光の柱
(33) 光の柱
太陽が地面に沈むより少し早い時間、ダグラスはキーヴァと山小屋へ戻ってきていた。小屋から少し離れた柔らかそうな草の生える場所へキーヴァを繋ぎ、たてがみをひとしきり撫でてから小屋へと足を向けた。
「ん?」
(人の気配がない?)
すでに夕暮れが迫っている時間帯なのに、そばの木の枝にはミリアが干したのであろう毛布が吊られている。開かれた窓から見える薄暗い小屋の中に灯りが付いていない。
ダグラスは次の瞬間、手に持った薪をその場へ捨てると小屋へと駆けだしていた。扉に手を掛け、大きく開け放った。小屋の中は見渡すまでもない。そこに誰もいなかった。
「どういうことだ…」
己の鼓動がやけにうるさく聞こえる。目だけは部屋の隅まで見回し、隠れられる場所を探すが、小さな山小屋にそんな場所などない。床の埃は掃き清められており、ミリアの痕跡はちゃんと残っている。
「アッシュ…、アッシュ!」
アッシュはミリアの傍を絶対に離れない。そのアッシュも見当たらないなら、ミリアはここには居ないということになる。
「くそ、いったいどこに…」
その時、床の上に無造作に残された雑巾が目に入る。かがんでそれを手に取る。ただの薄汚れた乾いた雑巾だ。山小屋に置いてあった物だろう。それをぐっと握りこんで考えを巡らせる。
(暖炉に火が付いていない、まだ掃除の途中だった? ミリアなら、頼まれた事を途中で放り出さないはず……)
ダグラスは、手の中の乾いた雑巾を見た後、はっとして顔を上げる。
「あいつまさか、水を汲みに?」
ダグラスは乱暴に扉を閉めて外へ飛び出した。が、すぐに戻ってきて、小さな暖炉にすばやく火をくべ、備え付けのランプにも火をつけると窓際に置いた。
(あいつが戻ってきた時、灯りが目印になる)
火をつけるとすぐに外へ出て、繋いだばかりのキーヴァの元へ走った。
「キーヴァ、ミリア達が居ない。お前も一緒に気配を探ってくれ」
ゆったり草を食んでいたキーヴァは、目を丸くしてすぐに鼻息を荒くいなないた。ミリアの話によると、ほとんどの生き物は人の言葉をおおよそ理解できるのだという。キーヴァならダグラスの言葉を、ほぼ正確に読み取ってくれるはずだ。
「行こう。おそらくアッシュと沢に向かったんだ。すれ違っていないから、別の場所から降りたに違いない」
沢へ降りる道は何も一つではない。ダグラスはキーヴァを伴っていたので比較的広い道を行ったが、小動物の通る道ならそれこそ無数にある。そのどれかを使ったのだろう。ひらりとキーヴァに跨ると、ダグラスはすぐに鞍から腰を上げた。
「はぁっ!」
大きく前足を掲げると、キーヴァは全速力で駆けだした。その二人の後ろでは今まさに陽が沈もうとしていた。
「直に陽が暮れる。その前に見つけないと。頼む、キーヴァ」
「ヒヒーン!」
今帰って来たばかりの道を引き返し、ダグラスは必死に目を凝らす。
(持たせてある魔玉石は割られていない。少なくともミリアに危険が及んではいない)
本気のキーヴァの足なら、沢まではそう時間がかからない。そう思った時、少し先に眩しいほどの白い光が出現した。
「なにっ!?」
かすかに犬の吠える声が聞こえた気がした。
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