元孤児の出自
(22) 元孤児の出自
『さて、それで君はどうするつもりだい?』
『どう、とは?』
『君の出自を公にするか、これまで通り孤高の狼を貫くか。僕は君が皇族の名乗りを上げると言うなら、協力は惜しまないよ』
『それ、わざわざ答える必要あるのか?』
『皇族らしく、ターナーを名乗るってことかい?』
『そっちじゃない! これまで通りってことだ!』
『怒るなよ、冗談だって』
『まったく、あなたの冗談はタチが悪いっ』
『ふふ、君は可愛いね。本当に弟だったらよかったのに』
ふっと柔らかい笑みを向けられると居心地が悪くなる。優しくされるのに慣れていない。照れ隠しに早口で反論する。
『とっくに成人した男に、可愛いはない』
『そうかな? そういやあの人さ、あんな成りしてるけどいい年なんだよね。アイーシャ様と出会った時、三十は軽く超えてたから、少なく見積もっても六十歳かな』
『ろ、六十!?』
せいぜい五十歳くらいだと思っていた。思わず母親との年齢差を計算してしまった。
(母さんの倍!?)
目を見開くダグラスに、ヒューバードは少々ずれた返事を返した。
『うん、皇族にしては長生きの方だよ』
ダグラスは二日前にオーエンから渡された指輪を、首元から取り出してヒューバードに見せた。
『あぁ、皇族の指輪だね。僕もあるよ。忌々しいことにアイツもね』
現皇帝のヒューバードには、同じ母から生まれた妹が二人いる。上の妹は数年前嫁に行き、末っ子のエマ皇女は今も皇城に住んでいる。さらに、第二皇妃キーラの子、第二皇子キリアンがいる。ヒューバードの腹違いの弟だ。
『オーエン様がこれを俺に渡した理由は…』
皮紐に通した指輪を手に取る。皇族の男子、皇位継承権が発生する子には父親から新たな紋章と共に指輪が送られる。将来、皇帝になった場合は玉璽と同じ意味を持つ。この小さな指輪は持ち主の身分の証明だけでなく、皇族として議会の決定権が付随している。
もちろん、皇帝が覆すことはできるが、その権利は貴族が持つそれよりずっと大きく重い。それを一軍人が持っていていいのか、という気持ちの方が今は大きい。
『それは君が考えることだよ。あとこれは僕の個人的な願いだけど、一度くらいは父上と呼んであげてほしいな。きっと馬鹿みたいに喜ぶと思う。君が生まれた時、本当に嬉しそうだったんだよ』
『……それは、もう少し時間が』
『わかってるよ。でも、これだけは知ってて。君は両親に望まれて生まれてきたんだ。君の本当の名前は、ダグラス・ゲーリック・ターナーだ。教会は守秘義務があるけど、本人が望めば正式な書類もちゃんと手に入る。一緒に居られた時間は短かったけど、本当に二人共、心から君を愛していた』
『………』
今さらだとは思う。だけど、やはり長年奥底にしまっていた想いはあった。だから、愛し合う両親から望まれて生まれたのだと聞かされると、知らずと熱がせりあがって来る。慌てて顔をうつむかせた。
『……はい』
そう答えるのが精いっぱいだった。ヒューバードは向かい側に座る彼の肩を軽く叩くと立ち上がった。ダグラスに兄弟は居ないが、一番近い存在は間違いなくヒューバードだ。
『さ、今日も呼ばれているんだろ。君を定時で上がらせないとこっちに苦情が来る。死んでるくせにうるさいんだ、叔父上は』
茶化して言う彼に自然と口角が上がる。袖口でぐいっと目尻を拭って、ダグラスも立ち上がった。
『精々、孝行させてもらいますよ。死人ですけど』
『そうだね。我儘な死人をよろしくね』
明るく笑ってヒューバードはベルを鳴らした。政務の時間だ。控えの間からパットが入って来る。ダグラスはさっと臣下の礼を取り、任務に戻るべく執務室を後にした。
もう少し過去話が続きます。




