書物庫
(39)書物庫
「精霊の類は伝承としていくつもあるけど、現実の出来事とは思われてないのが一般的だ。証人も証拠もないからね。だけど、昔は精霊を見たという老人も、町に一人や二人居たもんさ。書かれた時代も人も国も違うのに、そのどれも共通点があったりするのも実に興味深い」
ダグラスもミリアの事がなければ、精霊だのなんだの、おとぎ話の一つと考えていた一人だ。実際に説明つかない事象を目にした今も、全面的に受け入れているかと言えば、まだ疑う部分も残っている。だが、現実に一人と一匹が姿を消した。それは揺るぎない事実だ。
「僕は合理主義者だけど、見えないからってすべてを否定している訳じゃない。最高位の魔力を駆使したとしても説明のつかないものを、おとぎ話だと、頭から認めないのは愚か者のすることだ」
おとぎ話だろうとなんだろうと、彼らに関する情報なら残さず手にいれたいし、そのために皇都へ戻って来た。ダグラスは武を優先した結果、必要最小限の学問しか修めていない。まさかこの年になって、もっと勉強しておけばよかったと思う日が来るとは思わなかった。
それに比べて、皇子であるヒューバードはまさに文武両道の人だ。皇帝の座に就く前は言うまでもなく、頂点に君臨した後も彼の知識量は誰よりも多く、その判断は迷いがない。皇都へ帰って来た一番の理由は、彼の意見を仰ぎたかったのもある。
「それにしても、記憶が昔すぎてさすがに曖昧だ。書物庫へ行こう」
ヒューバードと書物庫を目指す。後ろからパットと護衛が着いてきた。書物庫の鍵を開けると護衛は入口外に立った。いつもの定位置なのだろう。
書物庫の奥、鍵がかかった扉の中に、皇族専用の禁書が収蔵されており、そこへ入る時はいつも人払いをする。今朝は早朝なので書庫番も出仕前だ。ヒューバードはダグラスを手招きすると、護衛を残して書物庫の扉を閉めた。そのまままっすぐ奥の扉へ向かう。
小さな扉の奥はこじんまりとしているが、思っていたよりも蔵書量が多かった。棚がびっしりと壁を取り囲み、中央に机とソファーが置かれているのが見える。
パットが魔道具のランプを付けてまわる。火を使わないランプで、ここのような火気厳禁の場所で使われている。貴重な禁書を直射日光から守るためだろう、窓がなかった。
「表の書庫の方にも精霊に関する書物はたくさんあるけど、確か禁書の方に面白い事を書いていた本があったはずだ。あれは、どこだったかなぁ」
「……えーっと、俺も入っていいのか?」
入口で尻込みするダグラスに、ヒューバードは胡乱な目を向けた。
「ダグ、もう忘れちゃったの? 君、れっきとした皇族だよね? 第一、パットも一緒だろ。一応表向きは皇族専用になってるから、ここへ来る時は人払いをするけど、つまりは入る人間を統制しているだけだ。いいから、早く入って。この中から見つけないといけないんだから、目は多い方がいい」
「――それなら、僕も参加していいかな」
「叔父上!」
いつからそこに居たのか、オーエンが小部屋の入り口に立っていた。
「と、父さん…」
「ダグラス、お帰り。しばらくぶりだね。君が帰って来たって聞いたもんだから、来ちゃった」
「来ちゃった、じゃないですよ…。叔父上、ちょっと急いでるので手伝いなら許可しますが、おしゃべりに来たのならご退場いただきますよ」
「もちろん、手伝いに来たんだよ。精霊の記述を探すんだろ。だったら、こっちだ」
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