禁書
(40)禁書
「……いつもながら、耳が早いことで。じゃあ、ミリアちゃんの説明も必要ないですよね」
「うん、必要ないよ。人形から人間になって、さらに精霊に連れていかれるなんて、中々出来ない体験だよね」
本の背表紙を指先でたどりながら、さらりと言うオーエンにヒューバードは笑顔のまま頬をひきつらせた。
「絶対に敵に回したくない人だな…」
「妻子に関わる事で僕が知らないなんて、あり得ないだろ?」
「………いや、あり得るだろ…普通は」
ヒューバードはあからさまに嫌悪感を滲ませ、ダグラスは呆れを通り越して真顔である。そんな二人に二コリと笑うと、オーエンは楽しそうに話をつづけた。
「ここは僕の宮から直接来られるから、書庫番が帰った後よく利用しているんだ。禁書本なら、僕かなり詳しいよ。――あ、これかな?」
オーエンにかかると、もはや鍵の意味などどこにもない。とにもかくにも、彼の登場ですぐに目的の本が見つかった。机に移動し、ぱらぱらと紙をめくっていき、あるページで指を止めた。
「あ、ここだ。妖精の国と人間の国の行き来についての記述だよ」
四つの頭が小さな本を一緒に覗き込んだ。
「…確かに、条件が書いてある…」
「なになに、あちらの世界と繋がりやすい日…? うーん、どれも微妙にずれてるな。あとは? 時間帯か」
「陽が暮れた直後ってのは、当てはまる」
「そうか。でも、それくらいしか当てはまってないよね? そんな瞬間、毎日あるんじゃない?」
「……でも、ミリア達は実際に消えた」
「あ、あとやっぱり妖精たちの力が必要って書いてあるな。ミリアちゃんって実は妖精なんじゃない?」
「いや…、ただの人間にしか見えなかったが」
「そういや、妖精って性別がないって別の本で読んだことがある。じゃあ、実は服を脱いだら、男でも女でもなかった! とか?」
「それはない。確実に女だった」
「………ダグラス? 君がそう断言できるのは、どうしてかな?」
「父さんに正直に話してごらん。君はミリアちゃんに何を、どこまで、したんだい? ん?」
二人の表情は綺麗な笑みで固まっているのに、まるで目が笑っておらず、己の失言に気づいたダグラスは、背中に冷たい汗が流れたのがわかった。
「ち、ちがう! いや、違わないけど、いやっ、違う! 手を出したわけじゃない!」
何を思い出したのか、耳の後ろが赤くなっている。鉄仮面を装っている時も、知る人ぞ知る彼の弱点だ。あからさまに焦った様子は肯定していると言っているようなものである。
「へ~…性別がわかるほど見たことは、否定しないんだ」
「これは早々に嫁取りの準備を進めとかないと。いや、孫に会える日も早いんじゃないか?」
二人は楽しそうに話を進めていく。あきらかにからかわれているのだが、さらりと流せるような内容でもない。
「だから、違うっ! 凍傷になりかけてたから、濡れた服を脱がしただけだ。断じて意識のある相手の服を脱がしたわけじゃない!」
「意識のない相手の方が、問題あるんじゃない?」
「なっ」
「わかった、わかった。ダグラス落ち着いて。ヒューもそれくらいにしてあげよう。そうか、人助けをしたんだね。偉いなぁ、ダグラス」
「………全く嬉しくない。俺を何歳だと思ってるんだ?」
「ちえっ、面白かったのに。叔父上は過保護だなぁ」
「ヒュー様、…ほどほどにしないと嫌われますよ」
パットの冷たい声をまるっと無視して、ヒューバードは何食わぬ顔で本を覗き込んだ。
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