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閑話(2) 寂れた皇宮にて・前

 

  閑話(2) 寂れた皇宮にて・前



 ダグラスが長期休暇に旅立った日、オーエンの皇宮にヒューバードがおしかけてきた。勝手に書斎のソファーにどっかり座るとすぐに口を開いた。



『本当の狙いは何なんですか? 叔父上』

(やぶ)から棒になんだい、ヒュー』

『はぐらかそうとしてもダメですよ。僕は騙されませんからね。ダグを半年間も皇都から追い払った理由があるんでしょ』


『うーん、やっぱりヒューはダグより数倍は腹黒いよねー。僕の息子は彼女に似て心根が素直だ』

『なんとでも言えばいいですよ。腹黒くなくて皇帝なんて務まるもんか。話題をすり替えようとしても無駄です。さっさと白状してください。どうせ、余命わずかってのも嘘でしょ?』


 ふっと笑ったオーエンは、実に嬉しそうだった。大きな机からヒューバードの前の一人掛けソファーに移動して、長い髪を後へ払って腰を下ろした。この髪はアイーシャが亡くなった日から切っていないと言う。以前のオーエンを知る者でも一瞬誰だかわからないだろう。



『ダグラスってさ、ほんと真面目な良い子だよね。決して恵まれた環境じゃなかったのに、表向きは鉄仮面装っているけど、中身は真っ直ぐで優しくてそして強い。僕の血、入ってるのかなぁ~、アイーシャに似てくれてよかったけど』


 そうは言うが、二人の立ち姿は驚くほど似ている。昔のオーエンを知る者なら連想してしまいそうなくらいだ。



(そうならないように、叔父上は気を使っていたけどね)


『さっさと教えてください。こう見えて僕多忙なもんで時間が有り余っている訳じゃないんですよ』


 部屋の隅に控える補佐官パットが、鼻で笑う音がした。ヒューバードはじろりと(にら)んだが、パットはどこ吹く風で既に澄ました顔をして立っている。



『ヒューも把握しているだろ。あの女の動き』


 がらりと声のトーンを変えて紡がれた言葉は、隠しきれない殺意が見え隠れてしていた。



(いよいよ、本気を出すのか)


 ヒューバードは武者ぶるいのような感覚に、まっすぐオーエンを見つめて頷いた。



『ええ、もちろん』

『ようやくだ。腐った輩はこの国に必要ない。……十年前に君が事を起こした時どうして闇に紛れて消さなかったのかと、どれだけ悔やんだことか』


『……これ以上国を荒れさせたくなかったんでしょう? 国内だけで僕らは手一杯だった。その上国外からの圧力が加われば、この国は立ち直る時間を稼げないから』


 ヒューバードの言葉にオーエンは笑みを返すだけだった。静かに控えるパットは表情を一切変えていない。腹の内は同じだろう。



『その前に、叔父上。ちゃんと答えてください』

『ん?』

『あなた、元気ですよね? 弱々しそうに見せていますが、実は鍛錬も続けているんじゃないですか? 六十でその体、もう色々と隠しきれていませんよ。それでよくダグを騙せたもんだ』


 ダグラスの前ではずっと、病人らしい立ち振る舞いをしていたようだが、今、目の前に座る人物は背筋がまっすぐ伸び、(まく)った袖から見える腕は筋力(たくま)しく、衰えはどこにもない。



『失礼だな、僕はまだ五十九歳だよ』

『一つしか変わらないだろ!』

『いや、そこは大きく違うと思うぞ』

『いいから! 答えてください』


 額に手をやり、頭が痛そうにするヒューバードを眺め、オーエンは実に魅惑的な笑顔を見せた。往年の頃を彷彿とさせる、力強く自信にあふれた笑みだ。


閑話ですが、続きます!

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