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策士

 

  (24)  策士


『…………は?』

『うん、それがいい。よし、善は急げだ』


 そう言うが早いか、さっさと自分だけ部屋に戻っていく。動くのも辛い病人はどこへ行ったのか。その後ろ姿を、茫然と見送っていたダグラスは、遅れて我に返ると慌てて後を追った。


『いや、ちょっと待って! なぜそうなる!』



 宮に戻り大股で彼の姿を探すと、寝室の隣から声が聞こえる。部屋と部屋を繋ぐ扉を大きく開け放つと、机に座るオーエンが居た。隣の部屋は執務室によく似た造りの書斎だった。脇机に置いた魔道具で誰かと通信をしている。




『――うん、そう。よろしく。じゃ、また後で』

『父さん!』


 思わず口から出た呼び名にオーエンは、驚いた顔で振り返った。



『今、言う? それ。……でもいいね。もう一回呼んでくれる?』


 ダグラスは顔が熱くなるのを感じたが、ぎゅっと眉根を寄せて答えた。



『いいから、何をしていたのか、説明してください。………父さん』


 ニコニコと満足そうに笑うオーエンに、照れくささより嫌な予感がしてくる。




『ふふふ、いいねー。これは癖になりそうだ。……でも、説明も何も。明日からの休暇をもらっただけだよ。期間は半年。せっかくだから、あの家の様子でも見て来てよ。ついでに墓参りも行って来たら? あ、墓はウィローに作らせたんだ。知らなかっただろ? 彼女の隣は、君にも絶対譲らないからね。旅から戻ったら話を聞かせてよ? あ、もちろん、嫁探しも忘れずに。一緒に連れて帰ってくれていいからねー。孫…は半年じゃ無理だから、帰って来てからでいいよー。蜜月も必要だしね』



 開いた口が塞がらないとは、この事である。照れくささなど一瞬で吹き飛んだ。一拍遅れてダグラスの大きな声が響いた。


『はぁっ?! 休暇って、しかも半年!?』


『あれ、足らない? さすがに隊長だし、それ以上ってなるとちょっと根回ししないといけないから、すぐには無理だなぁ…。ちょっと待ってくれる? なんとかするよ』


『いやいやいやいやいや、半年もあったら十分だ! むしろ十分すぎるくらいだ! 問題はそこじゃない! どさくさに紛れて情報ぶっこみ過ぎだろ、あんた! 何が「隣は譲らないからー」だ! 誰がこの歳になって母親の隣を取り合うか、しかも墓の!』


『あんたって酷いなぁ、そこは「父さん」だろ。まあ、問題じゃないなら半年で決まりだね。僕も頑張るからさ、君も頑張ってよ』


『いや、ほんとに待ってくれ……、………え、決定? 今の短時間で? まさか、そんな簡単に長期休暇が取れる訳が…』

『ヒューバードは、快く承諾してくれたよ』

『嘘だ!!』

『えー、「父さん」を嘘つき呼ばわりするのは、ちょっと酷いんじゃない?』


 可愛く首を傾げているが、初老のおっさんである。その仕草に違和感がない分、可愛いを通り越して不気味だ。それにこの行動力、ヒューバードが師と仰ぐ理由がわかった気がする。



『君の小さい頃、ほんと可愛かった。女の子みたいでさ。もう一度あの感動を味わいたいなー。だから、嫁探し頑張ってね』


『………誰か嘘だと言ってくれ………』



 それまでの儚い病人ぶりがなんだったのかと思えるほどの行動力を見せたオーエンだったが、いくらなんでも急すぎる! とダグラスの猛抵抗でどうにか業務の引継ぎと後始末をする期間をもぎとった。彼の長期休暇は既に決定事項で、それから七日後、旅装に身を包んだダグラスは馬上の人となっていた。



『……帰ってきたら除隊とか、されて…ないよな…?』


 とてもこれから休暇を取ろうという顔ではなかったが、見送りに来てくれたヒューバードと補佐官のパット、同期入隊でもある副隊長に深く頭を下げる。



『不本意ながら、これより長期休暇を頂きます。ご迷惑をおかけしますが、留守の間よろしくお願いします』


「他の隊士が取りづらいから」という理由で、ヒューバードから長期休暇取得命令なるものを出されてしまった。もちろん、そんな理由は後付けだ。


 とはいえ、軍部入隊後一年経過した者から、ひと月ほどまとまった休みを取るのが普通で、二年目以降、一年に一回は長期休暇を取得できる。実家が遠い者でも帰省できるよう配慮されており、率先して取得するよう言われている。


 それを入隊以来一度も取っていなかったダグラスは(取る必要がなかったからだが)後輩が取得しづらくなると、言われてしまっては断れない。前例のない休暇取得命令だったが、軍の上層部にも二つ返事で了承され、もはやひとたまりもない。


 軍の総長などには、「これまで取って来なかった十年分まとめて、十ヶ月取得するか?」と提案されてしまい、丁重にお断りしたほどだ。副隊長なのに隊長の仕事も兼務させられる同期には、まったくもって頭が上がらない。美味い酒でも土産に買ってくると決めた。さらに円の使用まで申請してもいないのに許可が下り、仕方なく長期休暇を受け入れたのである。



 そうしてダグラスはアッシュとキーヴァ、ハリーを伴い森へと向かったのが秋の終わり、ミリアが森に降り立つひと月前、秋の終わりの事である。




次は閑話です!

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