てみたかったなぁ」
「そうだなぁ」
この小さな町が、かつての王国へ渡る玄関口だったのは遠い昔の話である。
ぼちぼち更新ですが、続けて参ります!よろしくお願いいたします。




