再会
(43)再会
(大変なことになったわ)
この一大事を引き起こした張本人エリンは、今もふわふわと浮かんでご機嫌そうにしているが、ミリアはアッシュの首に腕を回して縋りついていた。とにかく、アッシュと離れてはダメだと本能に従った行動だ。少々他力本願なのはご愛敬である。
ミリアは深い息を心掛けながら、辺りの様子を伺う。否が応でも上がった心拍数はまだ落ち着く気配がない。何しろ、エリンが得意気に指を鳴らした途端、屋外から一転、見たことのない建物の中に移動していたのだ。
「ようこそ我が家へ!」
「……エリンのおうち…?」
小さな体なのに、彼が我が家と呼んだこの場所は、人間が過ごしても十分すぎる広さがあり、調度品も小さな彼のサイズとはまるで合っていない。常に宙に浮かんでいる彼が家具を使う必要がないからとも、考えられないこともないが、仮にそうであるならそもそも家具など置く必要がない。
今いる部屋一つでも、森で過ごしたあの小さな家がすっぽり入りそうな広さである。ぶしつけにもきょろきょろと部屋を見渡していたミリアは、ふとエリンの向こうに目をむけたまま、動きを止めた。小さなエリンの後ろに、一人の男性が立っていた。
ミリアは、その人物に視線を止めたまま、縋り付いていたアッシュから手を離して、ゆっくりと立ち上がった。大きな目をさらに見開いて、小さな口はぽかんと開いている。
「ミリアかい…?」
小さなバリトンの声が彼女の耳に届いた。ひどく懐かしく、優しい低いこの声を、彼女は良く知っていた。口に当てた指先が小さく震えている。エリンの向こうに立っている人物をミリアが忘れるはずがない。
「………まさか」
「おぉ、確かにミリアだ。良かった、ちゃんと人間になれたんじゃの。ほら、よく顔をみせておくれ」
「お、おじいさん…?」
「あぁ、そうだよ。ミリア、元気そうで良かった」
立ち尽くしたまま一歩も動かないミリアの背中を、アッシュが鼻先でずいっと押した。押されるまま、ふらりとミリアが足を動かしておじいさんの数歩前で再び足を止めた。ミリアよりこぶし二つ分ほど目線が上で、記憶にある彼の姿と変わりがない。
「私は元気…よ? そうじゃなくて、おじいさんなの? 本当に?」
「わしじゃよ。ミリアには、怖い思いをさせてすまなかったなぁ…」
「あぁ、……おじいさんっ!」
たまらずミリアはおじいさんの腕の中に飛び込んだ。彼はミリアを優しく迎え入れると、腕を背中に回してぎゅっと抱きしめた。
「良かったぁ、おじいさん生きていたのね! ……わたし、私っ、おじいさんが倒れた時、何もできなくて…ごめんなさいっ」
「あっちの、人間の世界ではちゃんと死んでるよ~」
そう答えたのは、エリンだった。その言葉にミリアは慌てて振り返った。
「え。ど、どういうことなの?」
「ミリア、落ち着いて。わしなら大丈夫じゃから、ゆっくりあっちで話そう」
「え、ええ…」
おじいさんに促されて、近くの椅子に腰を下ろした。どうにも落ち着かず椅子に浅く腰かけると、その足元にアッシュが足をそろえて座った。
「それで、おじいさんは、……その、い、生きているのよね?」
「この世界では、な。エリンの言うとおり、あの時わしは元の世界で確かに人生を終えておるよ。その後、新たな生をこの世界でもらったと言うのが、わかりやすいかの」
「そそ、じいさんの功績を称えて特別ご招待~! って訳」
自分自身のことを忘れて、ミリアは『そんな不思議なことがあるのね…』と素直に驚いた。
「ミリア、それよりしっかり顔を見せておくれ。……あぁ、やっぱり綺麗な瞳だ。前より輝きが強くなった気がするなぁ」
向かい側に座ったおじいさんは、ミリアの胸元に視線を向けた。
「その石は、あの彼にもらったのかい?」
すかさずエリンが口をはさんでくる。
「いい石だよね! まだあっちにこんなのがあったのはびっくりだけど」
「そうだな。まさかミリアが持っているとはな。……懐かしい細工じゃ。加護もまだ生きているようだしの」
二人はミリアの答えを待たずに彼女の胸元で光る小さな石に少し興奮ぎみだ。
「加護…? さっきも言っていたけど、この石は何か特別なの? あ、でも、これはもらったわけではなくて、彼から預かっているだけよ。失くすといけないからって」
そうミリアが言うと、おじいさんは目を丸くした後、肩を揺らして笑った。
「そうかそうか、なんだかわしの若いころを思い出すのぉ。いやぁ、若いのぉ。わしもあと三十、いや四十若ければのぉ。……それで、ミリアはその彼のところに『帰りたい』のかね?」
「そう! 帰らなきゃ。心配しているわ、きっと」
それでもさきほどのエリンの言葉の示す意味の方が気になった。
「あの、それで私はどうしてここへ呼ばれたのかしら」
石談義をしていた二人は、ミリアの声に顔をこちらへ向けた。
頑張って書きます。読んでくれてありがとうございます。




