森の迂回路
(29)森の迂回路
ダグラスとミリアの二人旅は、いたって順調だ。ミリアは、今日もダグラスの前にちょこんと座っている。馬に乗るのはずいぶん慣れたが、いかんせん彼女の足がどこにも届かないので、不安定さは中々改善しなかった。
幾度も落ちそうになったので、ダグラスが片手でミリアを抱え込む横乗りスタイルに落ち着いた。それも慣れてしまえばそれが二人乗りの定位置になった。
「そろそろ小屋がある頃だと思うが」
広大な森もまったく人の手が入っていないわけではない。古くから使われた森越えルートは、いくつかの施設が設けられていた。このルートの為に整備された、旅人のための山小屋がいくつかあるという。
よく見ないとわからないが、森には確かに道らしきものが存在していた。もちろん、雪が積もるとまったくわからなくなるので、冬場は閉ざされる道でもある。
その山小屋は誰でも使うことができ、昔ダグラスが森で迷子になった時、迷い込んだ先に小さな山小屋があり、そこには先客がいた。
無事に暖かい部屋で夜を越した少年は、親切な旅人に山小屋の意味とルールも教わり、家への方向も教わった。少年は意気揚々と笑顔で帰宅すると、赤い目をした母親に、それはこっぴどく怒られた思い出もセットの記憶だ。
今は旅人のほとんどが、多少遠回りでも大きな街道を選ぶ。馬車道が整備され、一日進める距離ごとに宿場があるからだ。昔は荷馬車を狙う盗賊が出る危険もはらんでいたが、ヒューバードの治世になり、各地に兵が配備されると盗賊は淘汰されてゆき、安全に行き来できる街道になった。それ以来、めったに森のルートは使われなくなったと聞く。
「ダグラスの言った通りだわ! あそこに山小屋があるわ」
「ああ。さて、中は使える状態か」
突如現れた小さな小屋は、壁の半分が蔦で覆われており、年季を感じる造りだ。それでも、ここまで野宿してきた二人には、屋根があるだけでも大違いである。
「よっと」
キーヴァを止めると、ダグラスはさっと降りて、ミリアを抱えて降ろす。すぐにアッシュがミリアの隣に座り、彼女の手を下から救い上げて自身の頭に乗せた。撫でて欲しい時の催促だ。
「アッシュ、お疲れ様。毎日走って着いてきてえらいわ」
「わふっ」
もっと褒めてと言わんばかりに、頭を擦り付けている。ミリアも心得たもので両手を使って頭全体をわしゃわしゃと撫でまわしている。
デレデレのアッシュだが、本来の彼は、森におけるヒエラルキーの頂点近くに分類される種族だ。野生動物にとって上下関係は絶対で、地上の生き物で彼に勝てるのはクマくらいだろう。そして案外クマは臆病なので、自分から近づいてはこない。
ちなみに空の王者は言わずもがな猛禽類であり、つまりハリーがそれにあたる。陸と空の王者を虜にするミリアがどれだけすごいか、当人はまるで自覚がない。
アッシュを撫でまわすそのミリアの手首には、小さな石が付いた革紐がまかれていた。魔道具である。
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