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ダグラス帰城する

 

 (37)ダグラス帰城する


 皇城に設けられた陣に夜が明けきらない早朝、ダグラスとキーヴァが降り立ったのは、すぐにヒューバードの執務室に知らせが届けられた。



「――ダグラスが陣に現れた?」


 夜更け遅くまで政務をしていたヒューバードは、数時間前に寝床にもぐりこんだばかりだ。それでもさっと身なりを整えると伝令を迎え入れた。隣室で控えている近侍が急いでカーテンを開けていく。すぐに完璧な服装でパットが現れた。その後ろから目覚めの熱いティーセットのワゴンを引く女官が見える。


「はい、ケント隊長自ら敷いた陣を起点にされて、つい先ほど帰城されました! 陛下との面談を希望されておられます!」


 城壁近くにある陣の見張り兵が、紅潮した様子でヒューバードに進言する。彼らが常に守る陣は、予告なしに陣が発動する事は無く、さらに外郭近くの警備兵が皇帝の執務室へこうしてやって来ることも希少である。


 皇帝陛下に忠誠を誓った兵の多くは、皇国の英雄ヒューバードに心酔している。ヒューバードも彼らの働きに応じて正しく評価をし、気さくな態度で接している。末端の兵士にしてみれば雲上人の部屋に、お役目を持って足を運んだのだ。興奮するなという方が無理である。


 ちなみにキーヴァは陣の見張り小屋で預かってもらっている。今頃は腹いっぱい飼葉をもらっているだろう。



「わかった。心得ているとは思うけど、この事は口外禁止だよ。君の同僚以外で事情を知る者は居ないよね? で、彼は今どこにいるの?」

「ここに居ます」

 その声に部屋の中の全員が振り返った。旅装に身を包んだダグラスが扉の前に立っていた。


「ダグラス!」

「申し訳ありません、許可を貰う前に来てしまいました。一応気をつけましたが早朝ですので、陛下の部屋の前の護衛以外に姿を見られてはいません」

「いいさ、手間が省けた。パット、陣の方の後始末と午前中の予定の調整を頼む。君、名前は?」


「はっ。ライアン・ノップラーと申します!」

「ライアン、伝達ありがとう。ダグラスが帰った事はこの部屋を出たら忘れてくれる?」

「はっ!」

「うん、国防の一端を担う重要な場所だ。これからも頼むよ」

「あ、ありがたきお言葉…、はいっ。より一層精進いたします!」

「うん、よろしく。ライアン」


 ヒューバードがライアンを(たら)し込んでいる間に、パットがてきぱきと指示をしていく。すでに朝日は昇ったが、調理場担当以外の者はようやく起き出す頃だ。内情を知る男だからこそ、この時間の帰城なのだろう。


 部屋の入り口近くに立ったままのダグラスが、口を開いた。


「陛下、人払いをお願いできますか」

「…わかった。聞こえたよね。よろしく」


 入口に立っていた警護の二人が廊下に出ていく。広い執務室はヒューバードとダグラスの二人きりになった。



「それで? わざわざ陣を描いて飛んで戻って来るなんて、何があったんだい。君が保護したっていう女の子はどうしたの。部屋を用意してほしいなんて意味深な知らせをよこしたくせに、なんで君一人なのかな?」


 転移魔法は大きな効果をもたらすが、体にかかる負担も大きい。魔力値が二千を超えるダグラスですら、半分近い魔力を持っていかれるのだ。安易に普段使いするような魔法ではない。目の前で立ったままの従弟の表情は硬いままで、状況だけでも緊急事態だとわかる。



「彼女が、ミリアが消えた。アッシュも一緒だ」

「……消えた? どういうこと?」


 ダグラスは眉根をきつく寄せると、小さく息を吐いた。その唇がほんの少し震えたのをヒューバードは見逃さなかった。自分よりも大きな体をした従弟の肩を叩いて、ソファーに座るよう促した。自ら用意されていたティーセットでお茶をカップにそそぎ、彼の前に置いた。そしてダグラスの向かいに座ると、顔を俯かせている彼に言った。



「まあ、まずは飲んだら? 適当に淹れたけど飲めるだろ。君、酷い顔してるよ。それ飲んだら、最初から説明してくれる? 状況を判断するにも、事情がわからないと動けない。君が女の子を保護したってことしか僕は知らないんだからさ」


「……あまり時間をかけたくない」

「わかってるよ。だから、要点をかいつまんでよろしく」


 ヒューバードはにっこりと笑った。




読んで頂いてありがとうございます!

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