出立
(28)出立
「さあ、行くか」
「はいっ」
二人はキーヴァに跨り、家に背を向けて歩き始めた。今度はもちろんアッシュも一緒だ。狼の血を引くアッシュはかなり速く走れるが、キーヴァを早駆けさせるつもりはないので、十分アッシュにもついて来れるだろう。そう急ぐ旅でもないし、何よりミリアを連れている。
ハリーは自由に飛んで、二人が皇都に着くころに合わせて皇都で落ち合うのだと言う。ミリアがその賢さに驚きの声を上げると、少し違うとダグラスが説明する。
「俺らが着く日がわかるんじゃなくて、今も付かず離れず近くを飛んで着いて来ているんだ」
「え、そうなの?」
「ああ、呼んだらすぐ来るぞ。呼んでみるか?」
「いいわ。用もないのに呼んだらハリーに悪いもの」
「あいつは喜んで来ると思うがな…」
ある日、ハリーにミリアを会わせたら、案の定すっかり気に入られた。呼んでもいないのに次の日、ミリアにネズミを献上しに来たほどだ。
(そういえばハリーはオスだったな…)
嫁にでもしようと思ったのだろうか。さすがの彼女も顔を引きつらせて、なんとか説得してお持ち帰り頂いていたので、ハリーの貢ぎ物作戦は失敗に終わっている。
(もう、生き物全般、ミリアを好きなんじゃないか?)
皇都でダグラスに少しでも取り入ろうと、愛馬であるキーヴァのご機嫌を取りにきては、ものの見事に撃沈していた女共を思い出す。機嫌よくミリアを乗せるキーヴァを見たら、と想像してみた。
(お高くとまった女共がどんな顔をするか、見物だな)
一人で想像して腹黒い笑みをこぼしていると、ミリアが不思議そうに見上げていた。
森の道を選んだのは、余計な負担をかけずにミリアの経験値を上げる為だ。皇都に近くなるとどうしても街道を行くしかないので、旅の最初は気楽に過ごせる森がいいと総合的に判断した。
こののんびりとした森の街道を旅する間は、休憩時と夜をミリアの魔力制御の練習にあてるつもりだ。人気のない森は魔力制御練習に最適である。
大きな木が乱立する場所を抜け、見晴らしの良い高台に出た。ミリアが森の家がある方を振り返って見る。寂しそうに呟いた。
「もう、家が見えないわ」
「木に囲まれているからな。だいたい、あの辺りだ」
「また来られる?」
「苦労して屋根を張り替えたんだ。このまま放置したら、俺の苦労が報われない」
「確かにそうだわ! じゃあ、…また連れてきてくれる?」
「……ああ。そうだな。また来よう」
一人で過ごしていた最初のひと月あまりは、ここで過ごすのはこれが最後だという気持ちでいた。だから家にも手を加える気はなかったのだ。
(また来ようと、思えるとはな)
最後にもう一度小屋のあった方を見て、また前を向いた。
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