未知の世界
(38)未知の世界
「――なるほど。現れた時とよく似た光の柱が見えて、その子とアッシュが姿を消したと」
しばらくして、パットが各所への指示を終わらせて戻って来た。出来る補佐官は、片手で摘まめる朝食を携えていた。ご丁寧に魔力回復薬も用意されている。もちろん、ダグラス用である。
まだ残り魔力が人並み以上あったとしても、大きな術式は体への負担も少なくない。これがダグラスでなければ、動き回るのも辛い疲労感に襲われていただろう。
通常なら十分な睡眠で回復するが、今は手っ取り早く回復させておいた方が良いと判断されたようだ。それらをテーブルに置き、それぞれが口に運びながら話を進めている。ダグラスも少し落ち着いたのか、勧められるまま大人しく口にしていた。
「陣の発動時も光るよね。それとは違うのかい?」
「まるで別物だな。明るさが違いすぎる。まともに目が開けていられないくらい光っていた。あと、魔法陣はほのかに青白く光るが、それはほぼ白一色だった」
「なるほどね」
ヒューバードは甘く味付けられた鶏肉が挟まれたパンを、一口で口に放り込んだ。これまで口にした四つ共、種類は違うがすべて肉入りである。パットが素知らぬ顔をして、野菜がたっぷり挟まれた物をヒューバードの前にそっと置いた。彼は目を閉じて考えこんでいて気が付いていない。
「光の場所は木の向こうにはっきりと見えていた。場所は間違えていない。木桶の横にアッシュの足跡があったし、そこだけ掃き清められたみたいに丸く円になっていたのも不自然だ」
「んー、そのミリアちゃんだっけ? 彼女のここへ来る前の経歴は一旦置いておこう、さすがに聞いた事がない。そんな事あるんだな…」
目を開けたヒューバードが、目の前のパンを無造作に口に放り込む。数回咀嚼して顔をしかめた所へ、パットがすかさず淹れたてのお茶を目の前に差し出した。素直にそれを一口飲んでから、ヒューバードが口を開いた。
「ただ、光の柱の現象は、昔読んだ書物に似たような記述があったと思う。円い痕もどこかで見た気がする。……精霊、妖精、どちらにせよ人外の力だと考える方が、彼女がやって来た経緯からして、可能性高いと思うな」
「こちらから世界を渡ることは可能だろうか」
「どうだろうね。過去に消えた人間はたくさんいるみたいだけど、世界を渡ってまたこちらに帰って来た人間ってのは、少なくとも本では見た記憶がない」
「ですが、記録が残っているということは、帰ってきた人物がいるってことなのでは?」
「そもそもここに書かれた内容が、真実であるか確かめるすべがないんだけどね。まぁ、パットの意見も一理あるかな。書かれていたことが真実だとしたら、世界を渡って帰ってきた人間が書いたってことになるね」
「確証はないが、疑わしいものはあるということか」
「そうだね。それにしても精霊かぁ。ミリアちゃんの存在から絡んでいるとなると、一筋縄じゃいかない相手だよ。ダグは神に近い彼らと彼女を取り合うのかい? その覚悟はあるの?」
ダグラスは膝に置いた拳をぐっと握りこんだ。
「ミリアが、…彼女が何も言わずに姿を消すはずがない。それくらいは短い付き合いでもわかる。事故にせよ、意図した計画にせよ、あいつが望んで行ったとは思えない」
「何かに巻き込まれたって可能性もあるか」
ヒューバードが別の可能性を思案する間も、ダグラスはじっとテーブルに視線を落としていた。しばらくして、口を開いた。
「俺はあいつが…笑って過ごせるようにしてやりたい。それだけだ」
「………」
(それは、ほとんど愛の告白と同義だって気が付いていないんだろうな、こいつは)
ヒューバードは口元だけで笑うと、可愛い弟の気持ちを汲んで立ち上がった。そこでようやくダグラスも顔を上げた。
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