母の想い 2
(26) 母の想い 2
いつも通りに床に就いた夜、突然刺客が現れた。寝巻のまま二人で森へ逃げたがすぐに追い付かれ、ダグラスを庇った母は凶刃に倒れたのだ。ダグラスは逃げるのに必死で気づかなかったが、その時親子を密かに警護していた者が実は二人その場に居た。だが対する刺客は十人。一人が五人以上を相手する不利な状況の一瞬の隙をつかれ、その内の一人が親子に刃を向けた。
その母親の最期の言葉に従い、ダグラスはすでに大きな体躯をしていたアッシュと森の中を必死に逃げた。走り続けてついに力尽き倒れていた所を、ヒューバードに助けられた。ダグラスが次に目を覚ました時は、すでに皇都だった。おそらく円を使ったのだとわかったのは、大人になってからだ。
皇都へ来たばかりの彼は、森での暮らしを思い浮かべただけで、呼吸が苦しくなるほど情緒不安定だった。記憶に蓋をすることで、どうにか前を向くことができた。そうして彼は新しい生活をようやく受け入れることができたのだ。
それ以来、目の前の事をがむしゃらにこなしてここまで来た。今の今までペンダントのことも、記憶の彼方にしまい込んでいた。
(……殺される予感が、あったのかもしれない)
当時は理解できなかった事も、今では言葉の裏に隠された意味までわかる。ぐっと目を瞑ったダグラスを現実に引き戻したのは、ミリアの声だった。
「――ラス…、ダグラス! 大丈夫?」
「……ああ」
目を開けた先には心配そうに見上げるミリアと、その手の中には確かにあの時見たペンダントがある。
(そうだ、あの日……置き場に困ってベッドの下に隠したんだ)
子供らしい安直な隠し場所だ。それゆえに、奪われることも踏みつけられることもなく、ひっそりとそこにあったのだ。
「大丈夫? ごめんね、私てっきり」
「いや…、確かに母親の形見の品だ。礼を言う、ありがとう」
「偶然見つけただけだから。でもよかった」
ほっとしたのか、ミリアが小さく笑う。全く似ていないのに、その笑顔が母親の笑顔に重なって見えた。ぐっと瞼の奥が熱くなったダグラスは、その顔を見られまいと小さな体を引き寄せた。
「ダグ?」
「すまない…少しだけこのまま」
「……うん」
少しだけ語尾が震えてしまった。ダグラスはそのまま小さな体を、彼の両腕の中に閉じ込める。ダグラスはきつく目を瞑りミリアの頭に顔を伏せた。
「え、これ私が付けるの?」
「ああ、俺の首には小さすぎるし、女物だ。荷物に入れるより、お前が身に付けていく方が安心できる」
「でも、これ大切な物でしょう?」
「だからだ。ダメか?」
「……わかった。大事に付けるね」
ミリアは戸惑った顔をしつつも、了承した。彼女の細い首に腕を回してペンダントを付ける。金鎖の先には小さな翡翠が付いていた。中に傷があるのか、少し揺れるとほのかな煌めきが生まれる。その色は、偶然にもミリアの瞳の色と同じだった。
(偶然か必然か。何もかも、仕組まれているみたいだ)
「よく似合ってる」
「すごく綺麗…」
自分の胸元で小さく光るペンダントを見て、ミリアは嬉しそうだった。
中々物語が進みませんが、ちょっとずつ先へ向かっています!




