表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/67

母の想い 1

 

  (25) 母の想い 1



 時は戻り、現在の森である。肌を刺す寒さの日が少なくなり、もう随分と暖かい日が多くなった。森に残っている雪もあと数日で消えるだろう。気が付けばダグラスはこの森で三ヶ月を過ごしていた。ミリアが来てからは二ヶ月だ。



「荷物はこれで最後か」

「はい。これで終わり」


 屋根を全面張り替え終えた三日後、二人は旅装に身を包んでいた。今日、皇都へ向けて出発する。円を使わずあえて旅をすることを選んだ。色々理由はあるが、大きな理由はミリアの経験値を上げるためだ。幸いにも無理やり取らされた休暇はまだ半分ある。のんびり旅をしても余裕がある。



(屋根と気になる箇所の補修もした。これであと数年は持つだろう)


 母親と過ごした唯一の思い出の残る家だ。すでに家の中に物は無く、元々少なかった家財の消えた小さな家は、やけにガランとして少し広く見える。



 悲しい記憶が同居するこの場所に、足を運ぶまで十年以上かかった。来ようと思えばおそらくいつでも来られただろう。ただ、来ようと思わなかっただけで。


 いざ訪れてみると、思い出されるのは意外にも楽しかった日々だった。辛くないと言えば嘘になるが、それでも来て良かったと思えるほどには、彼にとってある程度区切りがついていたのだろう。


「途中から感傷に浸る暇もなかったしな」

「何か言った?」


「いや。もういいなら扉を塞ぐぞ」

「あ! そうだ。ちょっと待って」

「忘れ物か?」


 ミリアはパタパタと室内に戻っていく。すぐに戻ってきた彼女の手には小さなペンダントが握られていた。それを見たダグラスが目を見開いた。



「――それ」

「これ、ダグラスのお母さんのじゃない? 昨日、掃除をしてたらベッドのマットの下で見つけたの」


 彼女の手の平に置かれた小さなペンダントは、いつか見たままの姿でそこにあった。ダグラスの頭の中に、一気にある日の記憶が(よみがえ)ってくる。





『ダグ、私の可愛いダグ。ねえ、あなたが大きくなって守ってあげたい女の子ができたら、これを渡してあげて欲しいの』

『なに、これ?』


『ペンダントよ。こうして首にかけて使うの。……これはね、あなたのおばあさんから貰ったの。つまり私のお母さんね。お母さんはそのまたお母さんから。代々娘に受け継いできた物よ。でも私はあなたしかいないし、きっと妹もできないわ。だからあなたのお嫁さんに渡してあげて』

『ぼく、お嫁さんいないよ?』

『ふふ。ダグがずーっと大きくなって、すっごく好きな人ができたら、の話よ』

『かあさんのこと、大好きだよ』


『まぁ! 私もダグが大好きよ! ね、ちゃんと覚えていてね。そんなに高い物じゃないけど、もうこれしか残ってないの…』

『かあさん、どうしたの? 大丈夫?』

『…大丈夫。ちょっと昔を思い出しちゃっただけ。まだ先の話だけど、忘れないでくれると嬉しいな』

『うん、わかった。でも、かあさんより大好きな人なんて、できるのかなぁ』


『もう、なんて可愛いの! 大丈夫、大きくなったらあなたもきっと出会うわ。いい? ダグラス、この先あなたの思い通りにならない事がきっと起こるわ。……ごめんね、それは私達のせい。だけど、だからこそあなたも本当に大好きな人と一緒になってほしいの。わかる?』

『うーん、よくわかんないけどわかった』

『ほんとにわかってる? ま、まだまだ先の話だけどね』


『ぼく、大きくなったらかあさんを守る騎士になるんだ。だからすぐ大きくなるよ、それまで待っててね』

『それは楽しみね! ……ずっと、待ってるね』


 泣き笑いのような顔でほほ笑む母親の姿が、浮かんでは消えていく。母親に守られて、無邪気に将来の夢を語れた頃。この後すぐだった。母親が殺されたのは。




読んで頂いて嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ